月狐(げっこ)は結び、剣が舞う【第十話 コウリン】
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月狐は結び、剣が舞う
作:狩屋ユツキ
第十話 コウリン
【人物】
雨ヶ崎 夜子(あまがさき やこ)
女
表記は雨ヶ崎 ヤコ
水を操る妖狐
見た目は20歳前後
一人称は私
湖月所属
焔ノ塚 天音(ほむらのづか あまね)
男
表記は焔ノ塚 アマネ
炎を操る妖狐
見た目は20歳前後
一人称は俺
湖月所属
秋宝条 柚貴(あきほうじょう ゆたか)
男
表記は秋宝条 ユタカ
土を操る妖狐
見た目は25歳前後
一人称は私
無所属
狂乱魅 陽光(きょうらんみ ようこう)
男
表記は狂乱魅 ヨウコウ
光を操る妖狐
見た目は25歳前後
一人称は我
此日所属
邪 目目(よこしま めめ)
女
表記は邪 メメ
影を操る妖狐
見た目は15歳前後
一人称はメメ
海古所属
春舞郭 希咲(はるまいくるわ きさき)
女
表記は春舞郭 キサキ
様々な術が使える人食桜
見た目は30代前半
一人称はわたくし
魅憑奇所属
美樹本 三郷(みきもと みさと)
男
表記は美樹本 ミサト
巨大な番傘を生み出し、振るう(鉄製)
見た目は30代後半
一人称は俺
魅憑奇所属
刹天下 心(せつてんげ しん)
女
表記は刹天下 シン
能力は不明
見た目は20代後半の妖艶な美女
一人称は妾
新たな組織、魅憑奇を名乗る
【使用時間】
40分程
【配役表】
ヤコ:
アマネ:
ユタカ:
ヨウコウ:
メメ:
キサキ:
ミサト:
シン:
男:女
4:4
――――――――――――――――
アマネ「よっし、ひと仕事終わり!!久々のヒトケガレ狩りだったからちょっと疲れたなー。腹も減ったし帰りになんか食って…………あれ?」
間
アマネ「…………どこ行った?ヤコ」
間
ユタカ「アイラさーん。アイラさーん?……おかしいですね……夕餉にも朝餉にも顔を見せないとなると心配になって部屋まで見に来てみましたが……部屋はそのまま、姿だけ見えないとなると流石に……ん、これは……」
間
ユタカ「…………手紙?」
間
ヨウコウ「邪メメが海古の屋敷より姿を消した…とな。時刻は。……確認できる限り、昨日の夜から朝方にかけて……か。そうなるとただの散歩というわけでもないようだ。海古の屋敷の様子は。……ふむ、隠してはいるが慌てた様子が見て取れるなら、失踪か或いは……いや待て、」
間
ヨウコウ「……同時に春舞郭が消えている。……至急、邪メメの居場所を探せ」
間
ヤコ「……んぅ、ここは……」
メメ「ようやっとぉー、おー目覚めぇー?」
ヤコ「よ、邪メメ……?!どうして、……痛っ!!」
メメ「どーしたもこーしたもぉ、後から来たのはぁ、そっちなんだけどーぉ。あー、暴れても無駄無駄ぁー。力も術もぉ、この手枷ってばぁ封じちゃうっぽくてぇー……」
ヤコ「……呪符が貼られていますね。……ああ、頭がズキズキする……」
メメ「頭殴られたのも一緒かあー……。因みにー、もうひとり、そこで転がってるよぅ。こっちはぁ、……術で眠らされてるっぽいねー……全然起きないしぃ」
ヤコ「アイラさん?!……本当ですね……かろうじて息はしているようですが。ん?これは桜の香り……まさか」
メメ「……どうでもいいけどぉー、ここ、暗いじゃないぃ?だからぁ今何時かぁわかんないんだけどぉ、アンタ腕時計とかしてないのー?」
ヤコ「腕時計はしないんです……。締め付けるものはあまり好きじゃなくて。最近はスマホで事足りますし……そうだスマホ……!!」
