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18 嘲笑ディオス [三人称視点] (7)

「ウギャアアアッ!?」


 ゴブリンに殴られ、叫ぶディオス。

 その後ろから。


「せいっ!」


「ゴブッ……!?」


 ランサがすかさず、短槍を突き返した。

 ゴブリンの手から武器を叩き落とし、下がらせる。


「ぶ、無事ですかディオスさ……」


「痛いっ、痛いいいいいいっ!!

 手が、手がやられたああああ!! あがああああああっ!!」


 痛みに転げまわるディオス。

 肩を押さえ、幼児のように騒ぎたてる。


「え……」


 これくらいで?

 ランサはまた、あんぐりと口を開けた。


 普通の冒険者ならば、この程度の負傷など日常茶飯事だ。

 こんなことでいちいち騒いでいては、魔物相手に生き残ることなどできない。

 ましてや敵の目の前で、こんなブザマに泣きわめくなんて。


「このひとは本当に、正規の冒険者なのか……?」


 一方、ディオスにとっては日常などではなかった。

 人生で初めての激痛。

 ディオスは今まで、相手に反撃など許さなかった。

 使用人にも平民にも、一方的な暴力を楽しんできた。


 冒険者になってからも、それは変わらなかった。

 どんな凶悪な魔物だろうと、自慢の魔法の一撃で倒してきたのだ。


 ――再利用魔法の恩恵によって。


「クル、クルシア……! 早く俺を回復しろ、役目だろうが……!」


「そ、そんなこと言ったって、当然こっちも襲われてるのよ!」


 駆けつけ、ランサが追い払ってやる。

 ディオスとあわせて、ふたりを必死に守る。

 攻めに転じるひまがない。


「うう、言わんこっちゃない……!」


 泣き言ランサ。

 ディオスが自分で回復できたなら、こんな手間はなかっただろう。

 そのためのポーションだったはずなのに。


「ぐうう、痛い、痛い……! 回復が遅いぞ、なにをのろのろやってる……!

 いつもクズ加護を治す時は、もっと一気に治してただろうが……!」


「できたら当然やってるわよ!

 そのクズ加護がいないんだから、これ以上早くは無理よ!」


「な、なんだと……!? お前の回復魔法まで、あの劣等者に補助されていたのか……!?

 ぐっ、ぐあああっ……!!」


「ちょっと、動き回らないでよ! 当然治しにくいじゃない!」


 もたもたするディオスたち。

 マギリンとヘルメも、後ろで騒いでいる。


「いったーい!! こっちに近づけないでよ、あんた前衛じゃん!!」


「あ、あーしだって殴られそうなんだっつの!! テメーで何とかしろし!!」


 聞いていた話どおり、ろくな戦力になってない。

 敵を倒すどころか、逃げ回っている有様。

 Sランク冒険者であるディオスたち。

 それよりもCランク冒険者にすぎないランサのほうが、よほど役に立っていた。


 たかがゴブリン10匹である。

 一瞬で片づけられるはずの数。

 なにしろ魔物討伐のプロである冒険者が、5人もいるのだ。


 それなのに!

 ここにいる勇者パーティの全員が、ゴブリンよりも弱いなんて!


 四人を守り、打たれるランサ。

 顔や体に、次々とあざを作っていく。

 たまらず叫んだ。


「ディ、ディオスさん! もう無理です、今すぐ逃げましょう!!」


「に……逃げる!? この私が……!? ふざけるな!!」


 ディオスは目を吊り上げて、ランサに声を荒げた。

 その元気を敵に向けてほしかった。


「この歴代最強の勇者ディオスが、逃げるわけになどいくか!!

 ましてやゴブリン相手になど……そんなことが、許されるかあああ!!」


 立ち上がる。

 そして、ランサの前に飛び出した。

 危うく槍で刺しそうになる。


「な、なにやってるんですかディオスさん!?」


 ディオスは腕輪をかかげて、魔力回復を発動させる。

 さっきまでのやり取りはなんだったんだろう、とランサは思った。


 バサッ!

 ディオスは再び、かっこいいポーズ。


「一切合切、灰塵となせ!!

