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黄金の林檎・3a

 花火と大弾幕で彩られた港は、パーティの招待客で埋め尽くされている。タラップの前には行列ができ、着飾った人々がお互いの服を避け合いながらひしめき合っている。

 太陽は水平線の向こうに沈み、闇が空を覆い、遠くに浮かぶたくさんの人工島の夜景がきらめいている。


 港の端の駐車場に、黒い車列が停まっていた。ロールスロイスの新型を中心に、その周囲を装甲車のような大型のリムジンが囲んでいる。それらが港の華やかさとは対照的な、なにやら物々しい威圧感を放っている。


 ロールスロイスの後部座席に乗っているのは、今夜のパーティのもう一人の主役である、クリスチャンの息子、アレクサンダー・バラードだった。

 彼はやせっぽちで、茶色い髪をした、優しい顔の持ち主だった。とても世界を支配する帝国の後継者とは思えない、どこにでもいるような初々しい青年だった。彼が着せられているパーティスーツは、どこかだぶだぶで、これからスタンダップコメディの出番を待っているかのように、まるで似合っていなかった。それでも一応、彼は航空宇宙会社ソラリ・スペースラインの社長を五年も務めている。


 隣りの座席に座る秘書のマギーが、いつもの冷静な口調でボスを促した。

「社長、そろそろ参りましょう」

 そのとき、遠くで花火がボーンと鳴った。

「いや、もうちょっと待ってくれ」

 港のイルミネーションに照らされたアレクサンダーの顔は、汗で光っていた。


 白い上下のスカートスーツに身を包んだマギーは、身じろぎもせず、しかし、有無を言わせぬ調子で言った。

「あと十分以内に乗船しなければ、発表会に間に合いません」

「あと十分あるじゃないか」

 アレクサンダーは弱々しく言った。窓の外は、黒くてごつごつしたリムジンで取り囲まれている。今すぐにでもドアを開けて、あのリムジンの横をすり抜け、遠くへ逃げ出してしまいたいと、彼は思っていた。これが最後のチャンスだろう。もし船に乗り込んでしまったら、その先の自分の運命はすべて他人に握られてしまう。あのクリスチャン・バラードの思い通りになってしまう。


 ここに味方になる人間はいない。隣りのマギーは虚空を見つめて、ネビュラを通して誰かと通信している。ここで何を言ってもクリスチャンに筒抜けだ。良いように言いくるめられて、船に乗せられるだけだ。

 ドアにはロックが掛かっていて、アレクサンダーが自分で開けることはできない。運転手にここから逃げるように指示しても無駄だ。社長か、それとも会長か、どちらの命令が重要かは誰が見てもわかる。


 今の自分にできることは、ただ時間を稼ぐことだけだ。手立ては何も思い浮かばないが、ただ言われるままに従うよりは、精いっぱい抵抗するべきだ。そうでもしなければ自分の自我が耐えられない。ギリギリまで抗えば、何か突破口が開けるかもしれない。


 そのとき、また遠くで花火がドーンと鳴った。それは一つではなかった。今度は立て続けに、辺りを真昼のように照らすほどの大量の花火が打ち上げられた。

 そこでアレクサンダーは見たのだ。光に照らされた三人の女神が、こちらに向かって手を振っている姿を。それはとても美しく、陳腐な表現だが、まさにこの世のものとは思えないほどだった。大型客船を背景に、一枚の布を身体に巻き付け、月桂樹のティアラを頭に乗せ――一人はベールを被っているが――底の薄いサンダルを履いた三人が、こちらに向かって微笑みかけている。自分に向かって何かを言おうとしている。その背後で、また大きな花火が打ち上がった。


 そこでアレクサンダーの頭に、一つの考えが浮かんだ。それを見つけた瞬間、彼がそれまで感じていた恐れも不安も怒りも何もかもが、すべて吹き飛んだ。代わりにやって来たのは、腹の底からの笑いだった。

 見ていろ、クリスチャン。お前の思い通りにはならない。

「行こう、マギー」

 アレクサンダー・バラードは、つとめて冷静に言った。「すまなかった。待たせたね」

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