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25 絢爛をまとう者

「来たぞ! ワイバーンだ!!」


 張り詰めた声が聞こえてきた。

 先行した、斥候役の冒険者たちだ。


 場所は、森に挟まれた街道。

 町から2時間ほどの地点。

 ギルドの情報どおりの位置だった。


 黒い粒にしか見えなかった敵影。

 それが近づくにつれ、ぐんぐん大きくなる。


 耳障りな奇声。

 人の身の丈をゆうに超える大きさ。

 強固な天然の鱗鎧(スケイルアーマー)

 数多の冒険者たちに恐れられる飛竜。

 ワイバーンの姿が見えてきた。


 あわてて動き出す、50名弱の冒険者たち。

 斥候役たちが弓を持って下がり。

 俺とアルメアをふくめた剣士たちが、前衛に立った。

 最後に後衛として、魔法使いたちが杖を構える。


 迎撃の態勢は整った。

 だが。


「うう……」


「なんでオレがこんなこと……」


「くそっ……くそっ……」


 おびえ。

 泣き言。

 悪態。

 そこかしこから聞こえるのは、そんな声ばかりだった。


 距離が近づき、後衛が魔法を撃ちはじめる。

 火、風、氷、土。

 色とりどりの、統一感のない攻撃。

 集中砲火を浴びた一体のワイバーンが、魔石を砕かれて爆裂した。


 その弾幕をくぐりぬけ。

 いよいよ目の前に、敵の群れが迫ってくる。


 俺は、ふところから魔石を取り出した。

 その値段は、なんと金貨5枚。

 すなわち50万ゴルド。

 一般人の月収の、倍以上に相当する大金だ。


 いつもの俺ならば、

 こんなお宝を使えと言われても、死ぬほど嫌がったことだろう。

 それはもう、おもちゃ屋で転げまわる幼児のごとく全力で。


 だがしかし、今日は使ってもいいのだ。


 竜種であるワイバーンは、皮から爪の先にいたるまで。

 その全身が、高額素材として売りさばくことができる。


 全身合わせて、1匹あたり30万!

 2匹で元が取れる!

 3匹で40万の儲け!

 4匹で70万! なんと一般人の月収と比べて、ええと……!


「ソウマ?」


「……おっと。悪い悪い」


 もたもたしてる俺に、アルメアが声をかけてきた。

 皮算用でトリップしてしまった。

 いつもの悪いクセだ。


 気を取り直し、集中する。

 お宝を消費する拒否感(魂の抵抗)を抑えこみ。

 俺だけの呪文を唱える。


「【再利用(リサイクル)】!」


 魔石は美しく砕け散って、魔力へと変換された。

 アルメアの背中に手を当てて……譲渡。


「アルメア、頼んだぞ!」


「うん! ソウマがいてくれたら百人力だよ!」


 アルメアは、冒険者たちの列を割り。

 勇ましく、その最前面へ。


「お、おい、嬢ちゃん!?」


 剣も持たないアルメアを、止めようとするハゲ。

 しかし、続く言葉を失った。

 アルメアの全身にみなぎる、魔力の輝き。


「【鎖鎌(チェーンサイズ)】っ!」


 気合一閃。

 巨大な鎌が弧を描く。


 先頭のワイバーンは、その爪も牙も届かせることなく。

 あっけなく首を落とされた。

 死して金貨を生む素材となった竜の体躯が、地に落ちる。


 コイーン!


 幻聴も聞こえた。


「「「……!?」」」


 あ然とするハゲと、冒険者たち。


 アルメアはそんな反応にかまうことなく。

 ただ前だけを見つめている。

 後続のワイバーンたちを、次々と屠っていく。


「たあーっ!」


 コイーン!


「でやあーっ!」


 コイーン!


