22 正当な評価 [三人称視点] (3)
「これは申しおくれましたね。
私はこのギルドで副ギルド長を務めている、ドクメントという者でしてね。以後お見知りおきを」
名刺をさし出された。
取りあえず、受け取る。
指先でもてあそび、ドクメントをにらむ。
「それで、副ギルド長とやらがこの私になんの用だ?」
「少々お耳に入れておきたいことがございましてね。
ですが、ここでは人の目がありますのでね……」
「ここでは言えない話だと?」
「そうですね。誰あろうディオス様の、外聞に関わることでございますのでね」
「…………いいだろう」
ディオスはなによりも、自分の体面を大事にする人間だった。
だからそのように言われては、無視することなどできない。
取り巻きともども、おとなしくついていく。
職員用通路から、面談室へ。
木製のイスをすすめられ。
不機嫌そうに腰を下ろした。
「それで? この私の貴重な時間をさいてやっているのだ。つまらん話ならば許さんぞ」
「はい。実はですね、まだ内密な話なのですが……。
当ギルド内で、『ディオス様の冒険者ランクを降格させるべき』という話が持ちあがっておりましてね」
「こっ、降格だと!?」
座ったばかりのイスを、思わず蹴倒し。
立ち上がってつめよる。
「そんなバカな!! 確かに受付の無礼な女も、そのようなことを言ってはいたが……冗談だろう!?
それもまったく笑えない、最悪の冗談だ!!」
「残念ながら、冗談などではありませんね。
連続10回もクエストを失敗させ、さらには仲間の能力を偽証したあげく追放するような、恩知らずで劣った冒険者。
そんな者をSランク認定していては、高ランク冒険者全体の意義も権威も失われてしまうと、まあそういうわけでしてね」
「貴様、この歴代最強に優れし勇者ディオスを、よりにもよって“劣った冒険者”だと!?
この私を侮辱すればどうなるか……!!」
「いえいえ、とんでもございませんね。他の口さがない者たちがそう言っているだけでしてね。
私自身はそのようなこと、毛ほども思っておりませんのでね」
静かにほほ笑むドクメント。
舌打ちディオス。
イスを起こし、乱暴に座りなおす。
「クソ、このディオスの優等性を証明する、Sランクという肩書きが失われるだと……!?
よもやこの身にそのような不幸が降りかかるなど、この世に神などいないというのか!?」
「キャハハハ! ディオスカワイソー!」
「つっても、別にAランクでもよくね?」
「そうよ。Aランクだって当然、上位の冒険者でしょう」
「ふざけるな! この歴代最強の勇者ディオスには、選ばれし頂点であるSランクこそが相応しいに決まっているだろうが!
Aランクなどという劣等等級で、この私が今さら満足できるわけがない!」
「あの、申し上げにくいのですが。ゴブリンにも負けるような劣った冒険者は、Aランクにも値しないという評価でしてね。
今までの功績や勇者であることを最大限勘案しても、Dランクあたりまでの降格が妥当ということにですね……」
「なああああああッ!?」
また立ち上がった。
立ったり座ったり忙しいディオス。
「で、Dランク!? Dランクッ!?!?
あの劣等裏切り者のランサより下だと!! 貴様はそこまで、それほどまでにこの私を侮辱するというのか……!?」
「いえいえ、ですから他の見る目がない者たちがそう言っているだけでしてね」
また泡を吹き始めるディオス。
それに対し、あくまで静かに笑うドクメント。
話を続ける。
「いや、しかしディオス様も大変でございますね。
聞けばディオス様が追放したクズ加護ポーターのほうは、逆に昇格してしまうようでしてね。
そうするとディオス様とクズ加護は、今後は対等のランクとなってしまいますね」
「ぐおおおおおお!!」
のけぞった。
固まって、ぷるぷると震える。
そして跳ね起きた。
バネじかけのおもちゃみたいだった。
ドクメントに詰めよる。
「貴様、このっ、この私とクズ加護が対等などと、貴様、貴様っ……!!」
「いえいえ、このドクメントめは、もちろんディオス様の味方でございましてね。
だからこそこのように、本来外部に漏らしてはならない機密をディオス様にだけお伝えしているわけでしてね」
「味方! 今、味方と言ったな! この私の!」
「ハイ、確かに申し上げましたね」
「ならばそのような事実無根で無知蒙昧な降格処分など、なんとしても握りつぶせ! この光の勇者ディオスの経歴にDランク認定などという汚点が刻まれることを決して許すな!
