表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/12

第六話 心傷越えた先の最速を目指し



 その[神授技能(スキル)]はどちらも今世の、ジェルスライムの[神授技能盤(スキルボード)]の方にあった[神授技能(スキル)]で、

 《能力百倍(フォルティーケトム)》と、

 《起死回生(プリース=コンペート)》よ。


 どちらも、前世の私が見たことも聞いたこともなかった[神授技能(スキル)]。



 《能力百倍(フォルティーケトム)》は、能力を百倍に伸ばす[神授技能(スキル)]らしいの。

 説明文を読んだかぎりではね。


 けど()()の時間があって、しかも使える時間も短かったり、一回使い終わったらそのたびに能力が下がるらしくって、けっこう代償が大きい[神授技能(スキル)]なの。

 それでも今のままだと、勇者選抜大会では勝てても魔王には勝てないかもしれないから、いちおう取っておくことにした。



 《起死回生(プリース=コンペート)》は、一回だけの使い捨ての[神授技能(スキル)]。

 けどその分効果はすごくて、一回だけなら即死級の攻撃を食らっても防ぐことができて、しかもその上発動した時点での傷を全部回復してしまうんだって。


 この[神授技能(スキル)]は自動で発動するし、魔力もいらないらしいから、万が一のときのために取っておくことにしたわ。



 新たに目標を定め、私は迷宮の攻略をさらに進めていく。



 途中途中で、やっぱりつまずくことは何度もあったわ。



 けれどもたしかに、つまずく回数は減っていった。

 上位の剣の[神授技能(スキル)]を上位四属性分と無属性のものをそろえたから、ってのもあると思う。


 それにきっと、私の技術だってあがっている……はず。

 たぶん、だけどね。



 私の技量を測ってくれる人なんていないから、ほんとにこれでいいのかはわかんない。

 でも進めてるなら、私は構わない。


 だって、迷宮のさらに奥へと進めているってことだから。

 強い魔物も倒せるようになってる、ってことだから。




 そして、私がジェルスライムに転生して。

 迷宮の攻略をはじめてから、八ヶ月が過ぎた今。

 私はついに、最後のボスのいるフロアまで来た。


 勇者育成学部の授業でそう習ったから、たぶん、あってると思うわ。

 実際に完全踏破している人も、そう言ってたらしいから、ここが最後だってことは間違ってないはずよ。



 それから、《能力百倍(フォルティーケトム)》の[神授技能(スキル)]もここに来るまでに取得済み。

 《起死回生(プリース=コンペート)》はまだだけど、もう少しで必要な[魂換数値(スキルポイント)]が貯まるから、このボスを倒したら取れるわ。



 さて。

 今から挑む最終ボスは、魔王を除くどの魔物よりも強いといわれているわ。


 さすがに知能はないみたいだけど、野生の勘がとても強いらしいの。


 しかも、違う属性の魔力を次々にまとうから、そのたびに対策を変えないといけないみたいで。


 とにかく、倒すのがめんどくさくて、しかも攻撃も強いとのことよ。



 ……私に倒せるのかしら。


 いいえ。

 ここまで来れたんですもの。

 たった一人で、しかも、今のところは最速の目標を達成できる状態で。



 私なら、倒せるわ。

 そして世界最速の迷宮踏破者にだってなれる。



 けど、私の最終的な目的は世界最速の迷宮踏破者になることじゃない。


 勇者になることよ。

 勇者になって、魔王を倒すことよ。


 そのために、この戦いでひとつ。

 試したいことがあるの。


「《能力百倍(フォルティーケトム)》、使ってみたいわ」


 取得したのは一ヶ月半くらい前なんだけど、まだ使ったことなかったのよ。


 [神授技能(スキル)]自体強いことは知っているんだけど、代償がどれくらいなのかわからなくって使えなかったの。


 ほら、目標とした[神授技能(スキル)]はどちらも私の知らないものだったでしょ?

