表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
六畳異世界談話  作者: いちね
5/12

何にのれますか

「こちらでは点滅する流れ星があるのですね!」


「点滅する流れ星?」


 チャイムが鳴らされたので彼が迎えに行くと興奮し切った顔の青髪の子がドアを開けた瞬間そう言った。その話を聞いたことのない彼は疑問符を浮かべるだけだった。


 玄関前で動かない青髪の子を「邪魔」と後ろから押しながら猫型の子はさっさと入ってきた。青髪の子ではうまく聞き出せないからと彼は部屋に向かう猫型の子に追いかけながら聞いた。


「え?どういうこと?」


「星を眺めていたら赤く点滅する流れ星が横切った。以上」


「へえーあれから仲良く星を眺めているんだ」


「あぁ?」


 からかうように言った彼に猫型の子はドスをきかせた声で言うがその猫耳と尻尾は小刻みに動いている。


「んふふ。なんでもないですー」


「笑ってんじゃねーか!」


 言うと猫型の子ばたんと部屋のドアを閉めた。


「えぇ……?僕の部屋なんだけど……」


 自室の前で立ちつくしてしまう彼。そこに青髪の子が追い付いてきた。


「あれ?お部屋に入られないのですか?」


「締め出された」


「あら。駄目だよー。入れてー」


 目をぱちくりさせた後、青髪の子は優しく扉をノックして中の猫型の子に話かけた。それに彼も便乗する。


「そうだよー入れてー」


「お前は黙れ!」


「もう。もうちょっと優しく話すって言ったじゃない」


「こいつにはしない」


「それじゃあ約束と違うじゃない」


「だってこいつが……!」


「自分の言ったことに責任持たないと」


「んぐ」


 どちらが優位に立っているのかよくわかる会話だ。


「――善処する」


 それしないやつじゃないかと彼は思ったが青髪の子はそれでも良かったらしかった。


「じゃあ入れてくれる?」


 扉がゆっくりと開く。猫型の子の尻尾が大きくバタバタと動かされている。少しからかい過ぎたかもしれない。


「あなた様もあんまりからかわないであげてくれませんか?」


「善処しとくよ」






「うーん。ネットにはそういった流れ星のことは書いていないね」


「そう、ですか」


 青髪の子は落胆した。彼としては調べる前から検討はついていたが、もしかしたら彼の知らない星があるのかもと思って調べた。が、どうやら最初に考えていた通りのようだった。


「まあでもあれかなー。たぶん」


「ご存じなのですか!?」


「うん。でも流れ星じゃなくて飛行機」


「ひこうき?」


 幼い子供が知らない単語を音のまま反復するように青髪の子も言葉の意味をすぐに理解できていないようだった。科学技術がこちらより進んでいたとはいえ、すでにファンタジー世界になったことによりその技術を生かせていない。知らないことがあるのかもと彼は思ったが、実際その通りのようだった。


「そう。空を飛んで行く機械で飛行機。知ってる?」


「すみません。私は見たことがなくて。聞き及んだことならあるのですが」


「あー、あれか」


 猫型の子はベットの上から菓子を摘まみながら反応を示した。彼女は二人が部屋に入って来て早々、彼の部屋に備えなられている除菌スプレーを彼のベットに吹き付けた後、その上にふてぶてしく横になった。少しいじりすぎたようである。暫くいじるのはやめておこうと彼は思った。


「見たことあるんだ」


「空の高いところ飛んでいる豆粒みたいなものならな」


「へえ」


 どうやら全様は猫型の子も知らないらしい。彼はスマホで二人に飛行機の写真を見せた。


「鳥みたいなんだな」


「まあ空飛ぶしそうなんじゃない」


 適当に返すと半眼でねめつけられた。別に雑に対応したわけじゃなくて詳しく知らないせいなだけだ。


「その飛行機というのは光るのですか?」


 当初の疑問を彼に尋ねてきた。


「いや、なんか飛んでいるのを知らせるための物だった気がする」


「あー夜じゃあ何も見えないからな」


「そういう事だと思う」


 詳しく知るためにはスマホで調べた方が早い。彼がスマホで文字を打とうとすると、目を丸くしている青髪の子が目に入った。


「どうしたの?他知りたいことあったら今調べるけど……」


 しかし青髪の子は首を横に振った。猫型の子は調べろと目で催促してきた。まあそのつもりだからいいんだが。


「それでは夜まで飛んでいらっしゃるのですか?」


 それだけを青髪の子は彼に聞いた。


「え、うん。そのはずだけど」


 夜中にその光る姿を目撃したのならまあそのはずである。しかし、確認するように尋ねてきたのでどうやら異世界由来の何かがあるらしかった。事実、青髪の子は素晴らしい事のように目をキラキラさせているし、猫型の子も羨ましいというような顔をしていた。