ギルドの幹部ならば、それくらいは簡単にできるはずだろうが!!」
「そうでございますね。ディオス様のためでしたらこのドクメント、骨を折ることもいとわない所存でございますね。
ですが……」
そこで、ドクメントが口角を上げた。
含みのある笑い。
下心が、透けて見えた。
「なにぶん、ほぼ内定しているような処理をくつがえすとなると、大きく無理が起こってしまうわけでしてね。
そうなると、私だけの力ではどうにもならないと言いますかね……」
「なんだ、なにが言いたい!」
「つまりはですね、ディオス様にもお力添えいただけないかと。
善意と言いますか、心づけと言いますか……そういった形でご協力いただければ、これはもう心強いと! そして他の職員への説得も容易になる!
そういったお話でございましてね、ハイ」
「…………」
口を閉じるディオス。
目をすがめた。
「つまり、金をよこせということか?
伯爵にして勇者であるこのディオス・カーラントに?」
「受け取り方によっては、そのような言い方もできてしまうかもしれませんね」
「………………」
沈黙。
ディオスは目を閉じ。
のけぞって、大きく息を吸った。
「そうか、そうかそうか! クハハハハハハハハ!!」
高笑い。
楽しそうですらあった。
ざわざわする取り巻きたち。
「やばいじゃん。ディオスがお金取られて笑ってるじゃん」
「ディオスがヤベーのは最初からくね?」
「これ以上おかしくなったら、当然ついていけないんだけど」
そんなざわめきとは裏腹に。
ディオスは爽快な気分だった。
心から。
そうだ、自分は貴族だった。
身体を張らなければ何も得られない、底辺の劣等者どもとは違う。
いわば特別な、選ばれし人間だ。
その自分が持つ力は、単純な暴力にとどまらない。
それを思い出したのだった。
「つまり、貴様に多少のねぎらいをしてやれば、この光の勇者ディオスがギルドに不当な評価などされなくなる。そういうことだな?」
「それはもう! ディオス様のおっしゃるとおりですね!」
「フン。優れた者が世を正すにも、金が必要なのは仕方がないか……。
いいだろう。そら、拾うがいい!」
足元に財布を投げてやる。
ドクメントはよろこんで這いつくばり、それを拾った。
中をのぞく。
予想していた額の、それ以上。
500万ゴルドはある。
それをディオスは、実に気持ちよく払ってやった。
「これはこれは……!
いや、ありがとうございます! さすがは光の勇者ディオス様でございますね!」
へこへこと頭を下げるドクメント。
そのまま辞去しようとする。
「クハハハ、待て。それはただの手付けにすぎん。
もうひと働きしてくれれば、さらに心づけとやらをくれてやろうではないか」
「もうひと働き……とおっしゃいますと?」
「なに、そう難しいことではない。
正当な評価を下してもらいたい冒険者が、もうひとりいるというだけだ。
そう、生まれも能力も劣った、卑しいクズ加護の冒険者がな」
「…………。
ははあ、なるほど!」
理解するドクメント。
笑うディオス。
にたぁ、と目じりが下がる。
とても勇者とは思えない、卑しい笑みだった。
「ディオス様のご指示とあれば、よろこんで承りますね。
ですが、その際には……」
「わかっている。このディオス・カーラントは、優れた働きをする者への金は惜しまん」
「ありがとうございます! 不肖このドクメント、ディオス様のために微力を尽くさせていただきますね!」
それからというもの。
両者の話しあいは弾んだ。
利害が一致していたからだ。
打ち合わせを終え、今度こそ退室するドクメント。
スキップする52歳管理職。
通りすがりの女性職員に、不審な目で見られた。
残ったディオスが、息を吐く。
数日ぶりの、深い満足に包まれていた。
これでいい。
この歴代最強の勇者ディオスが劣っている、などと。
そんな評価は、決してあってはならないことだ。
仲間を追放した恩知らずだと?
恩など知らなくて当然だ、受けた覚えがないのだから。
やつから受けた覚えがあり、返すべきなのは仇だけだ。
ましてや、あのクズ加護が優れているなど。
ふざけているとしか思えない。
最初からすべてがまちがっていたのだ。
うまく説明はできないが、そうに決まっている。
そのための少々の不正など、問題にもならない。
なぜならば、これは正しい行いなのだから。
この私が優れているという真実を世に蘇らせ、正当な評価を手に入れるための、
「今晩はひさしぶりに、気持ちよく眠ることができそうだな! クハハハハハハハハ……!」
「面白かった」
「続きを読みたい」
などなど思ってもらえましたら、
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