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ガラパゴス・ガーディアンズ こちら航空宇宙消防本部第十七小隊  作者: 霧山純
第十六話「アレクサンダー静岡に現わる」
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アレクサンダー静岡に現わる・4b

 キャンピングカーのドアが開くと、まず菊池源吾を先頭に、ガラパゴスから太平洋を越えてきた三人の男たちがベッドへ向けて突進した。

「まず寝かせてくれ」

 ベッドに倒れ込んだ源吾は拝むように言った。「五分でいいから」

 コウジと守も次々と倒れ込む。

「俺のバイタルサインが異常値を示しているよ」とコウジ。


「大丈夫? 守さん」

 ユズは、うつぶせになっている守の横に寄り添って、その手を握った。

「ありがとう、ユズちゃん……」

 と呻く守はさながら今際(いまわ)(きわ)のようだ。彼は、コウジが疲れ切って妨害できないのをいいことに、ここぞとばかりにユズに甘えた。


「俺もちょっと寝るよ」

 そう言って加わったのは、横浜からずっと運転手を務めていた健太郎だった。彼はしのぶに肩を借りて、ベッドに横になった。ぐいぐいと源吾の巨体を押しやってスペースを作る。しのぶはその横に椅子を持ってきて座った。


 キャンピングカーは出発した。前を走る黒いリムジンを追っていく。

「華、あと何分くらいで着くの?」と、しのぶ。

「四キロちょっとだけど、山道だから七、八分くらいかな」と、華は答えた。

「七、八分だって」

 と、しのぶは寝ている健太郎に伝えた。


「桃井、今から行くところは、なんというホテルなんだい?」

 運転手を交代した龍之介が、ハンドルを握りながら訊いた。

 助手席に座っている華は答えた。

大平(おおひら)温泉プレミアムリゾートホテルです」

「すごい名前だな、こんな山奥なのに」と龍之介。


 華はちょっと恥ずかしそうに頬を赤くして説明した。

「私も、ちっちゃい頃に一回泊まっただけなので、もしかしたら変わっちゃってるかもしれないんですけど、とにかくでっかいんです。プールみたいな温泉が外にも中にもあって、全部の客室には大きなバルコニーがついていて、それが斜面に沿って段々畑みたいにずっと続いているんです」

「そいつは壮観だな」と龍之介。

「意外と新しい温泉なんですよ。それを、あの森田町長がいろいろがんばって、そのくらい大きな観光地にしたらしいです」


「それじゃあ、よそから来たお客もたくさんいるだろう。それはまずいな」

「大丈夫です。予約していたお客さんにはたっぷりサービスを上乗せして他の日に振り替えてもらったそうですし、宿泊中のお客さんには危険なガスが漏れているから緊急でメンテナンスが必要になったからということにして、他のホテルに移動するか、日を改めてまた来てもらうか、どちらかを選んでもらうことになったそうです。だから私たちの貸し切り。町の人たちや、私の家族は、その間、好きに利用していいんだそうです」


「それはお金が掛かったろう」

「全部アレクサンダーさん持ちですって」

「そりゃそうだ」

「その代わり、秘密は厳守ですよ」

「わざわざマスコミを呼び寄せるようなことは誰もしないだろう。ただ、一応、隊長には報告しておいたほうが、あとあと面倒にならずに済みそうだと思うんだ。天野があんな報道のされ方をして、上の人たちも大騒ぎのはずだしな」

「早苗さんにも話を通しておいたほうがいいんじゃないですか?」

 その名を聞いて、龍之介は身震いした。

「そうだな、あのおばさんが騒ぎ出したら、えらいことになりそうだ」


 そういうことで、小山(こやま)三郎さぶろう隊長と女子寮の花園(はなぞの)早苗さなえ寮長には、自分たちが今いる場所のことは伏せて、これまでのいきさつを説明しておくことにした。

