電子鬼
なんか凄く眠いです。
も~いいか~い
タブレットにその文字が浮かぶ。
えっ?
TouTuberを見ていたが、アメリカの歌手だから日本語が出てくるはずはない。
バグ?
いや有り得ない。
目の錯覚かな?
一瞬現れただけだし。
私は気にしない事にした。
私はベッドに寝転がっていたが起き上がり着替える。
そして、一階のキッチンに向かった。
「花奈おはよう」
「母さんおはよう」
「今日は早いわね」
「うん。宿題のプリントを忘れたから、早めに学校にいくわ」
「そうなの。でも慌てて自転車を飛ばさないでね」
「うん。気を付ける」
「はい。お弁当」
「母さん。ありがとう」
私はお弁当をカバンにしまうと、自転車に乗って学校に向かった。
父さんは単身赴任で県外に居る。
当分ここには帰れない。
寂しいがしょうがないね。
私は恵まれている。
料理上手のお母さんに優しいお父さん。
家はまあまあお金持ちで、何不自由ない生活。
不満と言えば、数学の先生の宿題が多い事ぐらいかな。
信号機の前で止まる。
ピッピッピッピッと電子音が、時を刻む。
も~いいか~い?
私はハッとして辺りを見回したが。
子供の姿はない。
それどころか人影もない。
至って普通の住宅街だ。
おかしいな。
確かに子供の声がしたんだけど。
信号が青に変わったので、私はペダルをこいだ。
「おや? 珍しいね。花奈が宿題を忘れるなんて」
仲良しの五月が声をかけてきた。
私と五月はアメリカのロックグループ【ブルーファルコン】のファンなのだ。
彼女はきりりとした才女だ。
今度の日曜日、彼らのコンサートがあるから、二人で見に行く事にしている。
「カバンにプリント入れ忘れたのよ」
「それはそれは……私のプリント写す?」
「すまぬ。見せてくだせえ~お代官様~」
五月は笑ってプリントを見せてくれた。
「ねぇ五月」
私はプリントを写しながら五月に尋ねる。
「かくれんぼってしたことある?」
「かくれんぼ? 懐かしいね。小学生の時、田舎に帰って従妹達としていたわね。確か鬼が数を数えているうちに子が隠れるって奴よね」
「そうそれ。流行ってるのかな? 学校に来るときに声を聴いたような気がしたの」
「ああ。花奈の家の近くに公園があるから登校前に遊んでたんじゃないの?」
「そうなのかな?」
信号機の所から公園はかなり離れているから声は聞こえない。
その事を五月に言う前に先生が教室に入ってきた。
~~~*~~~~*~~~~
も~いい~か~い?
その声に起こされた。
スマホを見ると夜中の3時だ。
夢を見たのか?
スマホの画面が一瞬だけ歪み人影が映る。
慌ててスマホを投げ捨てて、布団を被る。
ま~だだよ~
ま~だだよ~
何も聞かなかった。
何も見なかった。
これは夢よ。
~~~*~~~~*~~~~
も~いい~か~い
今日は五月とコンサートに着ていく服を見に来た。
待ち合わせは電気屋の前だ。
秋葉原は相変わらず人が多い。
電気屋の大きな画面に人気アニメの曲が流れる。
も~いい~か~い
私はびくりと肩を震わせ、電気屋の画面を見上げる。
ザザザザザザザザザザザザ……
画面が歪み一人の少女が浮かび上がる。
そして……再びアニメの曲に戻る。
み~つけた~
女の子の声がした‼
横断歩道の真ん中に赤い着物を着た少女が立っていた。
長い黒髪に、口元にはホクロが二つ。
少女はにたりと嗤う。
「ごめんごめん。待った?」
「うん。待ったよ。罰として不義屋のケーキをおごって~♪」
「あ~しょうがないな~。あれ? 花奈ってこんなに美人だっけ?」
「ふふ……今日はお化粧しているから」
彼女は照れたように笑う。
その口元にはホクロが二つ並んでいた。
五月‼ 五月‼ 五月‼ 気がついて‼
そいつ‼ 私じゃない‼
電気屋のテレビの画面に捕らわれた花奈は、画面を叩き声の限り叫ぶ‼
だが……
その声は五月には届かない。
五月の隣にいた少女はちらりとテレビを見て、勝ち誇ったように嗤う。
鬼は子を捕まえる。
捕まった子は鬼になる。
も~いい~か~い
も~いい~か~い
誰か私と代わってよ。
花奈(鬼)はにたりと嗤った。
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2021/7/7 『小説家になろう』 どんC
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