表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/55

12 金の稼ぎ方 (2)

「今日も来てやったぞマルトー。金は用意してあるだろうな」


 白衣の男は開口一番、そんなことを言った。

 マルトーってのはこの爺さんか。


「おい爺さん、なんか借金取りが来たぞ」


「なっ、この私を借金取りだと!?

 貴様、誰に向かって無礼な口を聞いている!」


「そうとしか思えない入店だったが」


「ぜひぃ……い、医者だ。そいつは」


「医者ぁ?」


「そうだ。私は王都でもっとも名の知られた名医だよ。

 貴様のような学のないチンピラでは、知らなくてもやむを得ないだろうがな」


 言いながら、カバンから薬を取り出す。

 薬といっても、ただの中級ポーションだ。

 なんの変哲もない市販品。

 20万ゴルドという値札がついたままの。


 それを爺さんに飲ませて。

 簡単に脈を取り。

 カルテへ軽く書きこむ。

 そして。


「では、診療を終了する。今日の代金は700万ゴルドだ」


 などとほざきやがった。


「はあ!?」


 思わず声が出た。


「今のどこに700万もかかる要素があったんだよ! 完全にぼったくりじゃねえか!」


「素人は口をはさまないでもらおうか。これは医療の専門家としての判断だよ」


「カツアゲの専門家のまちがいだろ!