メメ「とっくに取り上げられてるよーぅ。ばぁあか」
ヤコ「……ですよね」
メメ「どっちにしろー、これでぇ、正確なぁ時間を知る術はーなくなったわけだけどー……んん、そっち、最後覚えてるの何時くらいー?」
ヤコ「……午前一時くらいですね。ヒトケガレ狩りをアマネさんと行っていて気を抜いた瞬間にガツンと……ああ、本当に痛いんですけど……絶対コブになってる……」
メメ「ふむふむー?触ったげる」
ヤコ「あ、痛!痛いですメメさん!!!」
メメ「うっわァ、すっごいコブ。……メメはぁ午後九時。その子がぁ、運ばれてきたのがその少し後だからー……ざっと見てー今ぁ、朝の七時八時くらいかなぁあ。誰か気づいていいと思うんだけどぉ」
ミサト「嬢ちゃん達、朝飯が遅くなってすまねえなあ」
ヤコ「眩しっ……」
メメ「うきゃぅ!!!」
ミサト「おっとこりゃすまねえ。陽の光をあんまり入れるなと上からの指示でなあ。暗くて黴臭いところだがちぃっと我慢してくれや。あともうちょっとで迎えが来るからよ」
ヤコ「迎え……?」
ミサト「食事は此処に置いておくぜ。手枷が邪魔だろうが、サンドイッチなら手枷したままでも食えるだろう。嬢ちゃん達が苦手だとまずいと思ってマスタードは抜いておいたから安心しな。ジュースもほら、ストロー付きだ」
メメ「むぅう、子供扱いしてぇー……!!」
ヤコ「人を攫っておいて、その食事にホイホイと手を付けるとお思いですか」
ミサト「警戒するのはわかる。だがなあ、お前さん達は大事な大事な人質なんだ。飢えて死なれても乾きで死なれても自害されても困る。だからその手枷だ。それには特殊な術がかけてあってな、例えば舌を噛み切ろうとしても頭を壁に打ち付けて死のうとしても絶対にできないようになっている。その代わり、俺達があんた達に危害を加えることもできなくなってるがな。ま、保護と封殺の術がかかってると思えばいい」
ヤコ「保護と、封殺……」
メメ「メメ難しいことわかんなーい!!」
キサキ「でも、理解したほうが宜しくてよ?メメさん」
ミサト「キサキさん」
メメ「キサキ……ちゃん……」
ヤコ「やはり春舞郭キサキ……!!アイラさんを攫ったのは貴女ですね?」
キサキ「如何にも。獏のお嬢さんに術をかけたのはわたくしです。お嬢さん、羽のように軽くって助かりましたわ」
ミサト「おっと、残りのお二方も羽のように軽かったぜ」
ヤコ「そんなフォローはどうでもいいです。私達を攫ってどうするつもりですか」
キサキ「貴女達は餌なのです」
ヤコ「餌?」
メメ「……餌って、メメ達が……?」
キサキ「メメさん、自分がどういう立場かなんて考える必要はありません。貴女とともにわたくしも獲物を釣り上げる餌に過ぎませんから。ええ、それはもう、匂い立つような餌になると思っていますわ。そのためにずっと“一緒に遊んできた”のですし」
メメ「……っ、キサキちゃんは、メメの友達じゃないの……っ?!」
キサキ「お友達ですとも。ですから、裏切れるのです」
メメ「――っ!!」
キサキ「何の関係もないなら裏切ることもできないでしょう?……ふふ、言葉遊びも此処までのようです。そろそろお迎えの準備をしなくては。……ミサトさん、行きましょう」
ミサト「嬢ちゃん達、その飯は食っといたほうがいいぞ。逃げ出すにしても、降伏するにしても、イキがいいのじゃないとつまらんからな」
ヤコ「ま、待ちなさい!まだ話は――」
キサキ「こちらにはございませんの。御免遊ばせ」
間
アマネ「ユタカ!!!!!ヤコがいなくなった!!!!!!」
