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21 正当な評価 [三人称視点] (2)

「な、な、なっ……!?」


 うろたえるディオス。

 腰をぶつけ、テーブルが揺れる。

 不味(まず)い酒がジョッキ樽から、バシャバシャとこぼれた。


 眼下。

 一階には大きな、黒いリヤカー。

 倒された魔物が山盛り。

 呆然とする、ディオス一行。


「な、なにあれー……?」


「魔物の数エグくね……?」


「ほ、他のパーティのを運んでるだけでしょ? 当然、そうに決まってるわ……」


 受付カウンターにはフェリシア。

 ソウマたちを、笑顔で出迎えた。


「さすがはソウマさんたちですねぇ。

 たったふたりで毎日毎日、こんなに倒してきちゃうなんてぇ!」


 ディオスはそれを聞いて、さらに目をむく。


「毎日だと!? あ、あの数をか!? それもふたりだけでだと……!?」


 信じられない。

 信じたくない。

 しかし現実に、魔物は倒されている。

 嘘をつく理由もないのだ。


 ソウマの仲間であろう、隣の少女。

 彼女が口をとがらせた。


「でも今日は、いつもより少ないよね。ボクはもっと狩りたかったんだけどなあ」


「そのかわりに、そこそこのを狩ってきただろ。オウルベアだのリザードマンだの。それで満足しとけ」


「いつもより少ない……!?」


「オウルベア……!? リザードマン……!?」


「なのにそこそこ……!?」


 Bランク冒険者でも、手こずるような魔物だ。

 Eランクのソウマが倒したのであれば、大戦果のはず。


 なのにどうという感じもなく、当たり前のような顔をするソウマ。

 本当に日常的に、これだけの魔物を倒していることをうかがわせた。


「ソウマさんたちのご活躍で、高危険度の塩漬け依頼がどんどんはけて大助かりですぅ!

 今回は報酬に少し色をつけてもらえましたので、おいしいものでも食べてくださいねぇ!」


「それがさ、聞いてよフェリシア。

 ソウマはボクがいくら言っても、業務用パスタに塩だけとか、そんなのばっか食べてるんだよ。身体壊すって言ってるのに」


「むぅ~! ソウマさん、本当ですかぁ?」


「ま、まあ、稼いだ金は借金にあててるからな。手元に金なんて残ってないんだよ。

 あ、量はちゃんと食ってるぞ? 湯に一時間ひたすと増えてお得なんだぞ。おいしくてハッピーだ」


「ダメですよそんなのぉ! 今度わたしが作りに行きますぅ!」


「だよね! ちゃんと栄養のある料理を、ボクが作ってあげるから!」


「いやアルメアは作らなくていい。俺が作ったほうがマシだ」


「なんでそんなこと言うの!?」


「お前が作る、シェフの気まぐれ血まみれパスタは二度と食いたくねえんだよ! 鉄分豊富すぎる!

 俺の目とお前の頭を疑ったぞ!」


「血は栄養たっぷりなんだってば! ただ捨てるよりずっといいでしょ!」


「それはソーセージとかに加工して食うんであって、そのまま飲むもんじゃねえんだよ!

 原始人だってもっと文明的なもの食ってるわ!」


 ……などと、にぎやかに話すソウマたち。

 それを見ていたマギリンが、あれー? と首をかしげた。


「クズ加護のとなりの、あのイモ女。どっかで見たよーな……」


「あーしも、そんな気してるくね?」


「当然よ、王城で何度も顔あわせてるじゃない。ディオスと同じで、国に認定されてる勇者よ。

 確か……“鉄の勇者”」


 ディオスも言われてみれば、見覚えがあった。


 きらびやかな王城に場違いな、薄汚れた身なり。

 どこぞの浮浪者が迷いこんできたと思っていた。

 勇者だと聞かされて、心底驚いたものだ。


 そして、“鉄魔法”などという勇者魔法。

 自分の“電光魔法”と比べて、まるでゴミのようだと大笑いもした。


「そうか……! あのゴミみたいな加護のゴミ勇者が、クズ加護と組んだのか!

 それであれだけの戦果を……!!」


 今はあの田舎娘の顔を見ても、まったく笑えなかった。

 笑っているのは相手のほうだ。

 ジョッキ樽はいつの間にか倒れ、とっくに空になっていた。


「そう言えば、ソウマさぁん! もうすぐ期末ですから、冒険者ランクの更新が行われるんですよぉ!」


「更新……?」


「はぁい! それで、ソウマさんはこれだけの成果をあげてますから、ほぼ確実に昇格すると思いますぅ!」


「ホント!?

 わぁい! やったねソウマ、昇格だって!」


「まあ、ポーターがランク上げても意味ない気もするけどな」


「そんなことないよ! ソウマがEランクなんて、誰が見たっておかしかったもん!

 えへへ、楽しみだなぁ……!」


 さざめく笑い。

 歯がみするディオス。


「ぐぬぬぬぬぬぬ……!」


 非常に気にくわない。

 ソウマが昇格するということも。

 残飯をあさってなどいなかったことも。

 新しい仲間と、うまくやれていそうなことも。


 クズ加護とディオスが蔑んでいた、元パーティメンバー。

 みじめで行くところのない劣等者。

 泣きながら、這いつくばって生きていて。

 自分はそれを見下ろし、笑ってやるはずだった。


 しかしあの顔はどうだ。

 栄光と余裕。

 それはこの優れた自分にこそ、ふさわしいもののはずだ。


「なぜだ! なぜ、伯爵家に生を受け伝説の勇者魔法を発現させたこの光の勇者ディオスが、失敗する日々を送り! なぜ、辺境のスラムでボーフラのようにわいて出ただろうあのクズ加護が、あれほどの成功をつかんでいるのだ!

 不当だろうが! 理不尽だろうが!!」


 ディオスにとって不当とは、法や手段の是非ではない。

 彼が想像する“あるべき状態”との不一致を指す言葉だった。


 悔しい。

 妬ましい。

 力いっぱい、テーブルを拳で叩く。

 何度も。


 周囲の客が、迷惑そうに耳をふさいだ。

 距離を取っていく。


 そんなディオスに、近づく男がいた。

 やせぎすなキツネ目。

 冒険者ギルドの制服スーツと、幹部バッジを身につけている。


「ディオス・カーラント様ですね?」


「……誰だ貴様は」


「これは申しおくれましたね。

 私はこのギルドで副ギルド長を務めている、ドクメントという者でしてね。以後お見知りおきを」

「面白かった」

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