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六畳異世界談話  作者: いちね
3/12

ネットって使えますか

「あぁー、見えないのならカンニング出来るじゃん」


 机に突っ伏して彼はため息をつきながら言った。


「はあ?お前そんなつまらないこと、私たちにさせるつもりだったのか?」


 彼に入れてもらった緑茶を湯呑で飲みながら、お菓子をつまんでいた猫型の子は呆れながら言った。もう一人の青髪の子は幸せそうにお菓子を食べていた。彼が帰りにコンビニで買った色々な種類のお菓子が小袋に入ったものを出していた。ちなみに二人は彼が帰ってくるのをいつからかは分からないが家の前で待っていた。昨日は部屋の中に突然現れたというのに変に律儀なところがある。神様はもっと漫画を読みたいからと漫画喫茶のへと行ったらしかった。


「いや、違うんですよ。本当に今回は酷そうというか……」


「自業自得だろう。勉強していなかったお前の」


「おっしゃる通りではあるんですが……」


 正論を口悪くいう猫型の子に彼は二重の意味で言い返せなかった。


 昨日の会話からなんとなく思ってはいたが、どうにも猫型の子は勉学というものに興味関心というか勉強好きの片鱗が見える。


 彼としてはそんなものを持ち合わせてはいないので彼女が頭を使うことが好きだというのなら素直に感心した。


「もしかして、勉強が好きだったりする?」


「なにあほなこと聞いているんだ?お前」


「あ、すみません」


「勉強なんざ出来て当然だろうがよ」


「思ったより秀才な言葉が返ってきたな」


 出来て当然という意味のあほだった。どうやらこの子は彼よりも幾分と頭がよろしいらしい。ここで彼はふと思いついた。机の上に投げ出された鞄。そこから今日のテストのために持って行った教科書を一冊出す。見もせずに出したそれは化学の教科書だった。それを彼女に見せてみた。


「あ?なんだこれ」


「こっちの世界の化学の教科書です」


「化学?」


「はい」


「ふーん」


 そう言って彼女は彼の手から教科書を手に取るとぱらぱらと軽く読み始めた。その後ろからこっそりと青髪の子がのぞき見をしている。


「興味、あります?」


「あ、いえ。私は学がないのでさっぱり分からないんです。ただ、あなた様がどのようなことを学ばれているのかなと思って」


 答えながらその顔を赤く染めて彼に向かってほほ笑んだ。うーん、かわいい。


「研究所育ちのお前はそうだろうな」


 教科書を閉じながら猫型の子が言った。その言葉に青髪の子は困ったように笑った。


「ほら、返す。つーか、こっちの世界の言語がわからん。記号の方は似ているからなんとなく意味は伝わったが。……なんだお前。こいつのことが気になるのか」


「いや、まあ」


 教科書を受け取りながら煮え切らない返事をする。研究所育ちなんて言われていてそれは勿論気にはなるが、聞いていいものかどうか彼には分からなかった。


 そんな彼の心情が分かったらしい猫型の子が続きを答えてくれた。


「知っておいたほうがいいけどな。こいつの生まれ育った環境とお前の前世は繋がりがあるんだからよ」


「そうなの?」


「ああ。なんて言ったてお前もその研究所育ちなんだからよ」


「えぇー、なにそれどういうこと」


「人造人間なんだよ。こいつもお前の前世も」


「――うーん、一旦待ってもらっていいですか」


 彼は深呼吸を一度した。


「お願いします」


「――元々、私たちの世界はこっちの世界のように神様だのなんだのはおとぎ話だったというのは話したよな。まあ普通の人たちはそういう風に普通に過ごしていた。けど、こいつらは造った奴らは違う。本気でそういった存在を信じていたしどうにかして存在させようとした。で、それをどうやってやるのかっていうと」


