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六畳異世界談話  作者: いちね
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邂逅

 うわー、まただ。


 テスト用紙を見つめながら彼は思った。現代文のテストなのだが、当然のごとく文章が大量に印刷されている。げんなりすること請け合いだが、彼の場合は少し様相が異なった。


 文字が用紙から浮き上がって、別の言語の文字に見えるだ。


 文字が空中に浮かぶように見えるだけでも文章として読むのが難しいというのに、その中の文字たちが日本語とも英語とも違う全く知らない変な形の文字になるのだ。しかも、全く知らないはずなのにその奇妙な文字だけを注視すると不思議と意味が読みとめるのだ。


 これが起こるようになったのは最近のことだった。最初に起こった時、寝ぼけているのかと思った。けれども、それ以降たまに引き起こしては彼の脳みそをこんがらせた。


 読めないわけじゃないんだよなあ。


 周りがカリカリとシャープペンシルを動かす音を聞きながら、眉をひそめて頑張って文章を作り出す。


 今回の現代文は点数悪そう……。


 別の意味で四苦八苦しながら問題を解いていくのだった。



 


「うーん。やっぱり無いなあ」


 二日目のテストが終わり、普段の半分で学校が終わるので彼は素直に直帰した。そうして帰ってきてそうそうテスト中に見えた文字をノートに書きだしネットで様々な言語と比較した。けれども、似たような形のものはたまに見つかるのだが、まったくそっくりというものは見つからなかった。ちなみにもうすでにあの怪異現象は起こっていない。本当に時折起きるのだ。


 それにこの言語一致作業に意味がないのは分かっていた。分かったところでこの現象が治るわけでもないのだから。


 言いようのない不快感を代わりに椅子をギシギシ言わせながら前後に揺らす。


 しばらくそうして今度はきちんと椅子に座りなおし、彼自身に起こっている現象をネットで調べ出した。


「文字が浮かんで見える……。アーレン症候群?ディスクレシア?」


 各サイトを読んでみる。がしかし、どうにも合致しているようには思えなかった。


「知らないはずの言語を知っている……。真性異語?」


 一番最初に出てきた言葉に腑に落ちた感がある。学んだことのない外国語もしくは意味不明の複雑な言語を操ることができる超自然的な言語知識、およびその現象を指す、超心理学の用語らしい。


 そこには無意識に記憶したものが出てきたものとコミュニケーションが取れるぐらいまで記憶されているものの二つに分けれらているらしい。


 なぜか心臓がバクバクし始めた。


「いやいや、なんか子供の時に間違えて覚えてしまった何かを覚えているだけだろうな!だって、調べても出てこない言葉なわけだし!」

 

 わざとらしく声をあげても、まさか?が彼の頭の中をよぎった。


 知らなくても知っている。その文字を見るたびになんとなく思っていたことだった。だって、違う文字に変わったとしても意味は十全に通じている。


 ノートに目を落とす。もちろん、そこにはどこともしれない文字が書かれている。今まではただ煩わしく読むだけで別に発音とか気にしたことなど一度もなかった。


 ノートに手をやり、文字の部分を人差し指で触る。ノートの少しざらつきのある感覚が伝わってきた。


 彼は震える口をゆっくりと開けた。


「――――――」


 発音した。英語のように子音が多い発音のように感じられた。が、そんなことは今の彼には考えることは出来なかった。


 えッ?今しゃべった俺?聞いたこともない言葉を?


 気味の悪い疑問だけが頭を支配していく。


 勝手に文字を創るところまではまあいい。けれど、発音まで今まで喋ってきたかのようにすることが出来るのだろうか?答えはきっと否だ。


 うろうろと目を不安げに動かしていた彼はふと思いついたようにその真性異語について書かれたサイトについてほかにも読み進めた。


 そうしてそこには彼も考えとして頭に浮かんだ同じ単語が乗っているサイトを見つけてしまった。


「前世の記憶……」


 前世の記憶が呼び起されて喋れるという話だった。正直言って、彼はそういったことを面白がって見たり聞いたりすることはあるが、信憑性には懐疑的だった。


 けれども困ったことに今、自分がどうにもそういうことになっているらしい。


 さらに言うなれば、この世界のどことも一致しないであろう文字。そこから考えられることは、この世界ではない言語。つまりは、異世界であるということ。


「えぇー」


 先ほどから自分の考えに否定を繰り返しているのだが、現実として日本語が違う文字に変わって見えてしまっている。もうこうなれば、どこかで頭をぶつけてしまってどうかしてしまったとしか異世界前世説は覆そうにはない。寝ているときにでも変に頭をぶつけてしまったのだろうか。


 うんうん唸っている彼だったが、そこでガタリッと地面が揺れた。


「うわ、地震か?」


 しばらく全体が揺れていたがすぐに収まった。震度2ぐらいだろうか。日本に生まれたものとして地震には当然慣れている。揺れについて意識から抜けていくはずだった。


 ドゴンッ!


