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15 嘲笑ディオス [三人称視点] (4)

 一行は、またもや立往生していた。


 ランサの努力のかいあって、ようやくゴブリンの痕跡は見つかった。

 それを追って、渓谷の奥を進んでいた。


 が、ここにきて歩みを止める。

 道がなくなっていた。

 大規模な土砂崩れで、進む道がふさがれていたのだった。

 特に中央の大きな岩が、行く手を阻んでいる。


 ランサはため息をついた。


「これは無理ですね。

 しかたない、もどって別の道を行きましょう」


「は? なぜそんな必要がある?」


「え、だって……」


「たかだか道が通れない程度のことで、この私に二度手間を取れとでも言うつもりか?

 道がなければ作る! たちふさがる相手はなんであろうと撃滅する! それが勇者のあるべき姿だろうが!」


「は……はい、そうですね……。すいません」


 戸惑いながら頭を下げるランサ。


「わかればいい。では、やれ」


「え?」


「聞こえなかったか? やれと言ったんだ」


「な、なにを……でしょうか?」


「わからないのか? 貴様には脳みそがついていないようだな?」


「す、すいません。俺じゃわからないんで、教えてください」


「やれやれ……。私はな、貴様にこの邪魔な岩をどかせ、と言ったんだ。

 簡単だろう、さっさとやれ」


「え……ええっ!?」


 岩を見上げた。

 4メートル以上はある。

 家屋のような大きさだ。

 人の力でどうにかできるものとは、到底思えなかった。


「む、無理ですよ、無理! そんなのできませんって!」


「無理なはずがないだろうが。この程度の岩、Cランク冒険者ならば簡単に動かせるはずだ」


「CランクだろうとAランクだろうと、こんなの腕力で動かせっこないですよ! 人間じゃ無理です!」


「そんなはずがあるか! 事実、あのクズ加護ですらできたことなのだぞ!

 金をやって命じれば、このような小石くらいすぐさま撤去できていた!

 戦闘要員でもないポーターにできて、戦士である貴様にできないはずがないだろうが!」


「こ、こんな岩を簡単にどかせてたって言うんですか!? 信じられない……!」


「わかったなら、グダグダと言い訳せずさっさとやれ! 今すぐにだ!」


「は、はい……」


 言われるままに、しょうがなく手をかける。

 普段から発動している身体強化魔法を、できるだけ強めていく。

 とはいえ気休め程度だ。

 人ひとりの魔力量で強化できる幅など、たかが知れている。

 莫大な魔力を用意する手段でもあれば別だろうが……。


 そしてランサは全力で押した。

 しかしまったく、微動だにしない。

 何秒押しても、何分押しても、岩に変化は見られなかった。


「ハア、ハア……」


「おい! まだか!? この私の貴重な時間を空費させるな!」


「だから無理ですって! せ、せめて誰か手伝ってくれないと……」


 ちらりと後ろを見る。

 兜を目深にかぶった、褐色の女騎士ヘルメ。

 ポーチを開けて、爪の手入れなどしていた。


「あ? なに、あーしにやれっての?」


「だ、だって俺ひとりじゃ、こんなのできっこないですよ! 前衛のかたでしたら、どうか力を貸してください!」


「めっちゃ無理。あーし力弱いし」


「え……?」


 言われた意味がわからなかった。

 困惑しながら、ヘルメの鎧を指さす。


「弱いって……だって、そんな重そうな鎧着てるじゃないですか!」


「これただのハリボテだし。

 つか本物クソ重だし。あんなん着て歩けるとかキモくね? 足太くなるくね?」


「ええっ!?」


 まったく想定していない返答をされる。

 深まる困惑。

 思わず、他の女性たちにも目を向けた。


「はー!? あたしだって無理に決まってんじゃん!」


「あんた男でしょ、当然ひとりでやんなさいよ!

 だいたい私たちはね、ディオスについてくるだけでいいって言われてんのよ!」


「ついてくるだけ……?

 ディ、ディオスさん、どういうことですか!?」


「聞いたとおりだ。その三人は戦闘要員などではなく、私の愛人として連れているにすぎん」


「愛人っ!?」


「そうだ! 戦力はこの歴代最強の勇者ディオスさえいれば不足などない! むしろ過剰すぎて魔物が哀れになるほどだろうが!

 劣等冒険者どもにはどれほど危険な道程であろうと、この私にとっては女を気ままに連れ歩けるピクニックにすぎん! これもまたどのような勇者にも成しえない、あらゆる勇者を超えたディオス・カーラントの優等性を示す証左となるのだ!」


「は、はあ……」


「それとも貴様は、なにか不安に思うことでもあるというのか? この光の勇者ディオスが前に立っているというのに?」


「……そ、そうですよね! 最強のディオスさんさえいれば、問題はない……はず……ですよね?」


「そのとおりだ! クハハハハハハハハ!」


 そうだ、なにも心配はない。

 ディオスがいれば、もしもの場合などありえない。

 ……そのはずだ。


「ははは……」


 ランサは笑いきれない笑いを浮かべ。

 首を振った。

 気を取り直す。


「そ……それじゃディオスさん、すいませんが岩をどかすのを手伝ってください」


「だから何度も言わせるな。そのような汚れ仕事を、この光の勇者ディオスにやらせようなどと……」


「すっ、すいません! でも力の足りない俺じゃ、どうしてもこんな岩どかせなくて……その」


「フン。まあ貴様が劣っているというのなら、優れた私が動かねばならんか……。

 手を貸してやろう、せいぜい深く感謝するんだな」


「はい、ありがとうございます!

 じゃ、俺といっしょに岩を押して……」


「この私ならば、そんな泥臭いやり方をする必要などない! 一瞬で終わらせてやろう!」


 バサッ!

 マントをひるがえすディオス。

 上げた右手に、魔力を集中させる。

 その様子にあわてるランサ。


「ええっ!? ダ、ダメですよそんなの! 土砂崩れが起きたら……」


「うるさい! あのクズ加護と同じような指図をするな! 

 【爆轟電(バーストエレク)】ッ!」


 魔法を放つディオス。

 ランサの言葉など、一顧だにしない。


「うわああああっ!」


 叫んで身を投げ出すランサ。

 電光が頭をかすめ、間一髪。

 岩が爆発し、身を丸めて転がった。

 すぐに起き上がる。


「クハハハハハ! 見たか、この私の勇者魔法の威力を……」


「に、逃げましょう! 早く!」


「は?」


 ゴゴゴゴ……。


 重く震える音とともに。

 谷道をふさいでいた土砂が、いっせいに崩れ始め。

 大量の岩や木の枝が、ディオスたちの頭上へと降り注いできた。


「な、なんだとおお!?」

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