ユタカ「奇遇ですね、私も今からそちらの事務所に向かおうと思っていたところです。ああ、マリアージュさん、彼は五月蝿いだけで何か壊したりしないので銃じゃなくてお茶をお願いします」
アマネ「俺達の事務所へ……?ってことは、こっちでも誰かいなくなったのか?」
ユタカ「アイラさんが攫われました」
アマネ「アイラ……って、夢を操るとかいう獏のちびっ子か?」
ヨウコウ「それだけではないぞ」
アマネ「よ、ヨウコウ?!」
ユタカ「……今日は千客万来ですね。……どなたがいなくなったと?」
ヨウコウ「メメだ。邪メメ。それから春舞郭」
アマネ「……なんだってんだ」
ユタカ「湖月、海古、そして秋宝生……此日過激派の仕業ですか?」
ヨウコウ「我もそれをまず疑った。が、それらしき動きはない。寧ろ……これは春舞郭が仕組んだと我は考える」
アマネ「春舞郭キサキ……あンの野郎……!!!」
ユタカ「で、何処へ行く気ですかアマネさん」
アマネ「決まってんだろ、春舞郭キサキを探し出す!!!」
ヨウコウ「阿呆。少し頭を冷やせ、馬鹿者が」
アマネ「痛ぇ!!何も殴ること――」
ユタカ「ヨウコウさんの言う通りですよ。ちょっと頭に血が上りすぎているようですので、えいっ」
アマネ「いったぁ!!!!ユタカまでなんだよ!!」
ユタカ「デコピンです。お茶も入ったことですし、一旦情報を整理しましょう」
アマネ「……」
ヨウコウ「座れ。茶が不味くならんうちにな」
アマネ「畜生……」
ユタカ「さて……アイラさんがいなくなったのは昨日の午後七時以前です。夕餉に顔を見せず、朝餉にも顔を出さないことを不審に思い、私が彼女の部屋に行きましたがもぬけの殻でした」
ヨウコウ「メメが消えたのは昨夜午後九時以降と知らせが入っている。春舞郭について詳細は不明だが、少なくとも同時刻には姿が確認できていないこともわかっている」
アマネ「……ヤコは今日の午前一時半ってところだ。昨日、ヒトケガレ狩りが終わった後に気がついたらいなかった。先に事務所に帰ったのかと思ったが、今になっても連絡の一つもねえ。携帯も圏外」
ユタカ「となると時間はばらばら……場所も異なる妖怪が昨日の夜七時から朝二時にかけていなくなったと」
ヨウコウ「時間に差があるのは単独犯、若しくは少人数で動いたからだろう」
アマネ「ヤコの携帯が圏外だってことを考えると全員攫われたってのが一番有力だと思う。だいたい、いなくなった奴らに共通点があるとすれば女だってことくらいだ。メメや春舞郭はともかく、ヤコもそっちの獏のちびっ子もふらっと自分からいなくなるタイプじゃねえしな」
ユタカ「大分頭が冷えたようですね。……ええ、共通点はほぼありません。ですが、ここに集まった私達を鑑みれば一つだけ共通点が見えてくるんですよ」
アマネ「ミッシングリンク?」
ヨウコウ「そんな大層なものでもあるまい。が、予想はつく。……キーワードは春舞郭だ」
ユタカ「その通りです。此処数週間、我々が関わった事件にはほぼ全て春舞郭キサキが関わっている。この事件だけに関わっていないとは考えにくい。……極めつけは、これです」
アマネ「なんだこれ、手紙?そんなもんがあるなら最初から……!!」
ヨウコウ「中を改めさせてもらう。……地図、だけか」
ユタカ「はぁ……お二人共、ヒトの生活に随分と毒されているんじゃありませんか?そこに焚きしめられた香は何の香りですか」
アマネ「……これは」
ヨウコウ「桜」
ユタカ「春舞郭からの招待状ですよ」
間
キサキ「舞台は整いました」
ミサト「やっとって感じだがなあ、俺からすれば」
