第三話 進む道は理論値で
[神授技能盤]と念じ、頭のなかに[神授技能盤]を表示させる。
いや、今は頭のなかではないわよね。
すると、思考のなか?
それとも、私という魂のなかかな?
まぁ、どっちでもいいわ。
表示されたスキルボードを、私は改めてじっくりと観察する。
やっぱり、頭のなかだと少し見にくいわね。
魔力を使ってでも空間に表示させた方がいいけど、今はそもそも目がないもの。
仕方ないわね、このまま見るわ。
……あら。
この[神授技能盤]、前世のものもあるわ。
前世のものと今世のものが合体しているのかしら。
前のとは明らかに違う部分もあるし。
というか、魔物にも[神授技能盤]があるのね。
でも魔物は[神授技能]を使わないというし。
それって、もしかすると知能がないから[神授技能]を取れない、ということ?
で、魔王は魔物だけど知能があるから[神授技能]が取れて、それで魔物のなかでも飛び抜けて強くなれる、とか?
そもそも私、知能ある魔物よね。
前世が人間で、だから考えることのできる魂なわけだけど。
……いや、いいのよ。
私は勇者になりたいんだもの。
魔王は、魔物の王は、人間たちを襲う。
私は、人間を襲おうなんて考えもしないわ。
えっと、それで。
今世の[神授技能盤]にはどんな[神授技能]があるのか、確かめていこうかしら。
今世の[神授技能盤]に転移系の[神授技能]があるなら取りたいけど……あら。
あったわ。
というか、今世の[神授技能盤]、アタリの部類じゃないかしら。
転移系の[神授技能]は[神授技能盤]にある人が限られてたこともあって、授業では取らされなかったくらい。
それに見た感じ弱い[神授技能]もあるけれど、[魂換数値]をたくさん必要とする[神授技能]のなかには見たことないのもあるもの。
見たことない[神授技能]って、基本的に超激強いものが多いわ。
それだけ[神授技能盤]にある人も少なくって、希少な[神授技能]ってことだから。
ちなみに、[神授技能]は学校で習ったのと本で見たのは全部暗記してるわ。
暗記するなら、頑張るだけでいいもの。
天才かどうかなんて関係ない。
今世の[神授技能盤]は、いいものを引けてよかったわ。
……それでも、勇者育成学部の総合首席のバエニアン・ドゥークディール様の[神授技能盤]には敵わないだろうけど。
さて、と。
九ヶ月後の勇者選抜大会に間に合うためにどうするか、よね。
それもただ間に合うだけじゃなくて、バエニアン・ドゥークディール様にも勝てるようになってなきゃいけない。
……技術をもっと磨かなきゃいけないのは、わかってる。
それは実践を積んで無理やり磨きあげていこう。
せっかくなら、近くにある迷宮にでももぐって。
問題は[神授技能]ね。
前世の経験上、やっぱり[魂換数値]を多く必要とするものほど強い[神授技能]になる傾向はある。
そうすると、最初にどの[神授技能]を取るかを決めておいた方が良さそうね。
前世の私、目前の利益だけで[神授技能]を取っていたの。
だから、強い[神授技能]を取るための[魂換数値]も貯まらなくって。
ずっと使ってたのって、勇者育成学部の指導方針で取らされた《空間収納》と、
[固有武器]を出したりしまったりする
《固有武器召喚》、《固有武器召喚》。
[固有武器]は、自分の魔力を含んだ血と、魔鉱石といわれる魔力に馴染みやすい鉱石を使って作った、オリジナルの武器。
私も授業で作ったの。
それとそうだわ、《空間収納》があるなら、それで前世に着てた服を回収しておこう。
さすがは勇者として戦うときに着ることを想定されて作られた服、といったところね。
さっき死体を回収していたときにも思ったけど、ぜんぜん破れたりしていないのよ。
今まで着てきてほつれることもなかったし。
いつか使うかもしれないし、持っておくことに越したことはないわね。
あとは自分で取った[神授技能]で、《無剣》があるわね。
属性のない剣の[神授技能]で、普通の斬撃よりも強い斬撃になるの。
