表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

24/55

24 不運と幸運

 その日は朝から騒がしかった。


 Zランク認定されてから、数日後。

 アルメアと連れ立っての朝ギルドだ。


 討伐依頼受付窓口。

 そこが依頼の取りあいで騒がしいのは、別に珍しくもない。


 だが、今日は少し様子がおかしかった。

 色めきだつというよりは、怒鳴り散らしているような。

 ……なにかを恐れているような。


「おい! どういうことだよこりゃ!」


「緊急招集ですって!?」


「オッ、オレは嫌だからな! まだ死にたくねえ!」


「こんな時こそ勇者様だろ!? ディオスのやつは来てるんだろうな!?」


「昨日から討伐依頼で出かけてるらしいぞ! くそっ、ツイてねえ!」


「み、みなさん、落ち着いてくださぁい……!」


 メガネの受付嬢、フェリシア。

 数人に詰めよられて、おろおろしている。

 なにがあったか知らないが、受付嬢に怒鳴ってもしょうがないだろうに。


 見かねて、割って入る。


「落ち着けよ。なにかあったのか?」


「あったもなにも……チッ、Zランクか」


 筋骨たくましい、ハゲの冒険者。

 俺を見るなり舌打ちした。

 しかしそれで、少しは冷静さを取りもどしたようだ。

 こちらに向き直る。


「緊急招集クエストだよ。ワイバーンの群れが、近くの街道に出たんだとよ!」


「群れ? はぐれじゃなくて?」


「1匹や2匹で、こんな大騒ぎするかよ!」


「商隊のひとたちが命からがら逃げてきて、さっき報告してきたところなんですよぉ」


 フェリシアが補足してくれる。


 本来ならクエストの発行は、報告した日の翌日以降のはずだ。

 それどころじゃないってわけか。


「群れを作ってるってことはぁ、変異種の強力なワイバーンが率いてるかも知れないんですぅ。事態を重く見たギルドが、Cランク以上の冒険者さんたちを緊急招集することになってぇ……」


「ああ、なるほど」


 ギルドの緊急招集は、つまり強制徴集。

 所属する冒険者に拒否権はない。

 それでこの騒ぎと。

 しかし、ワイバーンの群れか……。


「竜種なんて冗談じゃねえよ! 俺は逃げるからな!」


「な、なに言ってんだ! そんなことしたら指名手配だぞ!」


「この町を見捨てるつもりか!? お前、恥はないのかよ!」


「知るか! 俺は食ってくために冒険者になったんだ! 追われようがバカにされようが、死ぬよりマシだろ!」


 パニック寸前の冒険者たち。

 アルメアはそれを見て、きょとんとしていた。

 フェリシアへと挙手。


「あの、ワイバーンってそんなに強いんですか?」


「とっても強いし、とっても怖いですよぉ!

 ものすごい速さで突撃してきますし、ブレスを吐かないかわりに魔石を砕かれると爆発するんですぅ。

 群れならこの町くらい滅ぼされかねませんし、本来の討伐推奨ランクはB以上なんですよぉ……」


「まあ竜だしな……へっへっへっ」


「なんでソウマは笑ってるの?」


 そう、竜なのだ。


 古竜だの賢竜だのに比べれば、格はずっと落ちる。

 が、それでもそこらの魔物よりは、圧倒的に強く希少。

 つまり、その素材はとても高額で取引されるわけで。


 俺とアルメアはここ毎日、討伐依頼をこなしている。

 それで確認できたのは、俺たちの強さだ。

 苦戦どころか、ケガひとつしたためしがない。

 我がパーティの戦闘力の前では、ワイバーンなど空飛ぶ金貨にすぎないだろう。


「オレは明日、護衛で町を出るはずだったのによ! ちくしょう、なんて運が悪いんだ!」


 俺は、冒険者たちの嘆きを聞きながら。


「へっへっへっ、なんて運がいいんだ俺は!」


 うれしくて思わず笑っていた。

 こんなおいしい話が舞いこんでくるとは。


 思えばスラムに捨てられてから、ずっと不運続きの人生だった。

 そんな俺にも、ようやく運が向いてきたようだな!


「あれぇ? 副ギルド長、どちらへ?」


 フェリシアの後ろ。

 なにやらゴソゴソしてる影。


 キツネ目の副ギルド長だった。

 先日、俺へうれしそうにZランクの宣告をしたやつだ。


「う、うむ、少し急用を思い出してしまってね。これから王都の親戚に会いにいくのだがね」


「ええっ!?

