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16 嘲笑ディオス [三人称視点] (5)

「な、なんだとおお!?」


 眼前の土石流に、慌てふためくディオス。


「キャーッ!? キャーッ!? なにこれー!?」


「ちょ、マジヤバくね!?」


「当然なこと言わないでよ!」


 全員退避。

 仰天し、走り、転びかけながら。

 見る間に流入してくる、大量の土砂。


 やがて土煙が晴れると。

 谷道は当初よりもさらに、ぶあつい土層に埋まって。

 完全に閉ざされてしまっていた。


「こ、これは……。おい貴様、これはいったいどういうことだ!?」


「え……いや、どういうことと言われても……。

 『土石流や雪崩を誘発するため、攻撃魔法で安易に道を作ろうとしてはならない』って、ギルドの初心者講習でやってたじゃないですか」


「な、なんだと……!?」


「ディオスさん、ひょっとして知らなかったんじゃ……」


「…………。

 い、いや! そのくらいの常識、この歴代最強の勇者ディオスが知らないはずがないだろうが!

 これは……これはな……」


 困りディオス。

 はっとして、名案ディオス。


「そ、そう、話を聞いただけではなく、実際に目の当たりにしなければ知識は身につかないということだ!

 今日という日を学びたいと言ったのは貴様だろうが!」


「えっ!

 じゃ、じゃあこれは俺のために、わざとやってくれたんですか?」


「そうだと言っている!

 このディオスがわざわざ、そう貴様のためにわざわざ! どうなるかを実演し見せてやったのだ!」


「あ、ありがとうございます!

 俺てっきり、ディオスさんが良くいる質の悪い冒険者みたいに、初心者講習をサボって知らなかったんじゃないかと疑ってました! すいませんでした!」


「ぐっ……そ、そうだ! そんなはずがあるわけないだろうが!

 この最強の勇者魔法を用いて希少な経験を得られたこと、深く深く感謝するのだな! ク……クハハハハハハハ!!」


 ごまかすように高笑い。

 ランサの視線から、顔をそらしながら。


「……おっと。魔力を補充しておくか」


 ひとしきり笑ってからディオスは、右腕の“祈りの腕輪”をかかげた。

 光る魔力が腕輪から生まれ。

 ディオスの体に、吸いこまれていく。


「ディオスさん、それは……?」


「ほう、気になるか?」


「え……ええ」


「そうかそうか、それほど気になるか!

 いや、この光の勇者ディオスの持つ秘宝だ! どれほどに優れた装備なのかを夜も眠れなくなるほど気にしてしまうのは、あらゆる人々にとって致し方のないことなのだろうな!」


「はあ……」


「では特別に教えてやろう! この祈りの腕輪はな、『使った者の魔力を無限に回復する』という力を秘めた神器なのだ!」


「無限に!? それはつまり、いくらでも使えるってことですか!?」


「当然だ! なにしろ神器だからな! どれほど使おうと代償も損耗もない!

 これは世の理すら無視してこの光の勇者ディオスに永遠の栄光を約束してくれる、至高の逸品なのだ!」


 今度は素直に驚くランサ。

 ディオスがうざったく見せつけてくることも、素直に納得できる。

 それほどの効果だった。


「そうか、そんな超一流の魔道具を最初から持っていたから、1000匹のオーガを倒すことができたんですね!

 いやあ、魔力切れもせずにどうやってそんなことができたんだろうって、ずっと不思議だったんですけど……それなら納得です!」


「う……い、いやそれは……」


「でも、そんなお宝をどうやって手に入れたんですか? やっぱりカーラント家に代々伝わる魔道具とかですか?」


「そ、そうだ、そのとお……」


「キャハハハ! バカじゃん、ぜーんぜんちがうって!」


「あーしらが魔物からそれパチったの、ついこの前くね?」


「えっ?」


「当然じゃない。魔力をいくらでも回復できる神器なんて、王家にだって伝わってないわよ。少し考えればわかるでしょ」


「じゃあ、1000匹のオーガはどうやって倒したんですか? 魔法じゃなくて剣で倒したとか……?」


「キャハハハ! ディオスに剣なんか使えるわけないじゃん!」


「んなの、クズ加護をこき使っただけだし」


「使ってやってたのよ。当然感謝するべきよね、魔力を多少回復するしか能がないクズ加護だったんだから」


「えっ? えっ?」


 混乱してきた。

 またもズレを感じる。

 自分の認識と、彼らのそれとが食いちがっていた。


 神器と同じことができる加護魔法。

 なぜそれが、クズ加護ということになるのか?

 ランサの理解を超えていた。


「みなさんがクズ加護クズ加護って言うから、どんなしょうもない加護魔法なのかと思ってたら……そんな天才的な魔法だったんですか!?」


「てっ、天才だと……!?

 バカバカしい! 貴族どころか平民ですらない、生まれの卑しい賤民だぞ!?」


「いや、それは関係ないんじゃ……」


「それにこの神器とくらべて、明らかに劣るクズ加護魔法だったのだぞ!

 なにしろ魔石をつぶして魔力に変換するという、大きすぎる代償があったのだからな! これはクズ加護自身も常に愚痴っていた、致命的な欠点だ!」


「はあ……」


 逆に言えば、魔石を用意できさえすればいいということになる。

 そうすれば回復し放題だ。


 確かに、冒険者では費用の捻出が難しいのかもしれない。

 だが貴族や資産家ならば活かせるはずだ。

 事実、ディオスは伯爵家の人間である。


 さらには……もし国にでも雇われたら。

 彼が軍隊で、その加護魔法を振るうのならば。

 その国は、負け知らずの強国になるんじゃないか?

 素人のランサでも、それくらいは簡単に思いつく。


 しかしディオスには、そういった発想はないようだった。

 そのポーターがいかに劣った存在だったか。

 それを追放するという英断を下した自分が、いかに優れていたか。

 そんなことを延々と繰り返すだけだった。


「まったくそのような、どうしようもない役立たずのクズ加護だったわけだが……。この腕輪が手に入ったことで、晴れて追放を言い渡すことができたというわけだ」


「そんな加護魔法でパーティを助けてたなんて、そのひともうポーターじゃないんじゃ……」


「どうだ? この神器に施された、美しく精緻な細工は!

 貴様が憧れるこの私が持つにふさわしい、気品あふれる装備だと思うだろう? クハハハハハハ!」


「はあ……」


 腕輪を自慢し始めるディオス。

 聞かされるランサ。

 しかしランサは、上の空だった。

 別のことが気になってしょうがなかったのだ。


 うかつにも追放()()()()()()らしい、とんでもなく優秀なそのポーター冒険者のことが。

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