10 仲間の価値 (3)
「ソウマさんすごいですっ! 強いです、ステキですぅっ!」
ギルド受付のフェリシア。
すっごいほめてきた。
俺とアルメアの後ろには、鉄魔法で作ったリヤカー。
山盛りのオークが積まれている。
その周辺には疲れ果てたチンピラたちが、息も絶え絶えにぶっ倒れている。
その様子に、ざわめく他の冒険者たち。
「おい、なんだあれ……」
「もしかして、たったふたりであれを……?」
「ま、まさか。どっかのパーティとの共同だろ!」
「そ……そうだよな! じゃなきゃありえねえよな!」
ひきつり気味に笑っていた。
事実は異なるわけだが、わざわざ訂正する必要もない。
これから毎日、くり返される光景だしな。
「狂暴で知られるオークを、一日でこんなにたくさん討伐したなんてびっくりですぅ!
この支部の一日討伐数の、新記録達成ですよぉ!」
「へえ、そうだったのか」
「しかも素材としては状態もよくて、ギルドとしても大助かりですぅ。
ふつうだったらこの数は魔法でなんとかしますから、半分以上コゲコゲなこともめずらしくないんですよぉ。
そういう意味では討伐数以上に、ギルドから評価されると思いますぅ。背中から一撃なのが多いのも、腕の良い冒険者感が出てますしぃ。
専門家として、自慢していい戦果だと太鼓判を押しちゃいますよぉ!」
新人のわりに物知りだな。
ポンコツかと思ってたが、実務は優秀なのかもしれない。
「これはアルメアさんの、勇者魔法の戦果ということですけどぉ。
ソウマさんの援護があってこそだったんですよねぇ?」
「いやちがう。あの地獄は全部こいつがやったことだ」
「まぁ、うふふ。アルメアさんの報告とは、それこそずいぶんと食いちがうお話ですねぇ」
「もー、だから全部ソウマのおかげなのに!
嘘だからね! ソウマがいなかったら、こんなの絶対無理だったからね!」
「そんなんじゃないんだって! 俺はやってない! 無実だ!」
本気で否定する。
でもフェリシアは、ほほえましく見つめてくるだけだった。
この想いは届かないのか。
「……それにしても、ソウマさんにこんなことができたなんてぇ。
これは大変な問題ですよぉ」
「問題? 何の話だ?」
アルメアを見る。
知らないと首を振られた。
と、フェリシアの表情が、みるみる変わっていく。
「うー……!」
可愛くふくれた。
受付嬢・憤怒の相。
一体どういうこと。
俺はなんの逆鱗に触れてしまったというのか。
「ソウマさんの、魔石を魔力に変える魔法のことですぅ!」
興奮して、ぺし! ぺし! と机をたたくフェリシア。
「ソウマさんはこんなに強力な加護魔法が使えるのに、冒険者ギルドは今日の今日まで!
その効果どころか、加護魔法をお持ちだったことすら把握してなかったんですよぉ!」
「ええっ!? ソウマの魔法って、ギルドも知らなかったの!?」
「そうなんですよぉ!」
「え……なんで?」
冒険者登録の時に、ちゃんと申告したはずだが。
「信じられないですぅ! これはギルドへの重大な背任行為ですぅ!」
「あの、ひょっとして俺怒られてる?」
「ちがいますよぉ! ソウマさんはぜぇんぜん悪くなくて、むしろ被害者ですぅ!
悪いのはソウマさんの自己申告をにぎりつぶしてた、前のパーティのひとたちですぅ!」
「……前のパーティって、ソウマを追放したとかいう連中のこと?」
「そうですぅ! 勇者ディオスはこんなに価値があるソウマさんの加護魔法を隠して、ただのポーターとしてパーティ登録してたんですぅ!
だから戦闘にまったく貢献しない、ただの荷物持ちだと判断されて、今までずっとEランクだったんですよぉ!」
べしっ!
書類を机に叩きつけるフェリシア。
一年前、確かに書いた覚えがある書類だ。
しかし加護魔法の欄は、ぐしゃぐしゃと塗りつぶされていた。
アルメアの目がつりあがっていく。
俺はうんざり顔。
あいつ、そんなことまでしてたのかよ。
「じゃあ、ソウマのこれまでの戦果を、ディオスが全部横取りしてたってことじゃないか!
