出逢い
やっとの思いで宿に辿り着く事ができたグランツ。
この街には他にも宿が沢山あり、それらと比べると見た目は少しボロ屋のようだが、グランツの目からは充分立派な宿に見えているようだ。
「やっと着いたぜ、道中周りから嫌な事は言われたが明日に備えて今日はここで体を休めるか」
見慣れない土地や罵声の疲れで早く休みたいと心が急かす。彼は少し足速になりながら宿のドアを開いた。
「御免ください。明日までここに泊まりたいのだが」
彼がそう言うとカウンターの奥から店主らしき男が現れた。
「いらっしゃ.....おい、お前さん下民だろ、お前みたいな奴に貸せる部屋なんてないよ」
「なんで下民と決めつけるんだ!!金ならちゃんと持っている」
下民と言う事は確かだが、寝床が無くなるのが嫌だった彼は少し強めに出る。しかし、店主は全く動じない。
「嘘をつくな、お前の格好を見ればわかるさ。薄汚れた服装、そのボロい剣は護身用か?悪いが、一晩でも下民を泊めたなんて知られたらうちのイメージダウンに繋がるんだよ」
「では部屋は貸してくれないということか?」
「そういうことになるな」
ある程度の覚悟はできていたが、身分が低いというだけでここまで差別されるとは思っていなかった。
「こんな店、こっちこそ願い下げだぜ!」
強がりながら扉を強く閉め、大きな音が鳴る。
しかし、寝る場所が無くなったのは困る。
「また野宿かよ.....ックソ、あのハゲ店主」
屈辱感を味わっていると、貴族と思われる裕福そうな服装をした男が前方から歩いてくる。
「(あんな澄ました顔をしてあいつも根は腐ってんだろうな〜、あーがっかりだぜカロスト街)」
「ん?君はあの時の.....」
「.....え?なんで俺のこと知ってるんすか?」
その男は他の貴族と違い、真っ直ぐにこちらを見る。
「ああ、すまない。アリストクラット騎士団の試験場の下見に行っていた時に君の事を見かけたんだ。」
「あんたも明日の試験に参加するのか!?実は俺もなんだ!」
「ほう.....君面白いね。僕の名前は『リッター・カンプフ』気軽にリッターとでも呼んでくれ」
「俺の名前は『グランツ・ズィーガー』だ。グランツでいいよ」
少し変わったやつだが、リッターに悪意があるようには見えない。
「じゃあ、僕たちはライバルという事になるね」
「ライバル.....」
グランツは自分より相当身分の高いやつにライバル認定されるとは思わなかったので、少し驚いた。
「そうだ、ここの近くに一目に目立たない場所があるんだ。そこで少し話そうよ」
「お前いいやつだな!わかった。俺も丁度お前と話したいと思っていたんだ」
「決まりだね」
2人が打ち解けるのは早かった。春の暖かい風を頬に感じながら、並んで歩いた。
グランツの剣は亡くなった父が授けた物だ。
相当古い物のようだが、変わった形をしている。