23 新ランク創設
初春の朝の、冷たい空気。
冒険者ギルド前で、うれしそうなアルメアと落ちあった。
「いよいよ今日だね、ランク更新日!」
弾んだ声。
「ギルドマスターは不在らしいけど、フェリシアがちゃんと手続きしてくれてたし! 楽しみだなあ!
ひょっとしたらソウマ、一気にCランクになっちゃったりして!」
「いやあ、それはないんじゃないか」
「そんなことないよ!
だいたいボクがSランクなんだから、ソウマだったらSSSランクだっておかしくないと思うんだよね!」
「そんなランク存在しないだろ」
テンション高めなアルメア。
連れ立って、ギルドへ入る。
いつもなら依頼を見に行くところだが。
アルメアはもうすでに、まっすぐ受付カウンターへと向かっていた。
いつもどおりに、フェリシアが座っている。
「………………」
しかし、雰囲気はいつもどおりではなかった。
どんより。
そんな空気を背負っている。
「……なんか様子が変じゃないか?」
昨日までは、普通にニコニコしていたはずだ。
なにがあったんだろう。
「来たよー、フェリシア!」
「…………」
アルメアの元気な声。
が、返事はない。
うつむき続けるフェリシア。
「ほらソウマ、早くギルドカード出して!」
「はいはい」
冒険者の証である、ギルドカードを取り出す。
Eランクのカードは鉄製。
ちなみにSならミスリル、Aなら金、Bなら銀、Cランク以下なら鉄だ。
俺は鈍色のEランクカードを、カウンターの上に置いた。
「えへへー、フェリシア! さっそくだけどソウマの昇格を……」
そこでようやく、フェリシアが顔を上げる。
光るメガネに隠れた瞳。
俺を見て、口を開いた。
「どのツラ下げて来やがった、生きる価値のないウジ虫がよぉ」
アルメアが、動作を停止した。
「……え?」
「…………」
俺も、とっさになにも言えなかった。
「ボ、ボクの耳、今日はちょっと調子が悪いのかな?
フェリシア、今なんて言ったの?」
「ド底辺ランクの役立たず冒険者は、とっととくたばれって言ったんですぅ!!」
ぺしん!
フェリシアは勢いよく、なにかをカウンターに叩きつけた。
茶色いカード。
質の悪い紙で作られた……ギルドカード?
雑な字で、何か書いてある。
――――――――――――――――
名前:ソウマ・レフォルマーレ
クラス:ポーター
冒険者ランク:Z
――――――――――――――――
「Zランク!?!?」
アルメアがのけぞった。
「フェ……フェリシア、これっていったいどういうことなの!? Zランクなんて昨日まで存在してなかったよね!?」
「存在しないほうがいいのは、そこのド、ド無能のほうですぅ!」
「さっきからのその口汚さもなんなの!?」
カウンターの後ろに設置された、重厚な木彫りの板。
冒険者ランク表。
その下に、長い紙がびろびろと付け足されている。
G、H、I、J、K、L……そしてZまで。
いかにも急いで書き加えました、といった風。
重複に気づいたのか、途中のSはバッテンされていた。作り直せよ。
「い、言わなくちゃいけないんですぅ!
Zランク冒険者には業務マニュアルにそった罵倒をあびせないといけないって、そうギルドの規則で決まってるんですぅ……!」
「規則でっ!?」
メガネの奥をよく見ると、フェリシアは涙目だった。
あわあわし始める口元。
最初の勢いを使い切ったのか。
目にふるふると涙をたたえながら、一所懸命に暴言を吐こうとしていた。
「ろくに働いてもないパッパラパーは、えっと、えっと……もっと呼吸するの遠慮してくださぁい!」
たどたどしくそう言った。
優しくおとなしい美人エルフが半泣きで、強制的に言わされている罵倒。
「ほう……」
俺は感嘆した。
新しい可能性の扉が今、開こうとしていた。
「ちっ。この程度の仕事もろくにこなせんとは、実に役立たずな受付だね。せっかく私がマニュアルを作ってやったというのに」
「……誰?」
「ここの冒険者ギルドの副ギルド長だがね。
鉄の勇者アルメア、君もこんなZランクにつきまとわれて、さぞ迷惑しているのだろうね」
「え……?」
「まったく、光の勇者ディオスのパーティに寄生してさんざん足を引っぱっただけでは飽き足らず、追放されたとたんに他の勇者に寄生するとはね。
聞いていないのかね? この男がいかに恩知らずで恥知らずなのか、勇者ディオスが証言してくれたという事実を。
いけないね……勇者ともあろう者が、こんな冒険者の風上にも置けない下郎の片棒を担いでしまっては!」
「…………」
「今この場にいる冒険者諸君も、しっかりと聞いておくべきだね! このソウマ・レフォルマーレの冒険者ランクは、本日よりZとなった!
慈悲深い光の勇者ディオスですら追放せざるを得なかった、世界中のどんな冒険者よりも劣る男にふさわしい、前代未聞に最低なランク評価なのだね!
この者は以前から勇者ディオスをいいように利用し、今なおこんなにいたいけな少女をだまして報酬金を搾取するという、みなから軽蔑されるべき行為を平然と……うぐっ!?」
「黙れっ……!!」
「ぐ……ぐるじっ、手をはなじて……」
「ソウマがどんなひとなのか、ボクがなにを思ってソウマといっしょにいるのか……なんにも知らないくせにっ!
ソウマは報酬をごまかしたことなんて一度もない! ソウマはいつも、ボクにありがとうって言ってくれる!