使い勝手がよかったし、それなりに[魂換数値]が必要だったから、この[神授技能]自体強かったわ。
授業で必須で取らされた[神授技能]を除いたら、この[神授技能]が一番[魂換数値]を使ったんじゃないかしら。
よく使っていた[神授技能]は、この三つだけ。
それ以外に取った[神授技能]はたくさんあるけど、ほとんとがその場かぎりであまり使うことはなかった。
そして今世では、この間違いをおかしてはならないの。
だって時間がないわ。
この私が今から勇者を目指すなら、それこそ最速で迷宮を完全踏破しないとなれないくらいだと思うの。
今のところの最速踏破者は、元祖の勇者と言い伝えられていて、その人はたったの一年で踏破したらしい。
だから最低限どの[神授技能]を取るか、決めておこう。
[魂換数値]を集めるのは大変かもしれないけれど、間違いをおかすこともない。
……そうね。
前世の経験上、剣の[神授技能]の上位層にあげられる、上位属性をまとった斬撃になる[神授技能]は取っておいた方がいいわね。
これの亜種にあたるのが、《無剣》なのよ。
属性を全くまとわない《無剣》さえもすごく使えたんだもの、属性をまとわせて使い分けができれば、もっと強くなれるわ。
この属性別に四つある[神授技能]は全部、前世の[神授技能盤]にある。
上位属性にはそれぞれ、
火系の上位にあたる炎系、
水系の上位にあたる氷系、
風系の上位にあたる雷光系、
土系の上位にあたる大地系があるの。
最低限、この[神授技能]は取るわ。
これ以上強い剣の[神授技能]は、私の[神授技能盤]にはないから。
今世の[神授技能盤]には、剣の[神授技能]はなかった。
あと、転移系の[神授技能]の《空間移動》も取っておくべきね。
これがあれば、行ったことのある場所なら一瞬で行けるようになるもの。
鍛練により多くの時間が使えるわ。
それから、剣を使うためには人間の形になる必要があるわね。
私の[固有武器]が剣である以上、やっぱり人間の形の方が戦いやすい。
あと、前世が人間だったから、人間の形の方が慣れてる、っていうのもある。
んぅと、なにかに変身できるような[神授技能]は、あるとすれば今世の方よね。
ジェルスライムとはいえ、本体は核なんだし、核の周りにまとうものを変えるだけだもの。
そんな[神授技能]があってもおかしくないわ。
えっと、んぅっと、……これ、かしら?
その名も《外郭変化》。
説明を見てみると、外のジェル状を変えられる[神授技能]だった。
うん、バッチリ。
しかも、取得するために必要な[魂換数値]もそこまで多くないわ。
さすがに今の手持ちじゃ足りないけど。
ジェルスライムとしての私でも、なんとか貯められそうね。
すると、効率を考えるとやっぱり迷宮にもぐった方がよさそうだわ。
というか、剣の取りたい[神授技能]は、ひとつでも相当な[魂換数値]が必要だもの。
それこそ、私のせいで退却せざるを得なかった中ボス的なアイツを倒して、ようやくひとつ取得できる、くらいには。
もしかすると、今最低限で数えた[神授技能]を全部取るには、迷宮を踏破しきらないといけないんじゃないかしら。
…………………………えっ?
……ウソ、よね。
え、今から勇者選抜大会までに、私。
迷宮を完全踏破しないといけないの?
……。
…………。
………………いいわよ、やってやろうじゃない。
迷宮の情報はある程度頭のなかに入っているわ。
絶対に無理なことだとは言いきれないもの。
私。
今から九ヶ月……いや、八ヶ月以内に。
世界で唯一の迷宮、踏破してみせるわ。
だって私、勇者になりたいから。
そのために、迷宮の完全踏破。
しかも、最速の完全踏破。
やりとげてみせるわ、絶対に。
最速の迷宮踏破を目標に定めたエノディフィ。
厨二よりの言葉もぽんぽこぽんぽこ出てきましたね。
ここからさらに加速していきますよ(厨二の言葉具合も)。
次話、『第四話 理論値に全てを振り切るために』
12月8日(本日)午後6時頃の投稿です。