 キャンピングカーの天井近くにスクリーンが映し出され、相互に顔を見ながら対話できるようにセッティングできた。


 小山隊長は待ち焦がれていたかのように、すぐに呼び出しに答えた。

 龍之介が順を追って事情を報告すると、小山隊長は鷹揚に受け止めてくれて、「まあ、気をつけろよ。何かあったらバックアップはしてやるからな」と言ってくれた。

「事後報告になってしまって、すいません」と龍之介が謝ると、隊長は、

「いやいや、よくやってくれた。優秀な部下を持って、俺も鼻が高いよ」と(ねぎら)った。


 一方、寮長の早苗のほうは、キャンピングカーの後部のベッドで男女が密集して横になっているのを一目見るなり、叫び声を上げて爆発しそうになった。それをしのぶが急いでなだめる。

「早苗さん、みんなのことが信用できないの? 私や妙子が困ったときに、こんなにがんばって駆け付けてくれた素晴らしい仲間じゃないか。あんたが考えているようないかがわしい関係にはなりようがないよ。あくまで健全。ひたすら健全だよ」


「あなたが考えている『いかがわしい関係』というものがどういうものかはわかりませんけれど」と前置きしたうえで、早苗は言った。「そこまで健全だとおっしゃるなら、定期的な連絡をよこすことくらいはできるのではありませんか?」

「それは、ちょっと困るんだよなあ……」

 しのぶは、本当に困ったような顔をした。「そうすると、私たちが今いる場所がわかっちゃうかもしれないでしょ。そうなると妙子が困るの」


 すると、早苗は急に声を荒げた。

「それなら、私のことなんて放っておいてくださいな。連絡だってよこしていただかなくて結構です」

 ついに早苗はすねてしまった。


「まいったな」と、しのぶはつぶやき、横で寝ている健太郎の頬を無意識になでた。なぜ、そんなことをしたのか、しのぶ自身にもわからない。それを目ざとく見つけた早苗は、鬼の首を取ったように騒いだ。

「ほら、そういうことですよ。あなたがたがどんなに言い繕おうとしても、本当はそういうことをしたいがために、私の目を逃れようとしているのではありませんか?」


「違うよ、これはそういうことじゃなくて……」

 しのぶは慌てて手を引っ込め、顔を真っ赤にして反論した。「本当にあんたのことがどうでもいいと思ってるなら、わざわざこうやって話をしたりなんかしないよ。あんたのことを大事に思っているからこそ、こうやって正直に事情を話したんじゃないか。あんただって私たちの仲間なんだから」

「まあ……!」

 と、早苗は絶句した。仲間だと言われたことがよほど心に響いたのか、急に照れ始めて、表情が柔らかくなった。


 しのぶは、しめた、と思った。

「ね、だから、私たちのことは心配しないで、おとなしく帰りを待っててよ」

 早苗はうつむき、眼鏡に光が反射しているせいで細かい表情はわからないが、とりあえずは納得したように答えた。

「わかりました。それではみなさんが無事にお帰りになられるのを、私はお待ちしています。くれぐれも事故などに遭わぬよう、気をつけるのですよ」

「はい」と、しのぶは答え、華、ユズ、愛梨紗そして龍之介もうなずいてみせた。他の男四人は熟睡していた。


 そんなことをやっているうちに、キャンピングカーは峡谷の奥地に鎮座する巨大な大平(おおひら)温泉プレミアムリゾートホテルに到着した。妙子たちの乗る黒いリムジンは先に車寄せに入っていた。本当に華が言っていたとおり、広いバルコニーが段々畑のように斜面を埋めている。その周囲は深い森で、足元には興津川の岩だらけの上流が流れている。斜面のあちこちから温泉の湯けむりが立ち昇り、森の木々を湯気で覆っている。


 正面玄関の車寄せでドアマンにドアを開けてもらうと、華たちは外に出た。こんな山奥にあるとは思えないほど豪華な作りのホテルだった。温泉地特有の、鼻をつくガスの匂いがした。

「ご飯はまだね?」と愛梨紗。

「私は温泉入りたい」と、しのぶ。

「私は探検したいな」とユズ。

「龍之介さんは、私と一緒に来てくださいね。家族が待ってますから」と華。


 龍之介は「お、おう」と答えると、後部のベッドでいまだ眠りに沈んでいる男たちに呼びかけた。「お前たち、眠るなら部屋で眠れ。もうひと踏ん張りだぞ」

「おーう」と男たちは答え、ゾンビのようにベッドから這いずり出た。

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