 今度は自分の真後ろから大きな揺れが一度起きた。


 椅子から滑り落ちそうになりながら慌てて後ろを振り向く。と、そこにはなぜか女の子二人が立っていた。彼の部屋にどこからともなくやってきた女の子。余りに突然の出来事に彼は目を白黒させるしかなかった。


 齢は高校生の彼と変わらないぐらいに見えた。が、それは背格好で判断したものであってその外見は明らかに今まで彼が見てきた人間とは異なっていた。いや、似たような姿は見たことはあったであろう。漫画やゲームなどで。


 一人の女の子は髪の毛が真っ青だった。ありえないはずであるのに染めているようには見えなかった。服装は意外と現代風で少し違和感を感じるがおそらく外で歩いていても誰も気にしないだろう。その手にはなぜか銃が握られていたが。

 

 更にもう一人の女の子は猫耳が生えていた。なんなら尻尾も生えている。どちらも色は真っ白だ。尻尾の毛はぼわりと逆立っている。それ以外のパーツは人間と変わりがない。そんな彼女も異様に伸びた爪を構えていた。


 そんな二人は向かい合って一触即発の雰囲気を醸し出していた。少しでもどちらかが動いたら殺し合いを始めてしまうだろう。


 自分の部屋が一瞬にして危険地帯に変わり果ててしまった彼はその恐ろしい異常性に冷や汗が流れた。


 そこに第三者が介入した。


「ごめーん。遅れたー。うわッ、何この雰囲気。すごく怖いじゃん。目的の彼も怯えているよー。ほら、落ち着いて、落ち着いて」


 軽薄な口調で現れた長身の男性。恐ろしく美形でスタイルが良かった。そんな男性の服装が一番現実味が薄かった。例えるのならば、ギリシア神話に出てくる神様のようなそんな服装だったのだ。


  だが、そんな男性の言葉に女の子二人ははっとしたように彼を同時に見遣りそのまま殺気を窄めて武器と爪を下した。


 完全に殺気が消えたところが消えたところでニコニコ笑っていた男性は笑顔をさらに深めて「よし!」と言って、二人の肩をぽんぽんと叩いた。そして、彼に向かって歩みを進めた。彼の真ん前まで来ると椅子に座った彼にその長い体を屈めて顔を見た。彼は未だに動けずにいる。


「やあ!君だね。ようやく探し出したよ。と言っても君も意味が分からないことだろう」


 一人でに喋り勝手に頷く男性。女の子二人は男性の後ろで何も言わずに立っている。彼は何も言い返せなかったし動けなかった。


「まあ、でも君は最初にやるべきことがあるね」


 そうして男性は彼の部屋の扉の方を見る。彼もこの異常性に思考が滑っていたがその男性の言葉と動きだけはなんとか理解できて、同じように扉の方を見た。


 どたどたと慌ただしい足音が一つ分扉越しに聞こえてくる。そこで彼はああ、一回にお母さんがいるもんなとぼんやりと思った。


 そうだよな、地震の後に大きな物音がしたら心配で見に来るよな。それでこんな三人組を見かけたら腰抜かすんじゃないだろうか。


 そこまで思ってハタと気が付いた。いや、この三人見られてもなんと説明すればいいのか分からないよ!だって自分も分からないんだし!


「ちょっと待って!」


 椅子から立ち上がって扉の方に向かおうとしたのとガチャリと扉が開いたのは同時だった。


「どうしたの!?無事?!」


 息を切らす母親と椅子から腰を浮かした状態で固まったままの彼と視線が交わる。


「えっと、えっと……」


 何か言葉を出そうとしてはくはくと口を動かす彼。一方で母親は彼を見てそして部屋を一周見て首を傾げた。


「寝ぼけでもして椅子から落ちた?」


 おや、と彼は思った。もしかして三人が見えていない?


