11 金の稼ぎ方 (1)
「しかし、見れば見るほど気の毒になってくるな……」
俺は、思わずそうつぶやいた。
「え? 気の毒って、なにが?」
「お前の装備がだよ」
昼前。
ギルド前で合流したアルメアは、相変わらずひどい格好だった。
グレーターウルフに裂かれた、つぎはぎだらけのチュニック。
穴だらけでボロ布同然のマント。
破れた皮のブーツ。
折れた剣。
浄化魔法で、血に染まってこそいないが。
これで魔物と戦えるのは、アルメアくらいのものである。
「出会ってからずっと気になってはいたんだ。パーティの金の使い道としては、最優先だろう」
「でも、本当にボクの装備を買ってもらっちゃっていいの?
お金減るよ? ソウマはそれに耐えられるの?」
「なんだその反応は。俺をなんだと思ってんだよ」
別にムダ金を使うわけじゃない。
未来への投資というやつだ。
「だって、ボクはもう剣じゃなくて鉄魔法で攻撃するんでしょ。
武器なんか買っても使わないんじゃないかな」
「装備イコール武器という殺傷優先の発想をするな。
防具だ防具。その服もうボロボロだろ」
「えー、まだだいじょうぶだよ。昨日浄化魔法かけてもらったばっかりだし」
「その浄化魔法を毎回血まみれになるたびに使ってたら、金がいくらあっても足りないだろ!
自動で浄化魔法がかかるような高級品を早く買っておけば、結局は安く済ませることができる!」
「やっぱりお金だった……」
話しながら歩き出す。
冒険のためのもろもろは、冒険者ギルドのすぐ近くで売っている。
利便性の観点からだ。
ほどなく、武具を扱う一角にさしかかった。
今回、探すのは鍛冶屋。
それも腕のいいドワーフがいる鍛冶屋だ。
単に丈夫な服を買いたいだけなら、服飾店でもいい。
しかし浄化魔法の付与となると、話は変わってくる。
魔法の付与は、魔石を加工した宝玉にしかできない。
そしてその宝玉の加工は、ドワーフ種族の専売特許だった。
精霊の血を引く彼らは人間と異なり、半霊的な存在だ。
身体の半分が魔力でできている。
宝玉の加工には、その特殊な魔力を使うらしい。
「ふーむ」
パッと見、鍛冶屋は2軒。
両方ともに、売り物だろう武器がディスブレイされている。
手前には。
いかにも繁盛してそうな大型店。
宝玉つきの武器がずらりと並んでいる。
客の入りも上々だ。
そして奥まった路地の方には。
今にも倒壊しそうなオンボロ店。
宝玉つきの装備は、ひとつも見当たらない。
当然、客なんて皆無。
こっちはダメだな。
観察を終え、手前の店に入ろうとする。
と。
アルメアが、袖を引いてきた。
「ソウマ、奥のほうのお店にしよう」
「あの小さい店か?
確かにそのほうが安いかもしれないが、今回は高級品を買いにきたわけだしな……」
「でも、あの剣」
オンボロ店の武器を指さす。
「とてもきれいな鉄で作られてる。ううん、きれいっていうか……落ち着いてて品があるっていうか。
きっとあれ、すごい剣だよ」
「わかるのか?」
「たぶん」
あやふやな言葉。
だが裏腹に、その目は確信に満ちていた。
なるほど。こんな才能も持ってたのか。
鉄のことならば、誰より詳しくてもおかしくない。
「わかった。あっちに入ろう」
――・――
「邪魔するぞ」
入店。
軋むドア、狭い店内。
なのに壁には、あふれんばかりの武器や防具。
多種多様だ。
中には、オブジェとしか思えないくらいでかいハンマーまであった。
こんなの持てるやついるのか?
カウンターには、ドワーフらしき爺さんがひとり。
白ひげと低い身長。
ただし体は、枯れ木のようにやせ細っている。
「ぜひぃ、ぜひぃ……よく来たな……ゴホッ! ゴホゴホゴホッ!」
ていうか死にそうだった。
「おいおい爺さん、寝てたほうがいいんじゃないのか」
「バッキャロー……ぜひぃ、店を開けなきゃ、せっかくの武器を見せびらかせねえだろが!
……ゴッホッ! ゥゴホゴホゴホゴホホッ!」
「開いてんのは店じゃなくてあんたの瞳孔だよ。武器より瀕死の店主のほうに目が行くわ」
一方、きょろきょろと店内を見渡すアルメア。
目が輝いていた。
「わあ……! きれいな鉄ばっかり!」
「そうかあ? やっぱり宝玉つきの装備は、ひとつもなさそうだぞ?」
「うるせえ……ぜひぃ。オレだって、この体さえ動きゃなあ……ぜひぃ」
魔法付与はドワーフにとっても、相当に難しい技術だと聞く。
この死にかけの爺さんじゃ厳しいだろうな。
「でもほら、この槍とかすごいよ!
こんなに芯が強くて素直に伸びてる鉄なんて、ボク見たことない!
上手に伸ばすために、ちがう産地の鉄を3種類も使ってるし」
「な……んだと!?」
アルメアの無邪気な声に、爺さんが血相を変えた。
ガタガタ体をぶつけながら、身を乗り出してくる。
「お、おめえ、オレの技が見えるのか!?」
「あ、うん。たぶんだけど」
「なにがたぶんだコラ! 本職のドワーフだって、ひと目見ただけでそこまでわかるわけが……。
ゴホッ、ゴホゴホゴホッ!」
「ああほら、興奮すんなって」
異様に軽い体を支え、背中をさすってやる。
目の前でぶっ倒れられても困るからな。
「そ、その宝玉の冠……。おめえ、勇者か」
「うん、一応ね」
「そうか……ぜひぃ、この前来た光の勇者とやらは、トーシロ以下だったってのに、ぜひぃ。
嬢ちゃんみてえな勇者も、いるんだなあ……」
聞き覚えのある単語を耳にしながら、爺さんをイスに座らせた。
ぜひぜひ言いながら、カウンターにもたれかかる爺さん。
まるで死体のようだった。
くわっと目を開いた。
「ぜひぃ……気に入った! 勇者の剣を、ぜひぃ、オレに、ぜひ、打たせ、ぜひぃ……」
「いや、そんなイベント起こせる体力じゃないだろ。息切れなのか是非って言ってんのかわかんねえんだよ」
「オレの命と、ゴホゴホッ、ひきかえに、ゴホッゴホゴホッ! 剣を打てるなら、ゴホゴホゴホ! 本望……ぜひぃ!」
「剣どころかクギ一本で息絶えるだろこんなん」
死にかけで意地っ張りの爺さん。
その肩をたたいた。
「しょうがねえな。俺が今から楽にしてやる」
「なっ!? お、オレを殺しても、ぜひぃ、金目のもんなんてねえぞ……!?」
「人聞きの悪いことをぬかすな! いいか、俺はな……」
と。
俺の言葉をさえぎって、入り口が乱暴に開け放たれる。
白衣とカバンの男。
「今日も来てやったぞマルトー。金は用意してあるだろうな」
「面白かった」
「続きを読みたい」
などなど思ってもらえましたら、
『下の☆☆☆☆☆をクリック』で応援いただけるとうれしいです!