シン「……ふふ。二人共ご苦労じゃった。妾の為にいつもすまぬのう」
キサキ「そんな、勿体ないお言葉」
ミサト「だがなあ……今日はともかく、お披露目会だろう?そのためだけに三人も攫うのは中々骨が折れたぜ。何しろ加減が難しくてなあ、全部キサキさんの術で眠らせりゃあ良かったのに」
キサキ「わたくし、重い荷物を運ぶのには向いていませんもの」
シン「ぼやくな、ミサト。妾は二人に感謝しておるのじゃ。直に他の者も門下に降ろうが、我が力を分け与えしはお主らだけよ。直系の我が子と言うて差し支えないお主らが有能で、妾は本当に果報者じゃて」
キサキ「シン様……」
ミサト「まあ、子が親のために働くのはそんなに嫌な仕事でもないもんでね。ましてや、魅憑奇のためとなりゃあ……」
シン「魅憑奇……ふふ、キサキは言葉遊びが上手いのう。妾では思いつかなんだ良き名よ。妾はこうやって玉座に座らせてもろうておるが、実際には主らが手となり足となり動いてくれているからこそ此処に居られるのじゃ」
キサキ「それを仰るのであれば、貴女様がいなければわたくしもミサトさんも此処には居りませんでした」
ミサト「キサキさんは命を、俺は力と居場所を与えてもらった。それだけで恩は十分でさあ」
シン「ほほほ、ほんに妾は良い子らに恵まれておる……のう、そうは思わんか、狂乱魅の」
キサキ「っ?!」
ミサト「なっ?」
ヨウコウ「……ほう、気付いていたか。姿消しは勿論、今回は匂いも気をつけて消していたのだがな」
シン「今の妾の数少ない特技でのう、妾には全て“視える”のじゃよ。光の屈折での姿消し、見事じゃった」
アマネ「じゃあもう隠れる必要はないな。……おいそこの女、お前が首謀者か。だったら話は早ぇ、攫った三人をさっさと返しやがれ」
ユタカ「やれやれ、もう少しお話を聞いていたかったところだったんですが……見付かってしまっては仕方ないですね。アマネさんの言うとおりです。……三人は、無事なんでしょうね」
シン「ミサト、三人を連れてまいれ。……っふふ、キサキ、そう毛を逆立てるでない。妾にはお前が付いておる故に恐れるものなど何もない、じゃろう?」
キサキ「……シン様……はい、その通りでございます」
アマネ「あ゛?あんまり舐めてっと痛い目見ンぞコラァ」
ヨウコウ「安い挑発に乗るな、焔ノ塚」
ユタカ「ええまあ、人質の扱い次第では痛い目を見ていただきます。知ったこともないような痛みを、ね」
ヨウコウ「秋宝生の小倅もか……」
シン「ほほ、意気の良い男子は好きじゃ。安心せい。部屋は蔵じゃが妾の朝食と全く同じものを出しておる。毒など盛ったりもせぬ。今日はキサキ特製のミックスホットサンドとやらでな。パンの表面をぱりっと焼いておって、とても美味じゃったぞ」
ヨウコウ「そういう問題でも……いや、良い。貴様と有意義に話すことが無駄だと今思い知った。人質を疾く返せ。我らは帰る」
ミサト「まあそう言うなよ、此日の王様」
ヤコ「アマネさん!!ユタカさん!!それにヨウコウさんまで?!」
メメ「……」
ユタカ「アイラさん?!アイラさん、返事をしてください!!」
ミサト「おっと、こっちの獏の嬢ちゃんは眠ってるだけだ。何せ夢を操るとかいうお嬢ちゃんに惑わされでもしたら敵わんからな。キサキさんの術で眠ってもらってる。……まずはこの嬢ちゃんの受け渡しだ。そこの秋宝生の旦那」
ユタカ「なんですか」
ミサト「こっちへ来いや。俺も半分そっちへ向かう」
ユタカ「……わかりました」
ミサト「物分りが良くて助かるぜ。……ほらよ、ちゃんと受け取りな」