 男性の方を見るとてをひらひらと振られてしまった。母親の方を見る。彼の方を見て首を傾げたままだった。どうやら、本当に見えていないらしい。それならば、彼の言う言葉は決まっているだろう。


「……うん。寝ぼけて落ちちゃったんだ。心配かけてごめん」


「良かった。地震の後だから余計に心配になっちゃって。私もごめんなさないね。ノックもせずに開けてしまって」


「いや、うん。それは大丈夫。仕方ないし」


 ごめんねともう一回言って母親は出ていった。ほっと彼は胸をなでおろした。そしてそこで落ち着いたおかげか女の子と男性の方に体を向かいなおし尋ねるということが出来た。


「あの、本当意味が分からないのですけど説明、ありますか」


 彼的には結構勇気がいることだった。

 

「もちろん」


 男性はそんな彼を見て頷いた。





 女の子二人が男性に言われて床に座る。一方の男性は狭いねーと言いながら空中に寝そべった。そんなことも有りなのか、有りなんだろうな。彼も一人だけ椅子に座っているのは嫌なので床に正座した。


「それで、あのどういうことなんでしょうか?」


 彼は再度尋ねた。しかし先ほど答えると言いながら誰も何も言わない。どいうことだよ。


 沈黙を破ったのは男性だった。


「また、私に喋らせる気かい?君たち。まあ別にそれでもいいけど、ここまで運んでと頼まれて喋らせる役目まで任せる気?」


 軽薄な言葉遣いだったが、重みを感じる。それに耐えきれなくなった人型の女の子が口を開いた。


「わ、私のことを覚えていないでしょうか」


 先ほど猫型の女の子と殺気を放ちまくっていた人とは思えないほど優しそうな声だった。緊張で顔も赤くなっている。喋った後は口をぎゅっと結んで彼の方をじっと見つめる。顔が可愛らしい顔立ちだし普通だったら、かわいいとか思うのだろうが今の状況ではそんなことも思えない。


「……悪いけど」


 そう答えると女の子は見るからに落胆した。悪いことしていないのに悪いことをしたような気持ちになった。


「そう、ですよね」


 どうやら分かっていたことらしい。落胆し呟く彼女を猫型の女の子は睨んでる。なぜそんなに仲が悪いのだろうか。


 人型の女の子は先ほどの問答でなにかしら吹っ切れたらしい。今度は落ち着いて彼に向かって説明を始めた。


「お分かりのことだとは思いますが、私たちはこの世界の住人ではありません」


「うん、そうでしょうね」


「そして驚かれることでしょうが、よくお聞きください。あなたの所謂前世というものは私たちがいた世界なのです」


 そこで女の子は一旦口を止めた。彼の気持ちが落ち着くのを待ってくれるらしい。だが、彼は確かに驚いたもののそこまではなかった。直前にそのようなことを調べたせいかもしれない。


「……そして、私たちの目的は私たちの世界から居なくなられたあなたの捜索にありました。何故ならばあなた様が世界から消えたために世界に変革が起きてしまったのです」


「変革って?」


「神話の再現です。それまではこちらの世界のように神話、幻獣の類は空想のものでした。けれども、あなた様が居なくなられて世界の境界線が消えて空想であったものが私たちの世界に現れてしまったのです」


「ちょ、ちょっと待って!なにそれどういう事?!」


「ちなみに私が神様の一柱です」


「待って!話を進めないで!」


 彼が叫ぶと神様と自称した男性はけらけらと笑った。


「え、元からファンタジーじゃないの!?」


「いえ、違うのです。だからこそ私はあなた様を連れ帰り世界を元に戻したいのです」

 

 真剣に言う女の子に彼は「えぇ……」と言うしかなかった。


 そして、ここで先ほどから不愛想に黙ったままの猫型の女の子がようやく口を開いた。


「……私はあなたを探しだして、元の世界に戻りそうになったら止めるためにきた」


 なるほど、それで二人は仲が悪いのか。そこはまず理解することが出来た。けれども世界観は理解できない。というか、説明されてなんとなく分かったがけれども分かりたくないというか。


「ちなみに人違いという線は」


「残念ながらないね。きちんと調べた上で来させてもらっているので」


 男性がきっぱりと答えた。


 それに彼は再度「えぇ……」と言って腕を組んで唸った。


「……前世の僕、ヤバいやつじゃん」


 どうにも今の平和な時間を彼の身には余る話だった。

真性異語はWikipediaより参照



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