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6 約束

 そうこうしていると、時間がたってしまったのだろう。会長のうめき声が聞こえてくる。

「!! もう時間がない。やっぱり今の私じゃ力が弱すぎて、ダメみたい。大丈夫。空まで連れて行ってくれなくても、きっと恨んだりしないわ。だけど、連れて行ってくれるって約束してくれないかな?」

「わかった。約束する」

「は、早くしないと!!」

 私は会長が動き出したときのために、近くにあった鉄パイプを握る。

「私の額と、カソードの額を合わせて。カソードが一言『契約する』と言えば、契約は完了するから」

「うん。わ、わかった」

 カソードは恐る恐ると言った感じで、声のする方に顔を突き出す。

「カソード」

 額を合わせて、ルルが言う。


「契約する!」

 カソードが叫ぶと、辺りは白い光に包まれ、私の瞳はその順応についていけずに視界を失う。

 しばらくしなんとか視界が戻ってくると、そこにはルルの姿はなく、銀髪の幼女と、瞳が銀色に輝くカソードがいた。

「あれ、さっきのルルお姉ちゃんは? 天使……様は?」

「てんしー?」

 銀髪の幼女が不思議そうにカソードを見ている。

「さっきまでここに、女の人がいたんだけど、どこにいっちゃたんだろう」

 疑問顔で幼女を見つめるカソードはすっかり視力を取り戻したようだ。


「けけけけ、契約を! カソード、貴様! 私に、神に盾突くつもりか!」

 血走らせた目は、定まる場所を忘れてしまったのか、大きく見開かれている。会長の足はおぼつかないままだが、一心不乱にカソードへと向かっている。

「カソードに近づかないで!」

 私は手を拡げて、2人を守るように前に立つ。

「おにいちゃんが、かそーど?」

 背後で幼女が可愛らしい声で、たずねている。


「うん、そっか。じゃあ、あのひとはおにいちゃんを、傷つけようとしているんだね」

「その声、もしかしてきみは……」

「それよりも、おにいちゃん。ちょっと我慢してね」


 幼女は、すらりと私の前に出てくる。

「危ないわよ!」

「だいじょうぶ」

 ゆったりとその手を会長に向けると、会長はそこに壁があるかのようにピタッと停止する。

「おもいだせないけど、おにいちゃんのために、わたしはいるの。だいじなおにいちゃんを傷つけるひとは許さないよ」

 再度、幼女が手を伸ばす。

「おにいちゃん、ちょっとちから、貸してね」

 カソードにそう断ると、銀髪の幼女はなにやらぶつぶつと唱え始める。すると、彼女の髪の毛はそれまでの銀色ではなく、綺麗な赤毛に変色していく。

 その声は歌のようにも聞こえる、不思議な安心感をもたらすものだった。ずっと聞いていたいような、そんな声。


 ギギギギギ……。

「こ、これはあ、息が……、なにを……」

 会長の肌が茶色く硬質なものに変化していく。それは時に隆々とし、時に節くれだち、ここからは見えない空に向かっていかんとする意志を見せる。会長の足からはいくつもの細く茶色の物体が、まるで無数の手が伸びるように、地面へと潜っていく。


「これは、木?」

 背後から聞こえるカソードの声で、私もはっきりと確信する。

「植物に変化した」

 私は確認するように、事実を口にする。

「わるいひとは、いなくなったよ。カソードおにいちゃん」

 振り返る幼女は、無邪気な笑顔を浮かべている。褒めてくれと言わんばかりにカソードの許へと足を進めようとする。すでに幼女の髪の色は、銀色に戻っていた。

 

「ごめん、ちょっと待って」

 私は、遮るように前に立つ。

「どうしたの? おねえさんもわるいひと?」

「違うわ。私はカソードの姉よ。えっと、ルルちゃん? だよね」

「そうだよ! どうしてわかったの?」

「ルルちゃんは何も覚えていないんだね。私達はあなたにお願いされたの。空を見せて欲しいって」

「お空! うん、見たい。行かなきゃいけない気がするの。お姉さんが連れて行ってくれるの?」

「うん、連れて行ってあげる。でもね、その、約束して欲しいの」

「うん、約束する。なあに?」

 楽しそうに笑うルル。

「えっとね、さっきの会長、男の人にしたことは、むやみにしちゃダメだよ。カソードもビックリしちゃうから。ね?」

「そうなの?」


 ルルは、私の陰に隠れているカソードを覗き込む。

「うん。助けてくれて本当にありがとう。でも、ちょっとびっくりしちゃったかな。だから、約束してくれる?」

 ルルは、状況を整理するために首を深く傾げて考えている。銀色の髪の毛がその動きで、揺られわずかな光を反射する。

「つまり、力を使うときは、お姉ちゃんか、お兄ちゃんに言えば良いの?」

「そういうこと。約束して」

「うん。約束する!」

 ルルは、これでいいでしょとばかりにカソードに抱き着く。

「あ、そんなに勢いよく抱き着いたら……」

 そんなに勢いよく抱き着いたら、カソードが倒れてしまう。

「危ないじゃないか。そんなに勢いよく抱き着いたら」

 私の杞憂をよそにカソードは、抱き着いてきたルルをしっかりと抱き止めた。

「どうしたの? お姉ちゃん」

「どうしたって、あなた目は見えているのよね?」

「あ、うん。見えてるよ。前よりも見えるくらい。それになんだか、すごい気持ちがいい」

「それは、私とつながっているからだよ。私はお兄ちゃんから借りている力で、強くなれるの。それはお兄ちゃんも一緒。だから、カソードお兄ちゃんと私は、一心同体? なんだよ」

「一蓮托生のこと」

「え、わかんないけど、そういうことなんだよ」


 確かにカソードは、しっかりと自分の足で立っている。

 気のせいかもしれないけど、同じ年ごろの男の子と比較しても幾分か筋肉質になっている。もっとも、違いが目立つところと言えば、瞳が銀色になっていることだが。

「ねえねえ、もう行こうよ。お空見に行くんでしょ? それにここにいたら、きっと他の悪い人来ちゃうかもしれないよ」

 ルルがカソードと私の手を取って、催促する。


「行くって言ってもどこへ?」

「どこでもいいじゃない。きっと、この先には大きい道があるよ。なんとなくわかるの。そっちに進むべきだって」

「不思議な子ね。私はエリシアよ。ルルにもう一度自己紹介するのも、なんか変だけど、よろしくね」

「うん、エリシアお姉ちゃん! 一緒にお空を見に行こうね」


 私達は、気になってしまった会長に一応、手を合わせてルルが引っ張る方へと進んで行く。

「ふふふ。何かあなたといると不思議と楽しい気分になって来るわね。天使のよう」

「むー、その『てんし』ってなんなの? なんか嫌なんだけど」

「あはは、そういうところは、覚えているんだね」

 カソードが楽しそうに笑う。

「まるで、妹が出来たみたいだわ」


 私達は「白の会」から逃げるようにして、もといた町を後にした。

 記憶を失い、ちいさくなってしまったルルの願いを叶えるために。

 このさき、どんな困難が待っているのだろう。私にはわからない。でもきっと、かそ―ドとルルと一緒なら、乗り越えていける気がする。


とりあえず、ここまでで、第1章のプロローグになります。

以降は少し考えてから投稿してく予定です。

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