20 正当な評価 [三人称視点] (1)
「では今回もクエストは失敗ですね、ディオスさん。
違約金の3万5千ゴルドをお支払いください」
「ぐっ……」
「ご不満なようですが。これは規則によって算定された、正当な請求ですので」
冒険者ギルドの受付。
ベテランの受付嬢が、無感情にそう言った。
顔をゆがめるディオス。
「もしお支払いいただけないようであれば、最近の依頼達成率低下とあわせて、冒険者ランクの降格処分もありえますので。ご了承ください」
「こ、降格だと!? この歴代最強の勇者ディオスが……!? あ、ありえないだろう、そんな……!!」
「それは、お支払いいただけないということですか?」
「まっ待て! 払わないなどとは言っていないだろうが! この伯爵にして勇者であるディオス・カーラントが、この程度のはした金を惜しむはずがなかろう!」
チャリ……。
銀貨3枚と、半銀貨1枚。
ディオスはそれを、おとなしくトレイに入れた。
実際、金が惜しいわけではない。
認めてしまうことが、心底イヤなのだった。
失敗を。
自分の戦果が劣っているという、評価を。
「ぐうう……!」
くちびるを前歯で噛みしめる。
顔面神経痛みたいな顔。
ちなみに数日前、怒りに任せて違約金を投げつけた時には、それはもう大問題になった。
あわやギルドから除籍されるところだった。
それ以来、さすがのディオスも騒がなくなっている。
「確かに受け取りました。次は達成できるよう、お祈りしております」
お祈り言葉。
そして、言葉とは裏腹に冷たい目。
ディオスが依頼を達成できるとは、まったく思っていない目だった。
「キャハハハ! ディオスくやしそー!」
「なにがおかしい!? この歴代最強の勇者ディオスが、たかがギルドの職員ごときになめられているのだぞ!?」
「っても無理なくね? これで連続10回失敗してるくね?」
「当然よ。ゴブリンにも負けたのに、オウルベアだのリザードマンだのに勝てるわけないじゃない」
勇者ディオスが弱くなった。
ゴブリンにも勝てないほどに。
その事実は、まだ冒険者たちには広まっていない。
しかしギルドの職員の間では、もはや周知の事実だった。
なのに高危険度のクエストを受け続けるものだから、かなり白眼視されている。
無駄な事務手続きを増やす厄介者、とまで思われていた。
「クソッ! この誰よりも優れた私がこんな屈辱を受けるのも、全てあのクズ加護のせいだ!
あの男がきっとこの私への根も葉もない中傷を、ギルドの劣等者どもにばらまいたに違いない!」
「キャハハ、それしたのディオスのほーじゃん!」
「魔物に負けっぱなのは関係なくね?」
「関係大ありだ! なぜなら、この私が操る至高の勇者魔法が弱体化してしまった原因は、あのクズ加護が広めた悪評による心労に決まっているからだ! そう考えれば全てのつじつまが合うだろうが!
このような卑劣な手段で勇者たる私を苦しめるとは、どこまで卑しいんだあのクズ加護は……!」
「原因と結果の順番が、当然おかしい気がするんだけど……」
以前はどんな魔物だろうが、勇者魔法の一撃で簡単に倒すことができた。
なのに今は、倒しきれないことが多くなっている。
それがディオスには耐えられない。
魔物を倒せないこと。
それ自体はどうでもよかった。
どこぞの村が困ろうが、旅人が襲われようが。
そんなものは知ったことではない。
ただ、劣っていると見られている。
それだけが、ディオスには我慢ならなかった。
「とにかく勝てないんだからさー、なんとかしないとじゃん!」
「魔法の威力が足りてなくね? やっぱ魔力しか勝たん」
「なら当然鍛えるべきよね。そしたら威力も元にもどるんじゃない?」
「努力だと!? フン、この若き天才ディオス・カーラントに最も不要な概念だな!
そのような泥臭いマネをこの光の勇者がするなど、天が許してもこの私のプライドが許さん!
そういったブザマな苦労は、それこそクズ加護のような劣等者だけがするべきもので……」
はた、と気がつく。
怒りに歪んでいたディオスの口元。
それが見る間に、気持ち悪く吊り上がっていった。
「そうか。考えてみればあのクズ加護は今、ブザマに苦しんでいるに違いないのか。
なにしろこの光の勇者から直々に追放を言い渡されているのだ、そんな事故物件とパーティを組むような冒険者はひとりとしていないだろうからな!」
「あー、ありそー!」
「この勇者たる私がこれだけ苦労しているのだ! たかがポーターにすぎんあのクズ加護ならば、もっとはるかに、想像を超えて落ちぶれているに決まっている!
たったひとりで食い詰めたあげく、みじめに残飯でもあさって飢えをしのいでいるような有様だろうよ!」
「ウケる。それ見たくね?」
「そのとおりだ! 人間は目指す場所を見上げるだけでは疲れてしまう! たまには底辺のドプでおぼれる劣等者を観察することで、いかに自分が優れているかを確認し心を休めることも、優等者には必要な娯楽だろう!」
「気晴らしってワケね! 当然いい考えだわ!」
ディオスたちはウキウキと、二階の酒場へ上がっていった。
隅の方の席、吹き抜けから一階を見下ろせる場所へ。
酒を注文。
仮の肴も適当に。
本番までのつなぎだった。
本当に酒を美味くしてくれる、ソウマの醜態という肴までの。
そんなディオスの期待は、完全に裏切られることとなる。
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