19 嘲笑ディオス [三人称視点] (8)
冒険者たちが、ディオスたちを見下ろしていた。
見下ろされている側は、座りこんだまま立つ気力もない。
冒険者ギルドの中庭にある、屋外訓練場。
帰還魔晶の魔法陣は、そこに設置されていた。
「おい、誰か帰還魔晶で転移してきたぞ!」
「だいぶやられてるみてえだ!」
「こいつ……ディオスじゃねえか!?」
「じゃあ、光の勇者が逃げ帰ってきたってのか!」
「ぐっ……」
うめくディオス。
冒険者たちの顔に、見覚えがあった。
街道でオークに奇襲されたパーティだった。
ディオスがさんざん悪しざまにののしった、あの。
「…………」
彼らの背後に人影。
松葉杖をついた牛獣人。
傷だらけのディオスの顔を、無表情に見つめていた。
「いったいなにがあったんですかぁ!? たしか光の勇者のパーティは、ゴブリンの群れを討伐しに行ってたはずなのにぃ……!?」
フェリシアが驚きの声をあげる。
「ゴブリン……?」
「そんな相手に、こんなボロボロにされたってのか?」
「いやいや、そんなわけねえだろ。最強の勇者って言われてるディオスだぜ?
きっと俺たちじゃ想像もつかねえ、とんでもなく恐ろしい魔物にやられたに決まってる!」
「あなたたち、どうなんですかぁ!?」
「そ、それはっ……」
口ごもるディオス。
取り巻きたちも、気まずそうにそっぽを向いた。
「も、黙秘する! 答えてやる義理などないだろうが!」
「義理ならありますぅ! クエストを受けた以上は、経過を報告していただかないとぉ!」
「ギルドの都合など知るかっ! 貴様に教えてやることなど、なにひとつない!」
「「「…………」」」
「……あなたたち、またなにか都合の悪いことを隠そうとしていますねぇ?」
にらみつけてくるフェリシア。
数日前と比べて、ずいぶんと攻撃的な態度だった。
ディオスたちは戸惑ったが、それでも口を開くつもりはない。
見切りをつけたフェリシアは、案内役の冒険者に顔を向けた。
「……ではランサさん、いったいどんな魔物と戦ったのか、あなたが報告してくださぁい」
問われるランサ。
ディオスが必死に首を振っている。
しかしランサは、口を開いた。
「……ゴブリンですよ」
「えぇ?」
「ただのゴブリンですよ! 俺たちはただのゴブリンの群れに手も足も出ず、ボコボコにされて逃げ帰ってきたんですよっ!!」
「え……えええええぇっ!?」
驚いたのは、フェリシアだけではなかった。
その場にいる冒険者も、全員が耳を疑った。
牛獣人も目を見開く。
ランサに詰めよる冒険者たち。
「ランサ、適当言ってんじゃねえぞ! 最強の光の勇者が、ゴブリンなんぞに負けるはずが……」
「でも負けたんだよ! このディオスが弱いせいで!
ポーションの準備もしてねえわ、なんにも考えずに攻撃して囲まれるわ、そのくせ魔力切れ起こすわ! 俺も今までひでえ冒険者を何人も見てきたけど、こんなクソ野郎は初めてだ!
こいつが勇者だって!? なにかの冗談としか思えないよ!!」
「き……貴様!! 光の勇者であるこの私に向かって、なんという口を!!」
「ああそうだな! ゴブリンに負ける光の勇者様だったよな! おかげさまで俺は死にかけたんだけどな!
見ろよこの体中のアザ! 死にそうなあんたをかばってこうなったんだぞ!?」
「ぐ、ぐぐぐぐっ……」
完全に事実だった。
ランサは確かに、身体を張ってディオスを助けている。
にもかかわらず、ディオスは歯を食いしばり。
憎々しげに、ランサを見つめていた。
ディオスの中では、ランサは恩人どころか裏切り者で、嘘つきですらあった。
「……ははははは! お前のような愚かで弱い男は見たことがないぞ!」
牛獣人が、歯をむいて笑う。
嘲笑だった。
「俺の里の獣人たちならば、ゴブリンなど10歳の子供でも負けはせん!
お前はオークに負けた俺や仲間たちを、劣等者だと抜かしていたな。ならゴブリン相手に負けたお前はなんだ? 子供以下の、劣等者よりはるかに劣った男ではないか!
