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17 嘲笑ディオス [三人称視点] (6)

 渓谷の奥の、岩場にて。

 ようやくゴブリンを発見した。

 10匹ほどの群れ。

 粗末な棒で武装し、うろうろしている。


 ただし問題があった。

 ゴブリンたちは一か所に集まっていない。

 端と端の個体では、20メートル程度の距離があった。


「だいぶ散らばってますね……。まずいですよディオスさん」


「は? たかがゴブリンを殺すのに、なにがまずいというのだ?」


「だってこのまま仕掛けても、囲まれるのが目に見えてるじゃないですか。

 ここは慎重に、ゴブリン相手でも作戦を立てるべきです」


「貴様、またそんなクズ加護のようなことを……」


「え。まさか作戦の立案まで、ディオスさんじゃなくポーターのかたにやらせてたんですか……?」


「やらせてなどいない! やつがまったく必要のない小細工を、自分勝手にしゃべっていただけだ!

 そんな卑怯な手段は、劣った弱者だけが使うもの! 真に優れた者はそんなごまかしに頼らずとも、圧倒的な力で敵を蹂躙するものだろうが!」


「圧倒的な力って……具体的にどうするんですか?」


「この私が史上最強の勇者魔法で、全てを一撃で吹き飛ばしてやるのだ! それならなんの問題もない!」


「そんなこと言ったって、あんなに広く分散してるんですよ。

 どんな魔法だって、一発じゃとても……」


「そう思うのが、凡俗たる貴様と優等者たるこの私との差というわけだ!

 黙って見ているがいい!」


 バサッ!

 かっこいいポーズ。

 右手のひらを、真ん中のゴブリンへ。


「森羅万象、全て吹き飛べ!!

 【爆轟電(バーストエレク)】ッ!」


 電光と爆発。

 直撃したゴブリンが、跡形もなく消し飛んだ。

 森羅万象とはいかずともすごい威力だ、と思うランサ。

 しかし。


「ん……?」


「ちょ、ちょっとディオスさん! ぜんぜん倒しきれてないじゃないですか!」


 爆発の規模は、とても全てのゴブリンを吹き飛ばせるものではなかった。

 せいぜいが直径5メートル前後。

 余波で倒せたのは、もう一匹だけだった。


「キャハハハ! ディオス手加減しすぎじゃん!」


「ウケる。ディオス余裕すぎくね?」


「い、いや、そんなはずは……」


「だっていつもの当然の威力より、ずっと弱かったじゃない!」


 取り巻きたちは、ディオスが手加減したのだと思いこんでいた。

 うろたえるディオス。

 のんきな一行に、ランサが危機感をつのらせる。


「いいから早く、次を撃ってください! ゴブリンはもう、こっちに気づいてるんですよ!?」


 言葉のとおり、魔物たちがこちらを見ていた。

 これだけ騒いで、見つからないわけがなかった。


「ハ、ハハハハハ! この勇者ディオスとしたことが、卑しき劣等者どもがあまりに哀れすぎて、無意識に慈悲をかけてしまったようだ!

 今度こそ私の真の実力を見せてやろう!」


 バサッ! バサバサッ!

 マントを何度もひるがえす。

 今からが本番なのだというアピールだった。


「我が素晴らしき勇者魔法の、めくるめく爆光と閃熱におののくがいい!!

 【爆轟電(バーストエレク)】ッッ!!」


 より大きな声。

 よりこめられた気合。

 勢いよく突き出した、ディオスの右手から!


 パチッ……。


 赤ちゃんみたいな電気が生まれ、そして消えた。


「な……!?」


「『な……!?』はこっちのセリフじゃん! なに今の魔法!? あれがばっこーとせんねつ!?」


「ウケ狙いすぎてスベってるくね?」


「今のが真の実力なんて、当然言わないわよね?」


「…………」


 ランサは冷や汗をかいていた。

 今の現象に、見覚えがあったのだ。

 ランサのパーティの魔法使いが、たまにあんなのを出していた。

 魔力切れの時に。


「まさかディオスさん。最初の攻撃魔法で、もう魔力切れしたんじゃ……!?」


「ま、魔力切れだと!?」


 ショックディオス。

 自分の手を見て、愕然とした。

 取り巻きたちもざわつき始める。


 ランサの顔も青い。

 魔力が思ったより少なかった、それもある。

 が、それより全魔力を一発で使い切る、ディオスの計画性のなさに驚いたのだった。


「ゴブ! ゴブゴブ!」


 ゴブゴブ言いながら、走って集まってくるゴブリンたち。

 当然興奮し、殺気立っている。


 実際のところ、ディオスたちが驚く必要はなかった。

爆轟電(バーストエレク)】はディオスの全魔力を消費する、切り札の攻撃魔法なのである。

 だから魔力切れして当然だった。


 しかし、彼らは思いこんでしまっていた。

 手加減したのだから、魔力を使い切っているはずはない、と。


「い、いやっ、そのようなバカなことがあるかっ!

 この最強の光の勇者ディオスが、あの程度の魔法一発で魔力切れになるわけがないだろうが!」


「そ、そーそー! そんなわけないじゃん! 最強の光の勇者が、こんなショボいわけないじゃん!」


「マ、マジでこんなザコだったら、恥ずくて生きてけなくね? 勇者失格くね?」


「と、当然でしょう! もしあれがディオスの本当の実力だったとしたら、『クズ加護の魔力強化が強かっただけ』ってことになるじゃないの!」


 取り巻きたちの同意。

 それを受けて、ディオスは落ち着きを取りもどす。

 ランサにドヤ顔した。


「どうだ、理解できたか!」


「何がです!?」


「聞いてのとおりだ! 私はこれまで勇者として、数えきれないほどの凶悪な魔物を打ち倒してきた!

 それは超絶的に優れた能力がなければできないことだろうが!」


「そんなこと言われても、今、現実に魔法を使えなかったじゃないですか!? 否定して何の意味があるんです!?」


「貴様の妄言を事実だと認めたら、この私は『クズ加護の支援がなければ弱い』ということになってしまう! それはひいては、この光の勇者ディオスが、あのクズ加護以下の劣等者だと認めるということだろうが!

 だから魔力切れなどありえない……そういうことだ!」


「…………」


 あぜんとするランサ。

 開いた口がふさがらなかった。


「フン、案ずるな! 神器で魔力を回復せずとも、今すぐゴブリンどもを全て吹き飛ばして証明してやる!

 ……【爆轟電(バーストエレク)】!」


 しかし 魔力が 足りない!

 煙っぽいものが出ただけだった。


「バ、【爆轟電(バーストエレク)】! 【爆轟電(バーストエレク)】ッ!!」


 ブスン。

 プス……ン。

 最後は煙も出なかった。


「ゴブゴブゴブ!」


「ゴブゴブゥッ!」


 迫るゴブリンたち。

 もう目の前。


「こ、こんなはずは……」


「ゴブウウッ!」


 先頭の一匹が、乱杭歯を見せて飛びかかり。

 手にしていた木の棒を振り下ろす。


 それはよそ見していたディオスの肩に、勢いよく当たった。


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