ボクが他の誰よりも、いちばん信頼できる仲間なんだっ!」
「首っ……い……いぎがっ……」
「ねえソウマ、言ってやってよ! ボクたちは誰にも恥じないことをしてるって!
いつも真面目に務めを果たしてて、軽蔑されるようなことはなんにもしてないって!!」
「どうしたフェリシア。もっと俺をののしってみせろ。ん?」
「も、もう、言えませぇぇん……!」
「言えませんじゃないんだよ。そんな態度じゃ顧客は満足できないぞ! ほらもう一度!」
「さ……最下等のZランクの、クソ虫冒険者めぇ……! ママ同伴でないと冒険できないのかぁ……?」
「そうだ! いいぞ!」
「き、今日から負け犬と呼んでやるから、今すぐはいつくばってみろぉ……! キックミーと鳴いてみろぉ……!」
「キックミー!」
「ほっ、ほんとにはいつくばらないでくださぁい!」
「おい誰がやめていいと言った。もっと続けるんだ」
「うう……だってぇ……」
「この応対マニュアルには弱音を吐けなんて書いてないんだが? ギルド職員ならマニュアルに従うべきじゃないのか?」
俺はマニュアルを手の甲でパァン! と叩いた。
「だいたいこのマニュアル、内容がぬるすぎるぞ。客が望んだ場合には顔にツバを吐きかける、くらいのサービスがあってしかるべきだ」
「何やってるのソウマ!?」
「ああアルメア、こいつには金を稼ぐ才能があるぞ。一部の大勢の人間を笑顔にできる、とても魅力的な才能だ。
転職の際にはぜひ俺にプロデュースさせてくれ」
俺は四つんばいのままそう言った。
そしたらアルメアに、すごい目でにらまれた。
なんで怒ってるんだろう。
しょうがなく立ち上がる。
よく見ると、キツネ目のおっさんが宙づりになっていた。
アルメアが両手で、胸倉をつかみ上げている。
キツネ目の顔色は紫。
よほど力をこめているようだ。
「なんでソウマは怒らないの!? Zランクなんかにされて、みんなに悪口を広められて! こんなメチャクチャなことされてるじゃないか!
こんなやつ、今からボクが……!!」
輝く眼光に、殺意がほの見える。
日常的に命のやり取りをする人間の、特有の迫力。
キツネ目は酸欠と恐怖で、口をパクパクさせていた。
「やれやれ……」
俺はため息をついて。
アルメアの肩を叩いた。
「放してやれ、アルメア」
「だって……!」
「お前の気持ちはうれしいけどな。ここで脅して処分を取り消させたら、そっちのほうが問題だろ。
いいから手を放すんだ」
「…………」
周囲を見やる。
冒険者たち。
どうなることかと、じっと注目されている。
そのことに、アルメアも気づいた。
「…………」
脱力。
解放されたキツネ目が、尻から落下。
「うぎゃっ!」
汚い悲鳴をあげ。
あわててギルドの奥へ逃げていった。
キツネというより、ネズミのような小悪党ぶりだな。
「なんだ、Zランクがさっそくなにかやらかしたのか?」
「どうせ不正でもしようとしたんだろうぜ、ひひひひ!」
「勇者に寄生するZランクのポーターがよ! よく恥ずかしげもなくいられるよなあ!」
ボロボロの革鎧を着た、近くの冒険者ども。
聞こえよがしに、そんなことを言った。
嘲笑まじりに。
「……ボク、こんなの悔しいよ。
Zランクのうわさだって、きっと明日には広まっちゃう。なのに、ソウマはなんとも思わないの?」
「いやちっとも。
フェリシア、例の魔石は届いてるか?」
「あ、はぁい! 今出しますぅ」
「ソウマ、ちゃんと聞いてよ!
……うわっ!?」
ごろん。
カウンターに転がる、特大サイズの魔石。
手のひらにあまるほどの大きさ。
石というより岩だった。
「こちら納品書になりますぅ」
「キングオーガの魔石……100万ゴルド!? ソウマ、いつのまにこんなの注文してたの!?」
「こういう代物が、いつ必要になるかわからんからな。使わなかったら売ればいい」
「はー……さすがソウマだね」
横を見る。
呆然とした顔が3つ。
さっきの、俺をバカにしていた連中だ。
こんな高級魔石、目にしたこともないんだろう。
「わかるかアルメア? Zランクだのなんだの言われようが、俺たちはこんなもんをポンと買えるくらい稼ぎまくってるわけだ。
俺としてはZランクなんかより、鎧を買う金も稼げないくせに悪口だけは一丁前なやつのほうが、よっぽど恥ずかしいと思うね」
「ぐっ……」
悔しそうに、顔をゆがめる3人。
収入マウントで空気がうまい。
今後もZランクとは呼ばれるだろうが、どうでもいいな。
フェリシアの罵倒のほうが、よっぽど胸に来るものがあった。いい意味で。
「そんなわけだから、お前が気にする必要はない。
どっちにしろ、うちの看板はSランク勇者様だしな」
「……うん。ソウマが言うなら、そうするね」
納得しきれてはいないのだろうが。
それでもアルメアは、うなずいてくれた。
そうして俺は今日も。
鼻歌まじりに、討伐依頼の物色を始めた。
楽しく借金を返すために。
それから数日後。
突然発布された討伐クエストが、このギルドを恐怖のどん底に叩きこむことになる。
「面白かった」
「続きを読みたい」
などなど思ってもらえましたら、
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