ユタカ「……アイラさん。……良かった、呼吸はしている……。しかしこの枷……」
アマネ「ヤコとメメも返しやがれ!!この変態共が!!」
メメ「……え」
キサキ「あら?意外ですわね。てっきりヤコさんだけを返せと喚くのかと思いきや、メメさんもですか?」
メメ「……っメメ、はぁ……、メメは、海古、なんだよぉ?ばっかじゃないの?!」
アマネ「五月蝿え!!捕まってたのは一緒だろうが!!それにそこのキサキって奴が個人的に気に入らねえ!!前に会ったときも思ったが、今はもっと気に入らねえ!!お前、メメの仲間だったはずだろうが!!なんでそっち側にいる!!それがメメにとってどういう気持ちになるか、考えたことがあるのかよ!!!!」
メメ「(涙声で)……っ、本当に、ばっかじゃあ、ないのォ……?!」
キサキ「吠える犬ほどと言いますがそれほど愚かではないのですね。少し見直しました」
アマネ「俺は狐だ!!誰が犬だ!!」
ヨウコウ「……台無しだな。……しかし先程の会話といい、今までの行動といい、春舞郭キサキ、お前は元々“此方側”だったのだな。海古は隠れ蓑か」
キサキ「隠れ蓑にもなりませんわ、あんなもの。冬越しの蓑と言ったところでしょうか。まあ、メメさんやユメジさんと遊んでいるのは楽しかったのですけれど、それも大義の前には散り際の花弁より儚いもの」
ヤコ「このっ……」
ミサト「おっと、暴れないでくんなァ。直に返してやっからよ。だがその前にお前ら、各組織の代表として伝えてほしい事があるんでね」
シン「そのために集まってもらったのじゃ。手間を掛けさせてすまなんだの。じゃが、こうでもせねば、主らを一同に集めて話を聞いてもらう術が思い浮かばなくてのう。妾の至らぬところ、許してくりゃれ」
ヨウコウ「伝えてほしい……事、だと」
アマネ「そのためだけに攫ったっていうのか!!」
ユタカ「……解せませんね。一体何を伝える気ですか」
ヤコ「皆さん、聞く必要なんかありません、伝えることなんか何一つ――」
キサキ「お黙りなさい」
ヤコ「――っ」
キサキ「何人たりとも、シン様のお言葉を遮ること、まかりなりません」
シン「キサキ。その娘にも妾の保護術をかけておる。幾らお主の鋭き槍とてその娘の首の柔肌に傷一つつけることは出来ぬよ」
キサキ「……そうでした。お許しください」
ミサト「やれやれ、キサキさんは意外と血の気が多くって困る。人質はこっちで預からせてもらおうかね――っと」
シン「そうしてくりゃれ。キサキはまだ若いのじゃ。主と違って妖怪として一年生きておらぬ。人の狩り方も食い方も幼いのじゃからのう」
メメ「……え?キサキちゃんが……一年?」
ヤコ「一体、どういう……」
キサキ「驚くのも無理はありません。しかし本当です。わたくしはまだ生まれて一年と経たない若輩の妖怪。いえ、“桜のヒトケガレ堕ち”と言うべきでしょうか」
(シン、キサキ、ミサトを除く全員が息を呑む音)
シン「キサキは妾が子の一人よ。そこにいるミサトは死にかけておった妖怪じゃ。妾はそういう妖怪や、ヒトケガレを保護しておる」
ミサト「ヒトケガレは時間が経つとヒトケガレ堕ちする。それは此処にいる全員が知っているな?だが、その先はどうだ」
ヨウコウ「……秋宝生」
ユタカ「……ヒトケガレ堕ちは自然消滅します。約一年で。それに人間以外のヒトケガレ堕ちなど聞いたこともありません」
メメ「メメは」
ヤコ「メメさん?」
メメ「メメは、知っているよぅ。……ユメジちゃんのぉ、研究にあった。ヒトケガレの穢れが最高潮に達したとき――ヒトケガレは新たな“妖怪”になるって」
