1 光からの追放 (1)
俺の名はソウマ。
20歳。
黒髪黒目、黒いコートに黒マント。
職業は冒険者だ。
人里離れた、この密林の奥で。
俺は魔物と戦っていた。
「クケェェェェェェェ!!」
耳をつんざく、魔物の鳴き声。
怪鳥ガルーダ。
ヤツは鳴きながら、高位魔法陣を展開。
風魔法の竜巻を放ってきた。
かわすと、後ろの木々がズタズタに切り裂かれる。
「おいクズ加護! 早く光の勇者たるこの私に、魔力をよこせ!
このパーティから追放されたいのか!?」
長い金髪の美形な男が、そうがなり立てた。
こいつは光の勇者ディオス。
俺を荷物運びとして雇っている、この勇者パーティのリーダーだった。
「わかってる!」
俺は、背中のリュックに手を入れて。
こぶし大の魔石をひとつ、つかみ取る。
これは黒い宝石のような見た目をしている、魔物の核だ。
魔道具のエネルギー源として利用されている。
が、俺に限っては、もうひとつの使い道があった。
集中して魔力を練り。
俺だけの加護魔法の、呪文を唱えた。
「【再利用】!」
手の中の魔石が、音もなく崩れ去って。
美しい魔力のきらめきへと変換され。
右手に宿ったその輝きが、周囲をまばゆく照らしだした。
魔物の核である魔石を分解し、元の魔力へと変換する魔法。
これが、俺だけが使える“再利用”の加護魔法の効果。
勇者ディオスが俺を雇い続ける理由でもある。
これがある限り、俺が追放されることなどありえないだろう。
「さっさとそれをよこせ! のろまで役立たずのクズ加護が!」
ツバを汚く飛ばすディオス。
俺は右手で、その背中に触れてやる。
魔力譲渡。
燐光が、ディオスの体を包みこんでいく。
「クハハハ、来た来た……!」
口角を吊り上げるディオス。
バサッとマントを払って、決めポーズ。
「食らうがいい! 鳥ふぜいなどよりはるかに優れた、この光の勇者の攻撃魔法を!」
ディオスの右手が帯電し、スパークを散らす。
こいつの加護魔法は“電光”。
過去の勇者が使ったとされる、強力な勇者魔法だ。
それはいいのだが、相手が近すぎる。
このままでは俺まで巻きこまれてしまう。
「お、おい待て、こんな近くでぶっ放すな!」
「うるさい! この私に指図するなっ!
【爆轟電】ッ!!」
呪文とともに放たれる、極太の電撃。
敵に命中し、大爆発を起こした。
「ギョエエエエエエ!!」
一軍にも匹敵するという強大な魔物、ガルーダ。
それが一撃で消し飛んだ。
俺の再利用魔法で、ディオスの電光魔法を強化し放つ。
俺たちはこの連携により、どんな強い相手だろうと撃破してきた。
まさに必殺の威力だった。
「うおおおおおっ!?」
しかし倒したはいいが、余波が周囲を薙ぎ払う。
吹っ飛ばされる俺。
背中から、地面に落ちていく。
その先には岩が。
「くっ!」
俺は背負ったリュックをかばって、とっさに体をひねる。
そうして腹から落ちた。
「ゴハッ……!!」
熊にでも殴られたような衝撃。
腹を押さえ、岩からずり落ちる。
「ぐうっ……。
へへっ、へっへっへ……!」
俺は笑った。
脂汗を流しながら。
なぜなら、金を失わずに済んだから。
リュックに入っている魔石は、ディオスが買い集めた高級品だ。
ひとつ壊しただけで100万ゴルド。
一般的な月収の、5倍もの弁償をさせられる。
それを回避できたうれしさが、受けた痛みを上回っていた。
「痛い痛い……へっへっへっ!」
「上級の変態か……?」
ディオスが、イヤそうにそう言いやがった。
お前のせいだろうが……。
痛む腹を押さえて、抗議の声を上げる。
「おいディオス、気をつけろ! 俺を魔法に巻きこみやがって!」
「フン、貴様がのろまなだけだろうが。
いかに私が優れた勇者であろうとも、クズ加護の無能ぶりにまで責任など取れるか!」
悪びれもしない。
つくづく性格の悪い奴だ。
……だが、金払いだけはいい。
だから俺は、こいつに雇われた。
10億ゴルドもの借金を返すには、まともに働いても不可能だからだ。
雇われてからの1年間。
俺は、もらった金に見合うだけの働きを心がけてきた。
真面目に、誠実に。
ポーターとして働くために、筋力強化の魔道具だって自腹で購入した。
それで借金が1000万も増えたのは痛恨である。
だがその支払いも、ようやく先日終わった。
来月からは昇給もされる。
今までの苦労が、ようやく報われつつあった。
本格的に、元々の借金を返していけるようになるんだ。
そのためなら。
10億の借金を返すためなら。
この程度の暴言、笑って聞き流してやろうじゃないか。
「へっへっへ……。お前が破産するその日まで、給料を吸い取り続けてやるからな……!」
俺はほがらかに笑いつつ。
ガルーダの体から、大魔石をはぎ取っていく。
相当な値がつくだろうが、これは雇い主のディオスのものという契約だ。
俺は盗みやごまかしで、借金を返すつもりなどなかった。
おとなしく共用リュックへと、魔石や素材をしまう。
一方のディオスは。
魔物が守っていた、樹上の宝箱を開けていた。
「おおっ! これが神器か……!」
澄んだ青色の宝玉がついた腕輪。
ディオスはそれを右腕に着けて。
ニタニタと笑い、俺を見下ろした。
なんだ?
「クハハハハハハハッ!
これでようやく! ようやくこの言葉を、貴様に言い渡すことができるぞ!」
ディオスはバサッ! とマントを払って。
地面に座る俺に指をつきつけ。
その言葉を、言った。
「生まれも能力も何もかもが劣っている、卑しいクズ加護ポーターめ!
貴様は『追放』だ!!」
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