そんな不公平なことを、勇者がしてたの!?」
「まあ、やりそうなやつではあったな」
徹底的に日常的に、俺を見下し続けていた男だった。
賤民とか、卑しいスラムの出だとか。
金払いだけは良かったから、ハイハイと聞き流していたが。
根本的にろくな人間ではない。
「なにそれ! 仮にも勇者と呼ばれてるくせに、平気でそんな汚いマネをするなんて……!
許せない!」
「アルメアさんの言うとおりですぅ! 今回のことはわたしが責任をもって洗いなおして、ギルドの上層部へとしっかり報告しますぅ!
たぶん勇者ディオスには、なんらかの罰則が適用されるはずですぅ!」
燃え上がるアルメアとフェリシア。
ふたりとも正義感が強いな。
「ソウマはなんで他人事みたいな顔してるの!? 自分のことじゃないか!」
「そうですよぉ! もっと怒っていいと思いますよぉ!」
「俺は冒険者ランクにはこだわりないからなあ。そういう雇い主だってあきらめてたし」
これがもし金の分配をごまかしたとかであれば、地の果てまで追いかけて野郎を締め上げるところだが。
あのパーティでは魔物素材の剥ぎ取りも換金も、すべて俺がやらされていた。
なので、その可能性だけはない。
「もぉ~、ソウマさんはひとが良すぎますよぉ」
「ね。冒険者として心配になっちゃうよね」
「ですですぅ」
「仲いいなお前ら」
お前らに心配されるような育ちはしてないぞ。
俺から見れば、むしろこいつらのほうがだまされそうで不安だ。
知りあったばかりの男に対して、親身になりすぎだろう。
その後は特になにごともなく。
依頼達成の討伐金と、オーク素材の売却金を受け取った。
「へっへっへっへっへっ……」
金を数えながらの、宿への帰り道。
笑いが止まらない。
オーク1体の討伐報酬が5千ゴルド。
17体で8万5千。
素材売却益とあわせ、今回の収益は総計で約13万ゴルドとなった。
一日の稼ぎと考えれば、十分な額だろう。
そして賭けで巻き上げた50万が加わり、63万。
俺が笑うのは当然と言えた。
3万ゴルドの魔石を使ってしまったことだけは悲しかったが……。
「ねえ、ソウマ」
「なんだ? 宿なら、まだ別々のままだって決めたろ?」
おたがい、先払いにした宿代がまだ残っているのだ。
さ来週には合流して、ひとつの宿にまとまる予定だった。
「そうじゃなくて……その」
もじもじ。
胸の前で指を組み。
横を見て、俺を見て。
「ボク、どうだったかな。恩返しできてるかな。
……ソウマの仲間の資格、ちゃんとあるかな?」
心配そうに、そう言った。
なんだ、そんなことか。
俺はアルメアを、非常に高く評価している。
それがまだ伝わっていないらしい。
ほがらかな笑顔で、答えてやる。
「もちろんだ。アルメアは支払い時に俺の財布をのぞきこんだり、共同資金の管理をやたら強硬に主張したり、翌朝共同資金とともに消えていたりしなかったからな。
資格はじゅうぶんと言えるだろう」
「なにその基準!?」
「なにって。俺の故郷の冒険者の、ごく一般的な特徴だが」
「ソウマがお金にすごくこだわってる理由、少しわかってきた気がする……」
なぜか、いたわしげな目で見つめられた。
「……でも、そっか。
つまり、仲間だとは思ってもらえてるってことだよね?」
「もちろんだ」
「えへへへ……!」
うれしそうに、そう笑う。
笑っているぶんには、ただの優しい娘に見えた。
その笑顔に、信頼に。
俺なりに報いたいと、そう思った。
さしあたっては。
俺は金貨袋を突き出し、提案する。
「明日は、この金でお前の装備を買いに行かないか?」
「面白かった」
「続きを読みたい」
などなど思ってもらえましたら、
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