 [神授技能盤(スキルボード)]で[神授技能(スキル)]の説明は見れるんだけど、あまり詳しいことまでは書いてないの。


 もし私が知ってる[神授技能(スキル)]だったら、どれくらいの時間能力が下がって、どれくらい能力が落ちるのかもわかるんだろうけど。

 まぁ、知らないものは仕方ないわ。



 そういうことで、今回の戦いで試してみたいのよ。



 まず、()()の時間を調べたいわ。

 これは最終ボスのフロアに入る前に、準備としてやっておけばいいわね。


 たいていこういった()()のいる[神授技能(スキル)]って、完全に()()終わってから少しくらいなら時間をおいても、その[神授技能(スキル)]を使えるもの。

 《能力百倍(フォルティーケトム)》も同じだって考えてもいいと思うわ。


 たしか、()()の必要な[神授技能(スキル)]で、()()終わってから[神授技能(スキル)]を使うまでの時間の制限で一番短いのは、一分五十三秒だったかしら。

 なら《能力百倍(フォルティーケトム)》もそれだけしか時間をおけないと仮定して、戦う前に準備するべきだわ。



 そして一番大事なのは、どれだけの時間[神授技能(スキル)]の効果が持続するか、よね。

 魔力が枯渇するまでか、あるいは時間がきっかり決められているのか。

 自分の意思で止められるかどうかは……まぁ、今回は時間もないし調べなくてもいっか。



 あとは、[神授技能(スキル)]を使い終わったあとの代償がどんなものなのか、かしら。

 能力の下がる期間は、私の知る限りだと丸二日がマックスだったから、勇者選抜大会までまだ一ヶ月近く時間もあるし、大丈夫だと思うわ。



 あとは、勝ちにいくだけね。



 ……ふぅ。


 なんだか緊張するわね。


 今までの集大成になるから、かしら。

 ここまで心臓がバクバクいってるの、はじめてよ。


 前世死んだときだって、こんなに鼓動はなってなかった。


「……《能力百倍(フォルティーケトム)》、()()開始」


 つぶやく。


 六分三十秒後、終わったことがわかった。


 けっこう()()、長いわね。


 でも、準備はできた。



「《固有(カーレ)武器召喚(=ペルテルーム)》」


 右手に【蒼蒼(エクイセト)筆頭菜(=カリエーテ)】を握る。


 一歩、前へと踏み出す。



 さぁ、最終ボスのお出ましよ。


 《能力百倍(フォルティーケトム)》の効果と代償について調べたいけれども、まずは。



「私の、ここまでに築いた一撃」


 くらうがいいわ。



 最終ボス、竜種(ドラカウティ)の最上位種といわれる魔物。

 極光竜(オーロラドラウティ)の色は。


 ――黄色。


 土系(サム)の魔力をまとっている。



 ならば、私は……っ。


 剣を構えて駆け出す。


 咆哮(ほうこう)を放ちながら飛び上がる極光竜(オーロラドラウティ)へ。

 私も、跳び上がる。


「《(バレット)》っ」


 地面に撃ちだし、さらに上へ。


「ッァあアッ、《火炎剣(フラディース)》っッ!!」


 下から上へのなぎはらい。


 土系(サム)に強い火系(イグ)の上位属性、炎系(フランマ)の斬撃をまとわせた剣を。

 私の【蒼蒼(エクイセト)筆頭菜(=カリエーテ)】をっ!



 ――ダジィンッ! と。


 たしかな手応え。


 ……手応えを、感じられているっ!



 魔王を除く、最強の魔物に。

 私は、今の、素の状態で。

 張り合うことができている。


 それがわかれば、十分よ。




 ――あとは。


 地面に降り立ち、極光竜(オーロラドラウティ)が体勢を立て直す前に。

 私は、大きく息を吸って。


 唱えた。



「《能力百倍(フォルティーケトム)》っ!」



 ――瞬間。


 時が止まった気がした。


 なるほど。

 能力には、思考速度も含まれるのね。


 だから、周りの全てが遅く見える。


 ほら。

 今にも動き出しそうな極光竜(オーロラドラウティ)の動きだって、あり得ないほどゆっくりに見える。


 それに、この[神授技能(スキル)]、魔力を必要としないみたい。



 ……そうね。

 せっかくなら、純粋の火力を測ってみようかしら。


 四つの属性の魔力を次々にまとっていく極光竜(オーロラドラウティ)



 けど、そんなの関係ないわ。


 だって――




「《(バレット)》に属性なんて、ないもの」




 【蒼蒼(エクイセト)筆頭菜(=カリエーテ)】を軽く振って、《能力百倍(フォルティーケトム)》を使った状態でも耐えることを確認し、《固有(ストリー)武器格納(=ペルテルーム)》と唱えてしまった。