 だ、だめですよぉ! ギルド員は避難せずに残って、出発の手続きと情報収集を手伝わないとぉ!」


「ち、違うのだ! これは逃げるわけではなく、あれだ、業務上必要な連絡なのであってだね……」


 さすがにこいつも、ワイバーンは怖いと見える。

 ギルドの幹部という立場は、俺みたいな冒険者には強くとも、竜種には無力だな。


 そんな感じで。

 ギルド内にはたくさんの人間の、恐れと嘆きが飛び交っていた。


「こんなことなら、Cランクなんてなるんじゃなかった……」


「いいわね、Zランクは落ち着いていられて!」


 おっと、こっちに飛び火してきたぞ。

 Dランク以下は参加義務がないから、Zランクも当然免除される。


 ねたましい。

 恨めしい。

 そういう視線を、四方から注がれる。


 Zランクとバカにされてた俺だが。

 まさか、この身分を嫉妬されるとはな。


「あ、あの、ソウマさんは気にしないでくださいねぇ。高くないランクのひとの不参加は、当然の権利ですっ。

 ソウマさんが無事にこの町から離れてくれたら、わたしも安心できますしぃ……」


 フェリシアがわたわたと、俺をフォローしてくれた。

 職務以上の気遣い。

 心優しい女性だった。


 俺はそんな彼女に、ふっと笑いかける。


「いや、俺も討伐に参加するけど」


「えええええええええっ!?」


 すっごい驚かれた。

 周囲に、なんだなんだと騒がれる。


 フェリシアはばん! と受付テーブルを叩いて。

 体を乗り出し、顔を近づけてきた。


「ど、どうしてですかぁっ!? ワイバーンですよっ、すっごく怖いんですよぉっ!?

 なんでわざわざ参加するんですかぁっ!?」


「いや、前のパーティではよく倒してたし。別にそんな怖くは」


「倒してたのは光の勇者じゃないですかぁっ!」


「まあ、とにかく俺は参加するぞ。こんなおいしい相手と戦える幸運、みすみす逃す手はないからな!」


 ざわざわ……。

 周囲の冒険者たちも、驚愕の目で見てくる。


「ワイバーンと戦わされるのが幸運だって!? なに言ってんだこいつ!?」


「あんなに落ち着いてるぞ。よっぽど自信があるのか?」


「Zランクじゃなかったのかよ……!?」


 渦中の人になる俺。

 蔑んでいたはずの視線。

 それが、畏れへと変わっていくのがわかった。


「ソウマさんは勇者じゃなくて、Eランクのポーターじゃないですかぁぁ! 死んじゃいますよぉっ!!」


「勇者ならここにいるだろ。な、アルメア」


「うん! そんな危険な魔物、絶対ほっとけないよね!」


 ぐっと両こぶしをにぎる。

 戦意に輝く瞳。

 人々を守るのがボクの仕事、そう言わんばかりだ。

 勇者の風格ただようアルメア。


「何匹か見せしめに切り刻んで、臓物まみれのまま町の外に陳列しようよ! そうすれば二度と近寄らなくなるんじゃないかな!」


「俺もそんな町には二度と近寄りたくないが」


 蛮族寄りの勇者だった。


 そもそもの話、アルメアはSランクである。

 なので今回は強制参加だ。

 まさか、ひとりで行かせるわけにもいかない。

 俺が参加しないという選択肢は、最初から存在していなかった。


「バ、バカな! 貴様、ワイバーンが怖くないと言うのかね!?」


 ヒステリックに高い声。

 キツネ目の副ギルド長だった。


「この、たかがZランクの分際で……。わ、私が、こんなに恐れているというのに……貴様ごときが……!」


 なんかもごもご言いながら、ぷるぷる震えてる。

 多分、自分の醜態と比べたんだろうな。

 さんざん俺を見下していたから、なおさらだろう。


「い、いや、どうせ口だけに決まっている!

 所詮はZランク、いざ戦いが始まればブザマに尿でも漏らすのがオチだろうね!」


「誰が漏らすか!」


「だ、だめですよぉ! ソウマさん、ホントに死んじゃいますよぉ!」


「死ぬ心配なんかいらないって。それよりも稼げすぎて嬉ションする可能性を心配してくれ」


「やっぱり漏らしとるじゃないかね!?」


「うぅ~……。でもやっぱり、危ないですよぉ……」


 フェリシアはちらりと、心配そうな視線を横にすべらせた。

 視線の先には、アルメア。

 連日魔物を大量に狩ってはいても、さすがにワイバーン相手は。

 そう思ってしまうのだろう。


 無理もない。

 見た目はただの幼い娘なんだ。

 戦っている現場を見ていなければ、なおさらだろう。


「「「…………」」」


 まわりのCランク冒険者たちも、不信の目。

 ディオスはいないのか、と騒いでいたやつも混じっている。

 同じ勇者でも、アルメアは信用できないらしい。


 そんな過小評価を払拭する、いい機会でもある。

 俺は借金を大きく返せて。

 アルメアは勇者として名を上げることができる。

 いかにも、楽しい一日となりそうだ。


「へっへっへっ……! 今回は楽にガッポリと稼がせてもらうとするか……!」

「面白かった」

「続きを読みたい」

などなど思ってもらえましたら、

『下の☆☆☆☆☆をクリック』で応援いただけるとうれしいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] Zランクが行くのに、Cランクが行かないのは、クズとしかいいようがないよな。 光の勇者(笑)が居ないし、副ギルド長は逃げようとしている。 というか、ワイバーンの群れか・・・。スタンピードだ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