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13 金の稼ぎ方 (3)

「そ、そんなバカなっ!?」


 うろたえるヤブ医者。


 枯れ木のような爺さんの腕に、肉がついていく。

 筋肉がモリモリ盛りあがってきた。

 ぶっとい腕で、オブジェのはずの壁のハンマーを手にする。

 片腕で軽々と素振りし始めた。


「振れる、鎚が振れるぞ!! こんなに軽々とっ!!

 がははははははははははっ!!」


「すごい! やっぱりソウマはすごいや!」


「ええ……」


 めっちゃうれしそうな爺さんとアルメア。

 俺はドン引きしていた。


「き、貴様、いったいなにをした!?

 なにをどうしたら死にかけの老人が、一瞬でこんな筋肉ゴリラみたいになるというのだ!? おかしいだろ!!」


「俺もおかしいと思う。なんだこの生態」


「がはははは!! ドワーフなんざ、どいつもこんな具合よ!!」


 ドワーフとは一体。


「ふうぅ~~~」


 爺さんは満足したのか、ハンマーをズシンと下ろした。

 振動で揺れる店。


「おい若いの。てめえの名は」


「ソウマだ」


「そうか……。

 その名前、この右腕と鎚にかけて、生涯忘れねえ!」


 ニカッと笑う。

 そこに絶望は、もうひとかけらも残っていなかった。


「こんな、こんなバカげたことがあってたまるか! ありえん、ありえん……!」


「ありえんつったって見てのとおりだろうが、先生よお」


 爺さんの呆れた視線。

 頭をかきむしるヤブ医者。

 なんか瞳孔開いてきた。


「わ、私はこの国で最も知られた名医だぞ!? こんな、こんなどこの馬の骨ともわからん冒険者ふぜいに治せるわけがないのに!

 それもこんな汚い身なりで、いかにも育ちの悪いクズが! こんなバカな!」


「黙りやがれ!!」


「ひっ!?」


 ひるむヤブ医者。

 爺さんが怒気をみなぎらせる。


「おい先生、あんたにゃ世話になったがな。

 オレの腕の恩人への無礼だきゃあ、かんべんできねえぞ?」


「う、うう……」


「そういえば、さっきソウマと約束してたよね。医者をやめて治療費を返してやるー、って」


「ううううう……」


 容赦ないアルメアの追撃。

 こっちもなんか怒ってた。


「……こ、こ、こ、こ」


「こ?」


「こんな学のないバカどもに、これ以上つきあっていられるかっ!!」


 ヒステリックな大声。

 目を血走らせ、泡を吹いていた。


「ど、どけっ!! か、か、帰らせてもらう!! ドブ、ドブネズミのような臭さで、私の鼻が曲がりそうだっ!!」


 おかしくなった目つきで、逃げるように店を飛び出していった。

 アルメアがこっちを見る。


「追いかけよっか?」


「そうだな……」


「あー、ほっとけほっとけ。お前らが気にするようなこっちゃねえよ」


「いいのか? だいぶぼったくられてたんだろ?」


「金なんぞどうでもいいっつの。

 なにしろオレの右腕が、元にもどったんだからよぉ!!」


 さっきから腕の話しかしてないぞ、この爺さん。

 命が危なかったはずなんだが。

 ドワーフって、マジでみんなこんな感じなのか?


「とにかく礼だ礼っ! いくらほしい!?

 店を売り払ってでも、言い値をくれてやらあ!」


「落ち着け爺さん、メチャクチャ言ってるぞ」


「んなこたねえよ! 命より重いもんの恩なら、こんくれえ当然だろうが!」


「それで家まで取り上げたら俺が極悪人だろ!?

 ……約束どおりの70万ゴルドでいい。あとは魔石代の5万と、今日の買い物の割引。

 このあたりが妥当だろ」


「おいおい、そりゃ欲がなさすぎだろ。ひとが折角くれてやるっつってんのによ。

 金が好きなんじゃねえのか?」


「正常な判断力を失ったボケ老人から大金をせしめるのは、俺基準では詐欺にあたる」


「誰がボケ老人だ!?」


 せっかくの好意だったが、心は動かなかった。

 俺は借金を返すために、金を稼いではいる。

 だが、どんな稼ぎかたでもいいってわけじゃない。

 そんな金を受け取ってしまえば、さっきのヤブ医者と同類だ。


「ちっ、しょうがねえな。

 なら装備の代金は、本日限りで10割引だ。それで納得しておいてやる」


「なんで偉そうなんだよ」


 ……交渉は終わり。

 ようやく今日の目的である、買い物の時間となった。

 ゆっくり見つくろっていく。


 まずはアルメアに買う、旅人用の服とマント。

 店に並んでないと思ったら、倉庫にしまいこまれていた。

 爺さんいわく、見せびらかすほどのものではないらしい。

 ぶつくさ言いながら出してきたが、品質は確かだった。


 浄化魔法がかかっている、丈夫な生地の高級服。

 世界中の旅人に愛されている逸品だ。

 これでアルメアがブラッディアルメアへと変身したとしても、数分で元にもどるだろう。

 色はアルメアに合った、さわやかな青を指定した。


 鎧や胸当ても検討した。

 だが結局、『アルメアには不要だろう』となった。


 もともとアルメアは、自前で鉄の防御膜を作っていた。

 それも、グレートウルフの爪を弾くほどの代物だ。

 同等以上の強度となると、そこらの鎧では難しい。

 しかも今のアルメアならば、もっと強固なものを瞬時に作れるだろう。

 だったら鎧なんか、素早さを殺すだけ。

 利点がない。


 なお爺さんは、武器も鎧もいらないと聞いて、非常に渋い顔をしていた。

 鍛冶師泣かせの勇者である。


 俺も重い装備は断った。

 素材の運搬量が減るからだ。

 最低限、手甲とすね当てだけもらうことにした。

 魔法の付与はないが、これならいざという時の格闘戦でも、武器として扱える。


 あとは野営用と解体用に、普通のナイフを数本。

 こんなところか。


 爺さんはもっと持ってけと、しきりに商品を押しつけようとしてきた。

 しかし使わないものをもらっても、ただの荷物だ。

 腕前を披露できない爺さんは、憤懣(ふんまん)やるかたない、といった感じ。

 店の去り際に、こう言った。


「いいか! 今後なんか珍しい素材を手に入れたら、必ずオレんとこに持ってこい! 必ずだぞ!

 オレの本当の実力はそんなもんじゃねえってことを、その時たっぷりと思い知らせてやる!」


 爺さんの腕は確かだ。

 そういう意味では、いいコネを作ることができた。


 思い返してみると、ディオスはいい鎧を身に着けていた。

 かなり値の張る特注品。

 総ミスリルで作らせた、とかなんとか。

 そしてこの前は、神器と呼ばれるものまで手に入れていた。


 アルメア自身は、ディオスより強い。

 だが、装備の面ではまだ届いていない。

 いずれはアルメアにも、あれくらいの装備を用意してやりたい。


 そうやって強くなっていけば、金の稼ぎ方も増えてくる。

 貴族から来る指名依頼や、国との大口契約など、いろいろと。

 最強と呼ばれた勇者ディオスは、そうやって大金を稼いでいたのだ。


 さすがに今はまだ、ディオスと比べるべくもない稼ぎだが。

 いつか必ず、前のパーティを上回るような高収入を叩き出してやる。

 俺はそう、決意を新たにするのだった。

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