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ガラパゴス・ガーディアンズ こちら航空宇宙消防本部第十七小隊  作者: 霧山純
第十四話「たんなる異性の限界内の友情(後編)」
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たんなる異性の限界内の友情(後編)・1a

 ロシアの貨物機クリナスティ号の操縦席には、桃井(ももい)はなが嫌々座らされている。ネビュラのヘッドアップディプレイには逐次変化していく船の状態が表示されているが、自動操縦なので特にやることはない。外は相変わらずの海と空が無限に続いている。マッハ二・七で飛ぶ機体がときどき雲を切り裂くとき以外はほとんど変化がない。


 佐藤(さとう)愛梨紗ありさ夏木(なつき)ユズ、そして三国(みくに)龍之介りゅうのすけは、座席を向かい合わせにしてテーブルを出し、トランプに興じている。華はネビュラ越しにそれに参加し、代わりに小型ロボットアームが札を握っていた。

「ほら、ユズ、さっさと出せ」

 龍之介は余裕の表情で、上向けた手をくいくいと動かし、しきりにユズを煽っている。「お前を倒して大富豪に返り咲いてやる」


 一方のユズも顔だけは負けていない。龍之介を見下すように顎を上げ、目を細めている。誰が見ても腹を立ててしまうように計算され尽くしたような嫌味な表情だ。

「油断すると痛い目見ますよ、龍之介さん」

 ユズが出したのはスペードの五、六、七だ。

「よし」

 と、龍之介はハートの八、九、十を叩きつけた。


「パス」と愛梨紗。

「パス」と操縦席の華。

 ユズは肩をすくめた。

「私もパス」

「よっしゃ!」

 と叫び、龍之介はダイヤのジャック、クイーン、キングを荒い息と共にテーブルに放った。龍之介の手札は残り一枚。

「どうだ?」

 ユズと愛梨紗は顔を見合わせた。口をへの字にして「まいった」の表情。こちらに背を向けている華も両手を頭上でヒラヒラさせて、「まいりました」と言った。


「よし」

 龍之介が颯爽と出した札はクラブの二だった。それがパーンと威勢のいい音を立てて、テーブルに叩きつけられる。

「奇跡だろ? 参ったか、ユズ」

「はい、龍之介さん、反則負けで大貧民です」

「はあ?」

 女子一同大笑いの中、龍之介は大口を開けて固まった。ユズはわざと腹の立つ表情で煽った。


「最強の二で上がったら反則なんですよ。さっきちゃんとルールで説明したでしょ」

「ふざけんな!」

 ユズと愛梨紗は涙が出るほど笑い、操縦席の華も顔を伏せてくっくと肩を震わせている。

 龍之介はテーブルの札をぐちゃぐちゃにかき混ぜた。「もう一回やるぞ」

 ユズは嫌そうに言った。

「山手線ゲームやりましょうよ。龍之介さん、トランプ弱いんだもん」

「うるさい」


 操縦席では華が不平を鳴らしている。

「ねえ、愛梨紗、もう代わってよ」

「しょんなかねえ、ユズ、華と代わってあげんね」

「はいはい、すぐ参りますとも」

 背中を向けたユズを、龍之介は憤然と睨んでいる。操縦席を立った華は、そんな龍之介とまっすぐ目が合ってしまった。たしなめるように、華は言った。

「ダメですよ、龍之介さん。こんなの遊びじゃないですか」

「まあ、そうなんだが……」

「確かにユズに負けると腹が立ちますけど」


 華は、やっと龍之介の隣りに座ることができた。このときをどんなに待ちわびただろう。

「まだ大富豪でいいよな?」

 龍之介は、申し訳なさそうに華に訊いた。

 華はにっこり微笑み、

「ええ、満足いくまでどうぞ」と言った。

 とにかく隣りにいられればなんだっていい。


「ようし」

 と、龍之介がトランプをシャッフルし始めたとき、突然ネビュラにワーグナーの「ワルキューレの騎行」が鳴り響いた。さっき出発前に設定しておいた、花園(はなぞの)早苗さなえ用の呼び出し音だった。

「なんですか早苗さん?」

 メンバー全員にさっと緊張が走った。寮長の早苗は、しのぶと健太郎に万が一のことが起きないよう、龍之介たちにきつく監視を命じている。

「お変わりありませんか? 三国さん、他の皆さんも」

「ええ、こちらはいつもの通りです」


 なぜか「ワルキューレの騎行」の音楽が鳴りやまない。龍之介はネビュラをあれこれ操作してみるが、どうにもならないので、とうとう諦めた。普段使わない機能をあまりいじるものではないな、と龍之介は思った。ユズは音楽に乗せられたのか、操縦席で妙に興奮している。早苗には聞こえているのかどうかわからないが、いつものように冷たい声で彼女は言った。

「もう三時間も音沙汰なしです。逐一報告するように申し付けておいたではありませんか」

「ええ、特に言うこともありませんでしたので」と龍之介。


「千堂さんと山田さんはどうされていますか?」

「一応、さっき出発前にこっそり健太郎とは話をしたんです」

「ほう、なんと?」

「もし、千堂が寝たら、すぐにこちらに知らせをよこせと、そう頼んでおきました」

「それで、知らせはありましたか?」

「いや、ありませんね。きっと話が盛り上がっているんでしょう」


 実は、本当にその通りで、華たちの前方三百海里を飛んでいるイ‐6800(ろくせんはっぴゃく)では、千堂(せんどう)しのぶと山田(やまだ)健太郎けんたろうが会話に花を咲かせていた。

 健太郎はこのときのためにムードのある映画をいくつかピックアップしていて、それをドライブイン・シアターの背景の中で上映しようと用意しておいたのだが、すべては無駄になった。


 しのぶは一度何かに興味を持ち始めると、深く掘り下げないと気がすまないという癖があった。興味を持ち始めるまではものすごく手間と時間がかかるのだが、いったんきっかけをつかんでしまうと、もう止まらないのだ。

「ロジャーさん、もっともっと、子供の頃の話を聞かせてよ」

 健太郎は、まさかこの子、俺の伝記でも書こうと思っているんじゃないだろうな、と疑うくらい、しのぶの好奇心は止まらなかった。


 そんなこんなで、船はいよいよ日本の領海に差し掛かってきた。背後を飛ぶ太陽はさっきよりもかなり後退している。しのぶたちは、太陽の二倍以上の速度で日本に帰ってきたのだった。

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