「それが人造人間」


「そういうわけ。人造人間というガワを造ってその中に超常的存在を入れましょうって意味わからん方法を取った。そいつらは困ったことに権力やら金やらはたくさん持っていたからな。実験が可能だった。更に困ったことに成功例が出来ちまった。それがお前。境界を司る神。超常的な世界と普通な世界とを分け隔てていた神。それが前世のお前」


「……」


「おい、息止まっていないか?」


「……」


「おいって!」


 彼の肩を揺する猫型の子。しばらく揺すられて彼は息をし始めた。ぜーはーと数秒ぶりの酸素を体内に入れる。その背中を青髪の子が優しくさすってくれた。


「ヤバかった。脳の処理が遅れて息することも間に合っていなかった」


「それはお前の脳みそがポンコツだからだよ」


「いや、でもさ!お前の前世の世界から来たんだよね。そんなお前の前世を説明すると人造人間の形をした神様だから。なーんて言われてすぐ理解できる!?」


「まあ同情する」


「だよね!」


 ね!と横にいる青髪の子に同意を求める。はいっと彼女は彼に元気よく同意した。


 乱れた息を整えたあと、彼は未だ混乱の中にある頭をガシガシと掻いた。


「ほんと、意味わからん。なんでそんなあほなことするんだ」


「一つはまあそういった宗教団体だったからな。神々の言葉を如何にして聞き給うかってな」


「そこからなんで人造人間!?」


「知らん。そいつらの狂った脳みそから聞き出してくれ」


「どういう思考回路だよ」


「あともう一つはそれを可能にする科学技術があったってことだな。思考に技術が追い付いてしまったわけだ」


「そんな転用のされ方は科学者たちも想定してないって!」


「まあそのせいであっちの世界じゃあクローン技術の凍結まで相次いだな」


「……え!そこまで進んでいたの?」


 彼としては前世での人造人間の作り方を勝手に怪しげな錬金術の応用か何かだと考えていた。しかし猫型の子から聞き及んだことのある具体的な単語が出てきてそれが間違いだったと気づかされた。


「私は直接は知らないが、兄さまが宇宙旅行とかあったとか言っていたな」


「こっちより進んでいるじゃん……」


 思ったよりも近未来な前世に神様だどうのというのは一瞬頭から飛んで行った。そんなに進んでいるのならばあっちの世界に行ってみてもいいのではないだろうか。そんな考えが浮かんだ彼はもう一つ聞いてみることにした。


「じゃあネットとかあるんだ」


「あー」


「それはですね……」


 途端に言いよどむ二人。クローン技術や人造人間、果ては宇宙旅行までにいくような科学技術が出来上がっていてネットはないなんてことはないだろう。それに無いなら無いというだろう。


「え、どうしたの?」


「実はネットは確かにあるにはあるのですが、以前のように自由には使うことが出来ないのです」


 青髪の子が申し訳なさそうに答えた。つまり、どういうことなのだろうか?


「あなた様が居なくなられた後、本格的に世界同士の垣根がなくなって神様たちが肉体を持って現れることとなりました」


「うん」


「つまりはですね、神様たちの都合が出てくるようになったと言いますか」


 そこで言い詰まる青髪の子。その先を中々言い始めない。続きを聞きたい彼は猫型の子の方を見る。しかし彼女も先ほどまでなんでも話をしていたというのに口を閉ざしたままだった。


「えっと、つまり……?」


「つまりは、私たちにとってネットというか電波のやり取りが耳元で羽音のうるさい小さな虫がずっと飛んでいる状態なわけ」


「うおッ!」


 頭上から唐突に声が降ってきた。驚いて顔を上げると空中に寝そべった神様がいた。


「やあ、ちょっと様子を見に」


「いや、すごく驚くのでその登場やめてもらっていいですか」


「善処しとくよ」


「それしないやつー」


 彼の言葉にニンマリ笑って床に近づいてそこに置かれているお菓子を手に取って口の中に放り込んだ。


「話を戻すけど、要はストレスがたまるのだよね。そういった状態が続くと。まあでも私たちもそこそこ君たち人間の常識に通じているわけだから、期間をやるからそれやめろって言ったわけ」