なんなら自分で言ったとおり、自害でもしてみせるのだな! はははははははっ!!」
大きな体で見下し、笑う牛獣人。
地面にへたりこんだまま、笑われるディオス。
牛獣人の仲間も、つられて笑いだした。
ディオスへの、軽蔑の視線。
「ぐ、ぐ、ぐぐぐぐぐっ……!」
顔真っ赤。
取り巻きたちも、恥ずかしさに赤くなっている。
「あははは! みんな、笑っちゃかわいそうよ!」
「お前だって笑ってるじゃねえか!」
「いいんだよこんなやつ、笑ったって!」
「そうだそうだ! 先に俺たちをバカにしてきたのは、こいつのほうなんだからな!」
「自業自得だぜ!」
「ま、それはそうよね! あはははは」
「き、き、き……貴様らぁ!!」
ディオスが屈辱に耐えきれず、立ち上がった。
震えながら、冒険者たちを指さす。
「今に、今に見ていろ! この歴代最強の勇者ディオスが、誰にも倒せないほど強大な魔物を倒して見せてやる! 私が誰より優れた者であると思い知らせてやるからな!!」
「そうだな、今度はちゃんとゴブリンを倒してもらいたいものだな! ははははははは!」
ディオスの言葉は、嘲笑をより大きくしただけだった。
誰が見ても負け惜しみである。
「ぐ、ぐう、ぐううう……!!」
とうとう、この場から逃げ出すディオス。
あまりの悔しさに、涙が出た。
走る背中には、笑い声がどこまでも届く。
歴代最強だったはずの光の勇者。
しかし今や、この嘲笑こそが。
勇者ディオスへの、正当な評価だった。
――・――
「クソッ! クソッ!
クソックソックソックソックソッ……!!」
ディオスの目は血走っていた。
気持ちよく酔っていたころの余裕は、もうどこにもない。
クソクソと言いながら、むしるように紙をはがして集めている。
集めているのは、依頼掲示板の討伐依頼。
どれもこれも、危険度の高いクエストばかりだった。
「そ、そんなにたくさんできるわけないじゃん! やめなよディオス!」
「あーしまだ死にたくねーし!」
「うるさい!! この私が、この光の勇者ディオス・カーラントがああまでコケにされ、劣っているなどと言われたのだぞ!? このまま引き下がれるわけがないだろうが!!」
「でも勝てるの? ゴブリンに負けた私たちじゃ、当然他の魔物だって……」
「勝てるに決まっているだろうが!! 油断さえ、油断さえしなければ私は、次こそは……!!」
ぐしゃりと依頼票をにぎりつぶす。
興奮しすぎて、泡まで吹いていた。
「ねー、クズ加護のやつを呼びもどさない?」
ぽそり。
その言葉に、ディオスが動きを止める。
「……は?」
「だってクズ加護がいたら、今回だって100パー勝ってたじゃん。
気にくわないけど、クズ加護をもっかいパーティに入れればいいんじゃん!」
「あー、いんじゃね? あいつなら金さえ払えば来るくね? そんでコキ使ってやれば良くね?」
「そうよ! あんなクズ加護しか取り柄がないんだもの、当然どこのパーティにも入れてもらえないで食い詰めてるはずよ! そこに最強の勇者バーティーにもう一度入れてやるって言ってやれば、当然よろこんでもどってくるわよ!
そうしましょうよ、ディオス!」
都合のいい予想を口にする取り巻きたち。
実現の可能性を別にすれば、確かに合理的な考えではあった。
驚くディオス。
「な、なにをバカなことを! なぜこの勇者ディオスが、あんなクズ加護ごときを呼びもどさねばならんのだ!?」
「えー、いいじゃんいいじゃん。そっちのが楽だってー」
「むしろ呼ばない理由なくね?」
「当然そうすべきよ!」
しかしディオスは、激しく首を振った。
「ふざけるな、クズ加護のクズ魔法など不要だ!!
もしここでクズ加護を呼びもどしてしまえば、追放した私の判断が間違っていたと認めることになるだろうが!!
私の判断は常に正しく、そして優れているのだ!! 追放を撤回することなどありえない!!」
「「「ええ……」」」
誰よりも現実が見えていない。
そして、見ようともしないディオス。
「なに、心配するな。この程度の逆境、本気になってしまったこの歴代最強の勇者ディオスならば、容易に挽回できるに決まっているだろう!
お前らは黙って、再び栄光を手にするこの私の三歩後ろをついてくればいいのだ! クハハハハハハハハ!!」
高笑いし、断言するディオス。
こうして光の勇者パーティは次の日も。
その次の日も、さらに次の日も。
延々と、辛酸をなめ続けていくことになる。
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