 そして、斜め上に浮かぶ極光竜(オーロラドラウティ)へ向かい、さっきよりも()()()で跳び上がる。


 けれど、今度は一発で。

 極光竜(オーロラドラウティ)と同じ高さまでたどり着いた。



 ……この[神授技能(スキル)]、やっぱり、イカれてるわ。



「――《(バレット)》」


 急所とか関係なしに、ただ無造作(むぞうさ)に一発、放つ。


 それで全てが終わった。



 世界最強の竜が、弾ける。



 私がジェルスライムのときに一番浅い階層で倒した、弱い魔物にけっこうな魔力をこめた《(バレット)》を放ったときみたいに。


 最小限の魔力で、最弱の技で、属性のないただの魔力の弾で。



 私は、極光竜(オーロラドラウティ)を倒せてしまったのよ。



 こんなの、一方的な虐殺ね。

 通常時でもいい勝負ができそうだったんだもの。

 さすがに能力が百倍になったのならば、魔物の王である魔王を除く、最強の魔物とはいえ。


「こんな簡単に、倒せてしまうのね」


 ふふっ、と。

 そう私が軽く笑いの息をあげたときだった。



 ――ぱちんっ、と。

 なにかが切れたような気がした。


 同時にふらつく身体。

 そのまま前世の私の形を保てなくなって。



 《能力百倍(フォルティーケトム)》が切れたのね。

 継続時間は、三十九秒。



 ……普通に考えれば、短いわね。

 けど正直、これくらいイカれた[神授技能(スキル)]なら長すぎるようにも感じてしまうわ。




 その後。

 私は余裕に倒してしまえた極光竜(オーロラドラウティ)を食べ、能力がどれだけ下がっているのかを調べた。


 というか、いろいろ試したの。


 で、結果。


 どうやら能力の低下は、[神授技能(スキル)]が使えなくなるだけみたい。

 ……いや、ジェルスライムの私からすれば、[神授技能(スキル)]が使えなくなるのは、辛すぎるんだけども。


 なにか食べたりして魔力補給するのは[神授技能(スキル)]とは関係ないジェルスライムとしての特性だったから、極光竜(オーロラドラウティ)も食べれたんだけどね。


 人間の姿にはなれないから、迷宮の最深部で、気配を消しながら縮こまってることしかできなかったわ。



 ……えぇ、正直辛かったわよ。

 だってなにもできなかったんだもの。


 へたに他の魔物と遭遇なんてしようもんなら、一瞬で消し飛ばされてしまうわ。



 だって私、最弱種のなかでも最弱のジェルスライムなんだもの。

 そして今私のいる場所って、極光竜(オーロラドラウティ)までとはいかずとも、強すぎる魔物がそこら中をうろついている、迷宮の最深部なんだから。



 ちなみに期間は、十六日と十三時間~十四時間だったわ。

 ……長すぎない?


 やっぱり効果が絶大すぎてイカれていた[神授技能(スキル)]は、代償もけた外れだった、ということね。


 


 そして、ようやく《能力百倍(フォルティーケトム)》の代償である能力の低下から解放された私は、最後の目標としていた[神授技能(スキル)]を取ることにしたわ。

 能力が低下していた間は、どうしても周りに気を付けなくちゃいけなさすぎて、取ってる暇なんてなかったのよ。


 前世の私の人間の形に《外郭変化(メタモルムーター)》で変身したあと、空中に[神授技能盤(スキルボード)]を表示させる。


 そこから《起死回生(プリース=コンペート)》を選び、取得。

 [魂換数値(スキルポイント)]はきちんと足りていたわ。




「――さぁてと」


 迷宮踏破は、これにて完了ね。


 かかった時間は、能力低下時を含めても、八ヶ月と二週間と二日。

能力低下時を含めなければ、ぎりぎり八ヶ月以内に踏破できたわ。

 事前に決めていた通りに、ね。


 無事、世界最速の迷宮踏破者となるという目標も果たしたことだし。



 次は、勇者選抜大会よ。



 迷宮攻略を最速で成し遂げたエノディフィ。

 次回からは勇者選抜大会のターンです。


 ちなみに、エノディフィが楽々と倒した極光竜。

 普通の人は変わる変わる属性に相当苦戦します。

 《弾》最強案件。


 次話、『第七話 最速の先に夢を追え』

 12月9日(明日)昼12時頃の投稿です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