アマネ「……、……っ、まさか、」
ミサト「兄ちゃん、勘が良いみたいだな。言ってみな」
ヨウコウ「言うな、焔ノ塚」
アマネ「それじゃあ俺達妖怪は皆」
ヨウコウ「言うな!焔ノ塚!!」
アマネ「何かの」
ヨウコウ「言うなと言っている!!!聞こえんのか焔ノ塚!!」
アマネ「ヒトケガレ堕ちだっていうのかよ!!!!」
間
シン「……ほほ。焔ノ塚アマネとやら、何にそんな衝撃を受けた顔になっておる?周りを見渡して見い、他の者の顔をよぉく見ることじゃ」
ヤコ「アマネさん……」
アマネ「ヤコ、お前……知ってたのかよ……」
ヤコ「……」
アマネ「知ってたのかよ!!」
ヨウコウ「……」
ユタカ「……」
アマネ「ヨウコウもユタカも……なんだよ、知らなかったのは……俺だけかよ……!!!」
ヤコ「私は……ヒトケガレを人に戻す研究の中で知りました……」
アマネ「……」
ヤコ「私だってショックだったんです!!だから、このことは隠しておくべきだと……!!」
ユタカ「このことはヒトケガレ堕ちを駆除する役目を負った秋宝生の者でも一部しか知りません」
ヨウコウ「……」
アマネ「ヨウコウは……何で知った?」
ヨウコウ「我は王故に、知らぬことなどあってはならぬ。故に過去、実験した。我らがどうやって生まれくるのか、我らはどうやって死にゆくのか。その過程で知らぬ訳があるまい」
アマネ「……は、はは、……そうかよ。……俺だけ、仲間はずれか」
シン「可哀想に。だがのう、そんなお主でさえ、妾は受け入れよう」
キサキ「全ての妖怪はシン様に従うべきなのです」
ミサト「故に、俺らはシン様を神とした新たな組織を此処に宣言する」
ヨウコウ「……神、だと?」
シン「組織の名を魅憑奇という。麗しい名じゃろう?そこにいるキサキが付けたのじゃ」
キサキ「今頃、他の妖怪たちの耳にも噂として入っていることでしょう。それなりにわたくしたちに従わぬモノを“殺し”ましたからね」
ミサト「おっと、だからって俺達をテロ組織かなんかと間違えるんじゃねえ。俺達はどっちかって言えば救い主って奴なんだからな、……さて、残りの嬢ちゃんたちも返すぜ、っと」
ヤコ「きゃっ」(投げ飛ばされる)
メメ「ひゃぁあ」(同じく投げ飛ばされる)
アマネ「ヤコ!!」(抱きとめる)
ヨウコウ「手間をかけさせる……っ」(同じく抱きとめる)
ミサト「ナイスキャッチ。はっはっはっ」
シン「……ミサト?人質は丁寧にと言うた筈ぞえ?」
ミサト「これ以上は不要ってやつでしょうや」
シン「全く、腕白がすぎるのも考えものじゃのう……。宣言は済んだ、もう主らも帰って良いぞ。なんならキサキを送りにつけても――」
ヨウコウ「(遮って)名を名乗れ、魅憑奇の神とやら」
シン「ん?」
ヨウコウ「貴様が神ならば我は生まれついての王よ。王が愚神の名も知らぬようでは帰れぬ」
キサキ「貴様、シン様に何という口を――」
シン「(遮って)ふっ。ほほ、おほほほほほほほほほ!!!!!!」
キサキ「し、シン様?」
シン「確かに、確かにのう!!狂乱魅と言ったか、全く以てその通りよのう!!相判った、妾の名を知ることをこの場全員に許そう。しかと聞くが良い、しかと覚えるが良い、しかと伝えるが良い!!」
アマネ「神の」
ヤコ「名前……」
ユタカ「魅憑奇……」
メメ「キサキちゃんの……神様……」
ヨウコウ「名を名乗れ、愚神よ」
間
シン「妾の名は刹天下シン。全ての妖怪の――母にして神である」
了
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