30 卑しき黄金、輝く鉄 (2)
「うわあああ!! に、逃げろおおっ!!」
サンサドールの、ブレスの予備動作を見て。
冒険者たちが、より遠くへ逃げていく。
だが俺とアルメアは。
もちろん、逃げたりなんかしなかった。
討伐の報酬と、あとついでに町の平和のため。
目の前の邪竜を、正面からにらみつける。
筋骨ハゲが、逃げながらも声をかけてきた。
「お、おいお前ら、マジでやるつもりか!? 命がいくらあっても足りねえぞ!」
「金だっていくらあっても足りねえよ!」
俺は財布をひっくり返した。
残りの魔石を総ざらい。
オーガキングの魔石とあわせて、にぎりつぶす。
「てめえがゴミ呼ばわりした人間の力を見せてやる!
【再利用】!」
全部使って、魔力に変えた。
これでもう俺は、これ以上の支援ができなくなる。
「やっちまえ、アルメア!」
「うん!」
俺はアルメアの背中をたたいて。
その体に、気合と魔力を充填する。
総額120万ゴルド相当の、ほとばしる魔力。
それを受け、勢いよく飛び出すアルメア。
地面から鉄塊を突き出させては、それを足場に加速していく。
鉄矢のような速度。
額の宝玉を輝かせ、古竜など恐れることなく。
勇ましく果敢に、勇敢に、サンサドールへと迫る。
「カアッ!」
その接近を阻もうと、ブレスが吐きかけられる。
「【鉄の盾】!」
先ほどまでより、さらにぶ厚い鉄の盾。
魔力の奔流を、難なくせき止める。
止まらないアルメア。
サンサドールが、鉄魔法の射程内に入った。
「【鉄の槍】!」
呪文と同時に、何本もの槍が地面から伸びる。
とどまることなく伸び続け、20メートルほどの距離を躍進し、穂先を敵に届けた。
全弾命中。
が、それらはまったく刺さることなく。
鱗の障壁に受け流されてしまった。
消滅する槍。
「フホホホホ……面白い手品ぞ。
だが余の貴い黄金の鱗に対して、卑しい鉄ごときではのう。
……!?」
嘲笑が凍りついた。
アルメアの魔力が、大地を大きくめくり上げたからだ。
その土塊から生成されたのは、巨大な鉄塊。
もはや武器と呼ぶことすら、ためらわれるほどの。
全長にして10メートルを超える、鋼の尖塔のごとき剣!
「【鋼の剣】っ!!」
「ホヒョオオオオオッ!?」
袈裟掛けに繰り出される、長大な斬撃。
その重量が、古竜の巨体すら浮かせた。
たたらを踏んだ足が、ズズンと音を立てる。
「……き、貴様、なんだそれは!? 竜族とて、それほどの魔力を操るなぞ……!」
吐く言葉に、これまでの余裕がない。
アルメアの強さが、想定をはるかに超えているのだろう。
命中個所のメッキは、ごっそり消失していた。
地肌の鉛色が露出している。
あの【鋼の剣】は、普段の魔物討伐でも使ってはいた。
が、あれほどの威力を見るのは初めてだ。
魔力の大きさもあるだろうが。
マルトー爺さんの武器を見て、なにかしら得るところがあったのかもしれない。
態勢を戻そうとするサンサドール。
そこに、容赦ない追撃が降る。
「【鋼の剣】!! 【鋼の剣】っ!!」
「ホヒョオオオオオオオッ!?」
立て続けの斬撃。
古竜の図体では、かわしようがない。
一撃受けてはよろめき、ふらついている。
しかし、サンサドールも必死だ。
尾や腕など、まだ障壁が残っている部位で、器用に受け止めていた。
そうして時間を稼がれるうちに、せっかく斬りつけた鱗も、元の黄金色へと復元してしまう。
「……えええい、不敬ぞ!」
苦し紛れのブレス。
「【鉄の盾】!」
当然、そんなものは通用しない。
泡を食って、まわりを見渡すサンサドール。
「ひ、飛竜ども! あの小娘を引き裂け!」
口笛のような鳴き声で、指令を出した。
命じられたワイバーンが、アルメアへと殺到する。
だがその爪も牙も、鉄の守りを突破することはない。
返す大剣が、またサンサドールを斬りつけた。
「す、すげえ……! あの子、伝説の古竜相手に押してるぞ!」
「このまま勝てるんじゃないか!?」
「今度こそお願い! 勇者ならあたしたちを守ってよ!」
冒険者たちの、すがるような声。
ディオスの時と同じように。
勝手なように見えるが、無理もない。
サンサドールは本来、こんな田舎の冒険者が抗しうる相手じゃない。
彼らはもう、勇者に祈るしかないのだ。
……とはいえ、膠着状態である。
敵の攻撃は防げるものの。
こちらの攻撃も受け流される。
お互いに決め手を欠いた状態。
このまま続けても、じきにアルメアの魔力が尽きるだろう。
打破するアイデアが必要だと思った。
やつの動きを押さえつけ。
継続的なダメージを与えられるような、何か。
俺は、戦場にようやく追いついて。
下がったアルメアに声をかける。
「どうもまともな武器じゃダメそうだ。だから……」
耳打ち。
「うん……うん……。
ええっ!? ボク、そんな魔法試したことないよ!」
「剣を作るより難しいとは思う。だけど、アルメアならできるだろ?」
「……えへへ。
ソウマにそう言われちゃったら、できないなんて言えないよね!」
元気に笑って。
輝く瞳で、そう答えてくれた。
大地を蹴って、斬りかかるアルメア。
「だりゃああああっ!」
再びの剣戟。
隙をうかがう。
流れ自体は、終始アルメアが押している。
何度目かの切り上げが、サンサドールの腕を弾いた。
そこに左手から二刀目の、【鋼の剣】。
これが当たれば、大きく態勢を崩せるだろう。
そこから新魔法につなげて勝てる。
そこへ。
「ピュイイイッ!」
一匹のワイバーンが。
サンサドールをかばい、間に入った。
鱗と肉がアルメアの大剣を受けきる。
おまけにそのダメージで、ワイバーンが爆発した。
【鋼の剣】の過剰な威力が、体内の魔石を砕いたのか。
「くうっ……!」
アルメアは下がり、余波を避けた。
仕切り直し。
あと一息というところだったのに。
サンサドールは、命がけで守ってくれた配下の。
その立派な最後を見て。
「フホッ」
――ニタリと笑った。
いい考えを思いついた。
さも、そういう目をしながら。
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