「常識?」


「期間与えてやってんじゃん。で、その期間までにやめなかったわけだからとりあえず街一つ消したの。見せしめに」


「み、見せしめに。街を?」


「そう。だって期限守らなかったのそちらだし。そうしたら、まあ態度が変わってね。従順になったから私たちのトップが短い時間ならいいよってお許しをだしたわけ。だから、ネットは使えるけど短い時間だけね。あっちでは」


 ご理解いただけたかなと笑う神様に冷や汗が流れた。そこで二人が言いよどんだ訳が分かった。簡単に街を消す神様。その原因になった話をしたくなかったのだ。神様にとって人間の命は軽い。それこそ虫なのかもしれなかった。


「大丈夫なのですか?」


「ん?なにが」


「こっちの世界ではじゃんじゃん電波使ってますけど」


「ああ!大丈夫!こっちに合わせて身体いじってきているから。でも、ネットも面白いね。アニメとか映画とか見れるの。今度彼に言ってみようかな。使う時間増やしてみたらどうかなって。君ももし来るならそっちが嬉しいでしょ」


「まあ、そうですね」


 彼は二人を見た。俯いている。当然だと思った。


「じゃあ、私また漫画喫茶いくから。あそこ凄いね。ずっと居れるわ」


 言うだけ言って神様はまた忽然と姿を消した。そうして、三人で一緒に詰めていた息を吐いた。


「こ、怖かった」


 彼が言うと二人ともこくこく頷いた。


「ああいう神様たちがいるわけだよね。あっちの世界は」


「はい」


「うわーまじか」


 行ってもいいかななんて思いは彼の中から消えてしまった。


「やはり、嫌になりましたよね。あちらに行くのは」


 青髪の子が言った。


「うん。そりゃああんなの感じたらね」


「それでも、嫌だとお思いだとは重々承知の上ですがあちらへと来てほしいのです!」


 昨日と同じようなことを彼女は言った。彼女が必死になる理由が分からなかった。


「あのさ、なんでなの?」


「人間のためです」


 彼女はきっぱりと答えた。なぜ、人間のためと言えるのだろうか。彼女は言うなれば使い捨ての駒のために造られたような存在らしかった。それも人間によって造られたわけである。だというのに、そんな人間のためにこんな異世界まで来ている。


「人間のせいじゃん?いや、僕が言うのもあれだけどさ。元をただせばまあ人間のせいなわけじゃん。なんでそこまでするの?」


「優しさを教えてくれたのも人間だからです」


 すっと彼女は彼の目を射抜くように見た。まさしくそれこそが彼女の行動原理のようだった。そこに揺らぎは一切なかった。


「そっか……。まあ考えとくね」


「あ!?そんな考え捨てろ!」


「急に叫ぶなぁ」


 猫型の子が勢いよく立ち上がった。


「行かない方に天秤が傾いていただろ!」


「うん、でもさーここまで真摯だと。やっぱり揺らいじゃうというか」


 青髪の子は褒められて頬を赤くした。かわいい。


「お前の天秤、緩すぎじゃねーか!」


「かわいい子に言われたらそりゃ緩くもなるって」


「どういう意味だ。私が可愛くないとでもいうつもりか!」


「やぶさかではない」


「んだとこら!」


 猫型の子が彼の胸倉をつかんだ。


「暴力反対!暴力反対!」


「暴力を振るわせるお前が悪い!」


「酷い言いがかりだ!断固抗議します!」


「暴力は駄目です!落ち着いて!」


 青髪の子が慌てて仲裁に入る。


 再び違う意味で揺さぶられながら嫌がらせであっちの世界に行ってみようかなんて考える彼だった。


次回7月8日更新予定

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