 ああ。

 なんて貴い光景だろう。

 こうして突っ立ってるだけで、金貨が降り積もっていくなんて。

 墜落する地響きと悲鳴が、まるで天上の音楽のようだ。


 アルメアの戦う姿に、俺も冒険者たちも心を奪われる。


「なんだあの魔法は!? あんなの見たことねえぞ!」


「信じられない! ここにいる魔法使い全員より強いんじゃないの!?」


「こ、これが選ばれた勇者の強さなのか……」


「誰だよ、あの子が弱いなんて言ってたやつは!」


「す……すげえよ! すげえ!!」


 冒険者たち。

 そりゃもう大騒ぎだった。


 驚愕。

 畏れ。

 そして称賛。


 顔に生気が宿っていく。

 場の全員が、熱っぽい目でアルメアを見ていた。


「おい、俺たちもやるぞ!」


「そ、そうだな! これなら生きて帰れそうだ!」


「野郎ども! あの子を援護するぞ!」


「一気にワイバーンを追い払おうぜ!」


「うおおおー!」


 筋骨ハゲの突進。

 それを皮切りに、冒険者たちが雪崩を打つ。


 守りから攻めへ。

 ワイバーンの急襲を、前衛が弾き。

 中衛は弓を。

 後衛は魔法を。

 散発的だった遠距離攻撃が、密度を増して敵を押しはじめる。


 それを嫌がるワイバーンが、だんだん近寄ってこなくなり。

 アルメアの射程外で落とされていき……。


「ち、ちょっと待てっ!? ストップ!!」


「そうよ、これ以上は通行止めよ! さっさと巣に帰ればいいんだわ!」


「いいぞおめえら! その調子だ!」


「その調子じゃ困るんだが!?」


 冒険者たちの攻撃。

 それが、はっきりと敵を追い返しはじめていた。

 アルメアほどの火力を持ちあわせない彼らは。

 倒すのではなく、追い払おうとしている。


 なんてこった。

 アルメアの活躍が、連中に余計な火をつけてしまったのか。

 まだ俺は至上の音色を、1小節分しか聞いてないのに!


「見ろよ! ワイバーンどもが下がっていくぜ! ハハハハハ!」


 筋骨ハゲが笑った。


「ハハハハハ……」


 俺も笑うしかなかった。

 誰も責められない。

 強いて言うなら、俺の欲深さが悪いのか。

 俺以外、よろこびに沸く冒険者たち。


「……もー! こんなんじゃ見せしめになんないよ!」


 不満そうなのがもうひとりいた。

 魔物の血を見足りなくて、ぷんぷんとほっぺたをふくらませる勇者様。

 ていうかうちのパーティだけだった。

 まわりに怪訝な顔をされる俺たち。


 ともあれ、終わってしまったものはしかたない。

 経費を引いても、190万ゴルドは稼げたのだ。

 これでも上等な稼ぎとして、納得するしかないか……。


「しょうがないなあ。せめてこの8匹だけでも、腐り落ちるまで吊るしとくね」


「やめろっ!?」


「え……ダメなの……?」


「い、いやその」


 アルメアの上目づかい。

 心なしかうるんでいる。

 今回一番の功労者のその目に、俺はたじろいだ。


「ボク、がんばったのに……。

 ワイバーンに仲間の腐乱死体を見せつけて恐怖のどん底に叩きこむことだけが楽しみで、すっごくがんばったのに……」


「ええと。ほ、ほら、わざわざ吊るさなくても、さっきの殺戮ぶりでじゅうぶん脅迫できたんじゃないかな?

