黄金の林檎・2a
仮設テントは広大で、何百枚もの鏡が幾列も連ねられ、まばゆい照明で照らされている。そこに着飾った女性たちが群がり、自分のメイクを直してもらう順番を待っている。それをわずかな数のヘアメイクスタッフが手際よくさばいていく。一人のスタッフで何人もを掛け持ちして、大声で怒鳴り合うこともなく、優雅に落ち着いて仕上げていく。
ヘレナが妙子と幸子と一緒にテントへ入っていくと、すぐに案内係が付き添ってくれて、奥の鏡へと連れて行かれた。そこへ歩いていく間、周囲を眺めると、向かい合った鏡の中に大勢のきらびやかな女性たちがはてしなく遠くまで埋め尽くしているように見えた。それを見て妙子は緊張し、幸子は高揚し、ヘレナは構わずノシノシと歩いた。
作業服のような地味なエプロンにたくさんの道具を突っ込んだ、さばさばした雰囲気の気さくなお姉さんが姉妹を担当してくれた。お姉さんはカールした褐色の髪を大きなお団子でまとめていて、そばかすがあり、どこかラテン系の明るさを感じさせた。彼女はヘレナの「どうしてもティアラが落ちてしまうの」という説明を丁寧に聴いたあと、姉妹の頭を一目見るなり、
「まずは髪を結い直しますね」
と言って、妙子と幸子の髪をさっとほぐしてしまった。ヘレナが何時間もかけて苦労してまとめた髪が、ほんの数秒でふりだしに戻った。
お姉さんは姉妹の痛んだ髪にオイルを塗り、まるで魔法のように、一瞬で艶のある黒髪に仕上げた。そこにもう一人の若い助手らしき女の子がやって来て、二人がかりで同時に姉妹の髪をいくつかに分け、分けたものを三つ編みにして、それらをくるくると編みこむと、あっという間にアップにしてしまった。二人のすっきりとしたうなじが露わになって、首の細さと相まって、実に可憐だ。
ティアラの着け方も手際が良かった。ヘレナは参考にしようと、一生懸命首を伸ばしてメイクのお姉さんの手元を観察していたのだが、どこがどう自分のやり方と違うのかまったくわからない。それでもお姉さんがわずかなヘアピンで固定した月桂樹のティアラは、頭を動かしてみてもまったくズレることなく、しっかりと安定して収まったのだった。
「どうですか?」と、お姉さん。
「素晴らしいとしか言いようがないです」
義母・ヘレナは思わず頭のベールを外して敬意を表した。そのせいで髪が乱れた。それを見てお姉さんはつい笑ってしまった。
「あの、よければ、お母さんの髪もお直ししましょうか?」
「そんな時間あるかしら」
「すぐできますから」
「じゃあ、そうしてもらおうかな。妙子、幸子、ちょっと待っててね」
「こちらのお二方はもう少しメイクを修正したほうがよさそうですね」もう一人の女性スタッフが言った。
「なら、そうしてくださいな」とヘレナ。
ヘレナはウキウキした様子で鏡の前に座ると、お姉さんの手にすべてを委ねた。その隣りの妙子と幸子は、ちょっとだけメイクを修正されるのだと思っていたら、いきなりメイク落としで根こそぎ拭き取られてしまって、最初からすべてをやり直された。
その三人とちょうど鏡が向かい合わせになった席に、ある若い女性が座っていた。その女性の名は、エリザベス・エリジェンダといった。実は彼女こそが、このパーティで主役を務めるためにここにやって来たのだった。
エリザベスは長い赤毛をふわりと背中でまとめ、ラメ糸を網の目状に編み込んだ黒いドレスを身にまとっている。すでに準備は万全だ。彼女はここでじっと待つように、ある人物から言われていた。周囲で忙しく立ち働くスタッフや、列をなして自分の番を待つ招待客らが次々と入れ替わる中で、彼女だけが、ここで静かに、動かず、そのときを待っていた。