「すごいですね!」


「それはすごいな」


 よくわからないところに素直な賛美を送られても彼は戸惑うだけだった。


「あっちじゃ空を飛べないだろうなあってのは分かるけど夜までってのに驚かれるとは思わなかったな」


「夜は危険すぎるからな」


 しみじみと猫型の子は言った。青髪の子も深くうなずいている。


「どう危険なわけ?」


「神様方の生みだされた魔獣が闊歩しているのです」


 恐ろし気に青髪の子は言った。


 神様がいるのでそう言った物もいるのは想像がつく。ただどうやら危険なものらしい。


「ちなみにどんな奴?」


「全身毛で覆われていて手足が発達していて人なぎで人間数人が軽々飛ばされてしまうような魔獣とか」


「骨に覆われた全身鎧のような出で立ちをしながら車並みのスピードで空を飛びながら突っ込んでくる魔獣とかな」


 実体験を多分に含むその話し方に想像しながら熊でも普通に危険なのにそういう存在が危害を加えてこようとするのは確かに恐ろしい。


「やばいな」


「まあいつもの神同士の喧嘩の産物だな。いつも振り回されてはいるが、無秩序な魔獣にはさすがに人間も獣人も慌ててな。比較的こっち側にやさしい神に頼んで夜間のみ活動することと人間の建物内には入らないことを魔獣に施してもらった。本当は消滅してくれたらよかったんだが」


「そこまではしてくれなかったわけか」


 自由奔放で未だに日本観光をしているだろう神を彼は思い出す。願い事を聞き入れそうではあるが、それを十全にかなえてくれるとは思えない。そんな彼の思考を読んだのか青髪の子は「違うのです」と彼の考えに修正を入れた。


「親身な神様は本当に人間を思って行動して下さるのです。ただ、味方になってくれる神様は本当に少なくて、嫌っているか無関心な神様方が大多数なんです。神様にも立場というものがありますから」


 神様側も一枚岩ではなく大変らしい。


「まあでもそう言った神様がいるのは安心だよね」


「はい。ある程度の便宜は図ってくださるので人間は未だに滅びずにいられるのです」


「なるほどねー。そう言えばさっき車とか言っていたね。車はあるんだ」


 神様のせいで衰退していた世界を彼は想像していた。がその親身になっている神様とかのおかげでそこまではないのかもしれない。


 猫型の子は彼の発言に頷いた。


「別に全部の科学技術が使えなくなったわけじゃあないからな。特に通信技術や飛行技術がほぼ駄目になった時点で陸路の交通の便の重要性は増したし。車は必需品だ。海のように神の加護がなければ渡れないということもないしな」


 最後にまた気になることが言われた。空もそうだが、海もそうなのか。


「海そんな危ないの」


「海の危険度は空の比じゃないからな。空はある程度視界に映ることが出来るが海はそうもいかない。海面ぐらいしか見えないからな。下の方から襲われたら一溜まりもない」


「えぇ……。海水浴とかできないじゃん」


 去年の友達と海に遊びに行ったことを想い出してあんなに楽しいことができなくなったのかと思った。しかし彼を安心させるように青髪の子はにこりと笑った。


「いえ、大丈夫です。海水浴はできますね。神殿を建てた近くには出ないそうですから」

 

「あー神様の加護か」


「はい。ですので、海側では神殿がたくさん作られています。ですが、その効果も全域というわけにもいかないのです。船にも勿論加護を施すのですが、危険性がなくなるわけではないですし」


 大変なのは変わりないがある程度は融通が利くらしい。だが、ここで海に囲まれたこの国のことを思った。


「じゃあ、この国みたいな島国は大変じゃない?」


「はい。連絡を取り合うことも困難になりましたから。大陸から近ければある程度のやり取りも簡単なのですが」

 

 猫型の子が続きを言う。

 

「国の中で自給できればいいんだが、すべての国がそんなことが出来るわけもないからな。だから交易するわけだし。現状、どんなに大変でも海を渡っている。空も近くまでなら出来なくはないし」


 海による不便さは陸地以上だろう。彼はここに来て初めて異世界の人間のことは思った。当然、人間生活の不便さは前々から聞いてはいたが、ここに来てその解像度がぐっと上がってしまった。


 今まではそれこそテレビで見るような対岸の火事という具合でさほど真剣に受け止めてはいなかった。むしろ、こんな面倒なことを引き起こした人間なんて少し痛い目を見たらいいのではぐらいにまで彼は思っていた。


 しかし、ここに来て面倒ごとを起こした団体以外の人間の話を詳しく聞いてしまった。彼はここで漸くそれ以外の人々、この異世界からの来訪者らが来る前までの彼自身のような普通の人々が生活しているという事実を理解してしまった。


「そっか……」


 絞り出すように言ったその言葉に彼が予想以上にショックを受けていることに二人も気がついた。ただ、二人がその後口に出したのは彼をいたわる言葉ではなかった。


「あんまり気にするなよ人間同士だし、同情もあると思うがだからと言ってお前が戻ってすぐ何とかなるというわけでもないからな。だから戻るようなことは考えなくてもいいぞ」


「……はい。技術は使えなければ廃れていくものですから。体系化してなるべく残してはいるのですが、すぐさま前のような生活に戻ることが出来るわけもありません。でも、あなた様が戻られたらこのような現状は無くなって少しずつでも先に進めることができます。ですので、どうか」


 ここで、ある程度対話慣れをしてきた者であれば、彼を気遣うようなことを言ったであろう。しかし二人は片や人造人間。片や実験されてきた人間。普通の人生経験を、相手を慮るような落ち着いた会話の経験があまりなかった。ここ最近はこの三人でゆったりとした時間は流れてはいたがたかだが、数週間の話である。しかも二人は彼を異世界に連れ帰るか帰らないかでこの世界に来ている。その目的があった。だから、二人は性格は悪いが精神はそこら辺の一般人でしかない彼の弱まった心に自分の意見しか言わなかった。


「うん。考えとくね」


 彼はそれを言うだけだった。

次回7月22日更新予定

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