 それより売り払って装備を整えればだな、より高効率で衝撃的な虐殺がだな……」


 俺は必死に説得した。

 アルメアの好きそうな単語を交えながら。

 処刑。殲滅。鏖殺。断頭。生き地獄。

 俺は今生涯で最も、頭脳から物騒な語彙を絞り出していた。


 そんなことをしていると。


「おい、なんだあれは!?」


「で、でかいぞ!」


 ワイバーンが飛び去ったはずの方角。

 なにかが飛んできていた。


 俺も目をこらす。

 確かにでかい。

 伴っているワイバーンどもの、何倍だろうか。


「ワイバーンの変異種……じゃないよな」


 図体のわりに速い。

 冒険者たちが態勢を整える前に、そいつはなにかを吐いた。

 隕石と見まごうほどの、巨大な火球。


「うわあああああっ!?」


 恐慌。

 わっと全員が散る。

 着弾するブレス。

 その衝撃波が、あたりを地面ごと吹き飛ばした。

 アルメアの鉄のドームが、降りかかる瓦礫を防ぐ。


 木陰から様子を見る俺たち。

 やがて、ブレスを吐いた本人が舞い降りてきた。

 城壁のように長大な翼を、はばたかせながら。


「…………」


 冒険者たちが、呆けたようにそれを見上げている。

 俺もまた、その姿に目を奪われていた。


 竜だ。

 だがワイバーンとは、見た目からして格がちがう。

 こちらを見下ろす頭の高さは、15メートル以上あるだろうか。


 虹の光沢を放つ、金色の鱗。

 黄金の竜。


「飛竜どもが騒がしいと思えば……。

 フホホホ! これはまた活きのよいのが、ひのふのみ……!」


 目を細めてそう言った。

 妙にかん高い、男の声。


「こ、古竜じゃねえか、あれ……!?」


「聞いたことがあるぞ。百年前に西の帝国で暴れまわった、伝説の黄金竜……!」


「ほう、余を知っておるのか。虫けらにしては感心であるぞ」


 顕示欲を満たしてか。

 ニタリと笑う。


「余は貴く古き竜、“絢爛(けんらん)まとうサンサドール”!

 余の玉体を目にできた光栄に浴しながら、その命を捧げるがよいぞ!!」


 叫びが魔力をともない、大気をビリビリと震わせた。

 その威容に、冒険者たちが首をすくめる。


「じ、冗談じゃねえぞ、古竜だって……!?」


「ふざけんなよ……! こ、こんなの、勝てるわけねえじゃねえか……っ!」


「話が違いすぎるだろ! ボスはワイバーンの変異種じゃなかったのかよ!?」


 冒険者たちの戦意は、今度こそ消し飛んだ。

 屈強なはずの男たち。

 その顔は真っ青になり、泣いてるのまでいる。


 そして俺は、笑った。


「おいおいおいおい……ボスはワイバーンの変異種じゃなかったのかよ……!!」


 浮きたつ心のままに、立ちあがる。


 文字通り、黄金のかたまりのような敵。

 空飛ぶ金貨どころか、空飛ぶ金塊だ。

 あの鱗一枚でいくらになる?

 同じ重さの金貨より安い、などということはないだろう。

 全長から表面積を算出して……厚みを仮にこれくらいとすれば……アルメアと折半するとしても……。


「おいおいおい……10億ゴルド、今日で余裕で返せるんじゃないのか……!?

 へっへっへっ……はっはははははははっ……!!」


「なっ!? あのZランク、笑ってやがるぞ!?」


「小躍りまで始めやがった!」


「今のブレスを見て、なんであんなにウッキウキなんだよ!?」


「勇者の嬢ちゃんだけじゃなくて、やっぱりあいつもやべえやつなんじゃねえのか……!?」


 なんか妙に注目を受けてる。

 が、それより今は目の前の金塊だ。

 ちらりと横を見る。


「国を襲うような魔物……。絶対に許せない!」


 目をぎらつかせる勇者アルメア。

 やる気まんまんである。

 実に頼もしい。


 まずは魔力の追加補給だ。

 これほどの相手なら、切り札の魔石を使っても惜しくない。

 俺は背中のリュックを下ろし。

 虎の子のキングオーガの魔石を取り出そうとして……。


 そこに。


「【爆轟電(バーストエレク)】ッ!!」


 突然、横あいからの電撃。


 バリバリと空気を引き裂くそれが、サンサドールの顔に命中した。

 よろめく巨体。

 命中した部分の鱗が、一瞬鉛色に変わった。


「えっ?」


「えっ?」


 冒険者たちと俺が、同時に疑問符を浮かべた。


「クハハハハハハ! そんなクズ加護どもより、この私を見るのだな!」


 頭の軽そうな高笑い。

 背の高い樹木のてっぺんに、人影がある。

 白銀のミスリル鎧が、高級そうにキラキラ光っていた。


「なんだ? 貴様は……」


「フン! この私の顔を知らぬとは、所詮はトカゲの頭目ということだな! これは楽に勝てそうだ!」


 ディオスだった。

 堂々とだけはしている態度で。

 巨大な竜へと、指を突きつける。


「この歴代最強にして光の勇者! ディオス・カーラントッ! が貴様を華麗になぶり殺し、改めて私の名を世に知らしめてくれるわ!

 クハハハハハハハハッ!!」


 アホはそう言って、高い所でさらなる高笑いをした。

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