 病人の弱みにつけこんで下品なマネしやがって。ポーションの値札も外さねえままで、ナメてんのか!」


「ソウマの言うとおりだよ! こんなのひどい!」


「俺が体張って10万20万を必死に稼いでるってのに、こんなに楽に700万も稼ぎやがって! 許せねえ!」


「あ、うん」


「ふん、貧乏人の嫉妬か」


 ヤブ医者はそう、鼻で笑った。


「貴様になにがわかる? 私はもう半年もこのマルトーを()続けているのだ。

 貴様では想像もつかんような高度な治療を、私は最高の技術でもってこの死にぞこないに施してやってきた。今はその経過観察をしている段階にすぎん」


「なにが経過観察だ。生かさず殺さず金を搾り取ろうと、体力の回復だけしてるんだろうが」


「…………」


 すました顔で黙りやがった。

 図星か。

 ヘドが出る。


「……いや、ゴホッ、いいんだ」


 しかし爺さんは、手を振って俺を制した。


「ぜひぃ、有名な医者なのは、本当だ。オレぁこの先生に任せるって、決めてんだよ。

 治してくれんなら……ゴホゴホッ! ……金くれえいくらでも、払ってやらあ」


「実に殊勝な心がけだ。

 なにしろ治療例がほとんどない難病だからな。医者と患者の信頼関係がなければ、治すことなど到底かなわぬことだろう」


 ヤブ医者が、爺さんの死にそうな顔を見下ろす。

 医者というよりは下級悪魔のような目で、言った。


「ただ、いくら私でも完治は無理だぞ? 鍛冶仕事などもってのほかだ。私の医者生命にかけて断言しよう」


「な……ッ!!」


「なんだその顔は。私の判断が不満か?」


「………………。

 いいや…………」


「そうそう、それでいいのだ。そうして息をしていられるのも、私が治療してやっている恩恵だということを忘れるなよ」


 小馬鹿にしたようなうすら笑い。

 爺さんの顔色が、さらに悪くなったように見えた。


「次回は、知りあいの錬金術師にエリクサー()()()()薬剤を手配しておいてやろう。

 来月までに、そうだな……5000万は用意しておけよ」


「わかった……。ゴホ、ゴホッ……」


 力ない返答。

 うなだれて。

 一気に老けこんだよう。

 深い絶望は、誰の目にも明らかだった。


 はあー、と俺はため息をついた。


「見ちゃいらんねえな、まったく」


 頭をかく。

 先ほど言いかけた話の続きを、することにした。


「おい爺さん、そんな詐欺師の言うことを聞く必要はねえぞ。俺が今すぐちょちょいと治してやる」


「ゴホッ……なんだと?」


「ソウマ!?」


「俺はそこのヤブとちがって、詐欺は大嫌いなんでな。成功報酬70万ゴルドでいいぜ。失敗したらロハでいい。

 どうだ、試してみるか?」


「てめえ……オレの病気がなんなのか、わかってるのか?」


「わからん。だが治せる」


「ヒヒヒヒヒッ!」


 俺の返答に、ヤブ医者が愉快そうに笑った。

 よっぽど面白かったらしい。


「こ、これは傑作だな! なんの病気かも診断できない愚か者が、ずいぶんと頭の悪いことを言い出したものだ!

 治療が必要なのは、貴様の頭のほうなんじゃないのかね!?」


「ソ、ソウマ。本当にマルトーさんを治せるの?」


「問題ない。昔スラムに住んでたドワーフの、ぎっくり腰を治したことがある」


「ヒヒヒヒヒヒヒ! イヒヒヒヒヒヒヒッ!」


 腹を抱えて笑うヤブ医者。

 心配そうなアルメア。

 まあどっちも、常識的な反応だろう。


「笑ってていいのか? 俺が治せたらお医者様は赤っ恥だぜ?」


「ヒヒヒ、そ、それでこの難病を治せたら、確かに私は医者失格だろうな!

 もし治せたら医者を廃業してやろう! 今までの治療費だって貴様にくれてやろうか!? イヒヒヒヒヒヒッ!」


「言ったな?」


 俺は自分の財布から、魔石を取り出した。

 お値段5万ゴルドの中魔石。

 これでいいか。

 おそらく足りるはずだ。


「頼む……」


 爺さんはなにも言わず、静かに頭を下げてきた。

 笑っても怒ってもいない。

 ただただ、わらにもすがる思いなんだろう。


 こんなに必死な相手から、金をいいようにだまし取る。

 その儲けかたは、俺の癇にひどく障るものだった。


「【再利用(リサイクル)】!」


 加護魔法を発動。

 一瞬驚くヤブ医者。

 が、すぐにあざけ笑った。


「ハッ! 病気を治す加護魔法など聞いたこともない! ハッタリだ!」


 ふてぶてしい態度。

 論拠のない言葉ではない。

 こいつの言うとおり、病気を治す加護魔法は存在しない。

 あったらとっくに有名になっているだろう。


「なにをしようが、治せるはずがない! この私ですら、治すことができなかった難病だぞ!」


 しかし俺は、経験として知っていた。

 精霊の血を引く、エルフやドワーフ。

 彼らは、言わば半霊のような存在である。

 そしてその体は人間と異なり、多くの魔力で構成されていた。


 俺が昔治した、ごうつくばりのドワーフ。

 あのクソジジイは俺が魔力を与えてやっただけで、勝手に腰痛が治った。

 与えられた魔力が、勝手に体を再構成したのだ。


 この現象が知られていないのは、おそらく大きな魔力が必要だからだ。

 魔力ポーションでは到底まかなえないほどの、大量の魔力が。


「おお……おおおおっ!?」


 爺さんが声をあげる。

 歓喜。

 わきあがるような。


 みるみる顔色が良くなっていく。

 魔力の光層に包まれて。

 死にかけだったドワーフは、ゆっくりと身体を起こした。


「なっ!?」


 ぴんと張った背筋に、驚くヤブ医者。

 それを見て、俺はにんまりと笑ってやった。

「面白かった」

「続きを読みたい」

などなど思ってもらえましたら、

『下の☆☆☆☆☆をクリック』で応援いただけるとうれしいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 魔力で身体の再構成!?そんな事出来るの!? ヤブ医者じゃないとは思うが、ぼったくりはアウトだな。訴えられたら、負けるレベルで駄目だな。 そろそろ、伯爵勇者の転落が始まりそうだな。 こう…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