 【爆轟電(バーストエレク)】ッ!!」


「ちょっ!?」


 5メートル規模の爆発魔法。

 そんなものが目の前の敵に命中したら、自分たちは全滅である。

 しかし幸いにも、焦ったディオスは的を外した。

 近くの地面に当たり、1匹を爆風で倒せた。

 しかし焼け石に水。

 当然次は撃てない。

 囲まれる。


「ゴブッ! ゴブッ!」


「ヒグッ! ヒギャッ! やめろ、やめてくれえ!」


 また殴られた。

 ひいひい泣くディオス。


「ああそうか。このひと、バカなんだ……」


 ランサの心に住んでいた、憧れの勇者。

 それが、完全に死んだ瞬間だった。


「……ちくしょう!」


 とはいえ、バカであっても勇者は勇者。

 魔物を倒してくれる、人々の希望である。

 なのでランサは、ディオスを見殺しにはできなかった。


 ゴブリンを追い払い、受けなくてよかった傷を受け。

 ディオスのえり首をなんとかつかむ。

 そして後ろへと、乱暴に引きずり倒した。


「あががががが……」


 顔がボコボコに腫れている。

 だが、かまっているヒマなどない。

 ゴブリンが遠くから、どんどん集まってきてしまっている。

 手間取りすぎたし、騒ぎすぎたせいだった。


 ゴブリンなど本来なら、まず負けないような魔物だ。

 今みたいに、囲まれさえしなければ。

 なんなら仕掛ける前に、高所にでも陣取って。

 そこから一方的に、魔法を撃ちおろすだけでよかったのだ。

 それがディオスの雑すぎる作戦によって、こんな有様に。


 ディオスはボロボロのまま放置されている。

 回復してやる余裕もなくなっていた。

 防戦一方。


「ちょ、ちょっとやばいじゃん! ランサ、あんたなんとかしなよ!」


「俺ですか!? 数が多すぎますよ!」


「魔物の好きな食いもん投げるとかすればよくね!?」


「このへんのゴブリンの好みなんて、知ってるわけないでしょう!?」


「じゃあ当然他の作戦があるわよね!? 他の魔物をオトリにするとか、逃げこめそうな場所を見つけてたとか!」


「だから知りませんて!」


「なんでできないのよ!? 当然それくらいできるでしょう! だって!」


「まさか……」


「「「クズ加護ならできてたのに!!」」」


「やっぱり!!」


 ソウマはそういった努力を惜しまなかった。

 元来は、努力家という性分でもなかったのだが。

 少しでも冒険の効率を高め、1ゴルドでも多くの借金を返したい。

 そんな情熱が、ソウマを博識にしていた。


 そんなソウマと、それを鼻で笑うディオス。

 その差が今の窮地を生み出していた。


「ううううっ……!!

 なんなんだよ、なんなんだよお前らぁっ!!」


 ブチッと。

 ランサの心の中で、とうとうなにかが切れた。


「もうイヤだ!! 追放したポーターがいないと、お前らなんにもできないじゃねえか!?

 てか追放したとか嘘だろ、そのひとがお前らに愛想尽かして逃げたんだろ!! そうとしか思えない!!」


 青筋を立てて、がなり立てるランサ。

 余裕も敬語も捨てて。

 言わずにはいられなくなっていた。


「こ、この優れた私が、劣等クズ加護に見限られただと……!? ふ、ふ、ふざけるな……!!」


「ふざけてんのはお前の戦い方だよ!!

 なにが勇者だ、なにが勇者パーティだ!! こんなひどい冒険者パーティ、世界中探したってどこにもいねえよ!!」


 咆哮。

 ランサは戦いの中、激しく叫んだ。

 そして泣いた。


 たかがゴブリンの討伐依頼だった。

 歴代最強の光の勇者とそのパーティだったら、万が一にも危険などなかったはずだった。

 そして憧れの勇者と知り合いになれた自分は、いつかこのひとのようになりたいと思い。

 今日という日を大切で忘れられない思い出にした……そうなるはずだった。


 それが今や、まったく逆の意味で忘れられない思い出に。

 ……いや、生きて帰れるかどうかすらわからなくなっていた。

 それも、たかだか10匹のゴブリン相手に。

 なんでこんなことに。

 とめどなく流れる涙。


「あっ!? あるじゃん……あるじゃん!!」


 幼いキンキン声。

 沈む思考が、ふいに引き上げられる。


「どしたしマギリン!?」


「持ってた! 帰還魔晶! よく調べたらポッケに入ってた!

 クズ加護に念のためって渡されてたの忘れてたー! キャハハハ!」


「……っ! ……っ!」


 最初からよく調べろよ!

 命がかかってるんだぞ!

 なにやってんだよ!

 なんのために俺は殴られてたんだよ!


 ランサは口をぱくぱくさせる。

 のどまで出かかった言葉を、必死に飲みこんだ。


 そんな本音を言ったら、機嫌を損ねかねない。

 そしてこの最低パーティの連中は、平気でやりそうだと思ったのだ。

 ランサを置いていくぐらいのことは。


「と、当然使いなさいよ! 早く! 今すぐ!」


「はーい! キャハハ!」


 マギリンが、帰還魔晶を地面に叩きつける。

 散らばる破片。

 それが、一行の足元に魔法陣を描き出した。


 すぐに身体は、飛翔の魔力に包まれて。

 一行を、穏やかな空へと引っぱり上げてくれる。


「よ、よかった……!」


 安堵するランサ。

 心から。

 ようやく逃げられることが、うれしかった。

 ゴブリンからというのも、もちろんそうだったが。


 それ以上に、この最低最悪のパーティから逃げられる。

 ランサはそれが、本当にうれしかったのだった。

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