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ガラパゴス・ガーディアンズ こちら航空宇宙消防本部第十七小隊  作者: 霧山純
第十三話「たんなる異性の限界内の友情(前編)」
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たんなる異性の限界内の友情(前編)・4a

 第十七小隊に割り当てられている格納庫は、宇宙から帰ってきた消防宇宙船やその他の機材で満杯になっていた。機械細胞(マシン・セル)にいったん取り込まれて再生したあらゆる物品を、調査のためにかき集め、ここに保管しているのだ。旧型、新型、司令船、そしてイ‐6800(ろくせんはっぴゃく)が肩をすり合わせるようにして並んでいる。イ‐6800(ろくせんはっぴゃく)の翼は根元と翼の中ほどが折れて小さく畳まれている。健太郎としのぶが歩くと、埃がふわっと舞い上がって、窓から斜めに差す明かりを浮き上がらせた。


「一見何も異常がないように思えても、あの液状化の渦中にあって戻ってきた船は、さすがにそのまま救助活動に使うわけにはいかないらしい」

 健太郎は、旧型の船の鼻づらを優しく撫でた。長い間現場を共にしてきて、あらゆる細部まで知り尽くした、愛着のある船だ。

「解体されちゃうの?」

 しのぶも、まるで自分の身内のことのように胸が痛かった。

「そうだね。そして、解体した後は、長期観察のために保管されるそうだよ」

「イ‐6800(ろくせんはっぴゃく)は?」

「いよいよ博物館行きかな」


 いつもなら大勢いるはずの整備士は、こちらまで人員を割けないほど忙しく働いているので、ここには健太郎としのぶしかいない。健太郎は自分で搭乗用の梯子を運んできて、イ‐6800(ろくせんはっぴゃく)のハッチに固定した。先にしのぶを上がらせた後、健太郎が乗り込み、梯子を遠くに押しやった。

 船の中では相変わらず、あの古臭い匂いが鼻をついて、懐かしい気分になる。


 健太郎が操縦席に着くのを待って、しのぶは言った。

「船を解体して調べる必要があるなら、私たちの身体だって調べなきゃいけないんじゃないのかな」

「あのとき、あの場所にいた全員を調べるのは、手続きやらなんやかやで面倒だから、なしになったらしいよ。クロノ・シティだけでなく、ガラパゴス中にもあの液体が降ったからね。対象者は数百万人だよ」

「そんな適当でいいんだ」

「処理能力の限界というやつだね」


「私たちの身体にも機械細胞(マシン・セル)がいるのかな」

 しのぶは自分の身体を見下ろした。昨夜からいろいろ食べ過ぎて、お腹がぽっこり膨らんでいるのに気づき、急いでフライトジャケットの前を閉めた。

 健太郎はそれを見て見ぬふりして言った。

「もしも、あのときの投票で『排除』が選ばれていたら、俺たちは今頃隔離されていたかもしれないね」

「どっちが良かったんだろう。これから先、私たちはどうなるのかな」

「どんな未来が待っているにせよ、これは自分たちが選んだ未来さ」


 イ‐6800(ろくせんはっぴゃく)はゆっくりと格納庫から外へ出た。ガラパゴスから日本へ飛ぶには、専用の第三滑走路を利用する。誘導灯に従って進みながら、健太郎は管制に離陸許可を求めた。滑走路は二日前とは打って変わって閑散としている。

 健太郎のネビュラ上のヘッドアップディスプレイに離陸許可の文字が出た。同時に管制からの音声も届いた。健太郎はそれに答える。

「ありがとう、こちらアルファ・ワン・セブン、これより離陸する」


 船は、いつ加速したのかわからないくらい静かに動き始めた。景色が動いているのを見て、初めて進んでいるのがわかるくらいスムーズだ。そして、離陸の瞬間もはっきりとわからず、いつの間にか機体が浮き上がっていた。

 しのぶは、あのいつもの座席に背中が押し付けられる感覚がないことに驚いた。

「ロジャーさん、すごく離陸が上手いね。全然わかんなかった」

「それはどうも。長いことこの仕事やっているものでね」


 さすがにベテランパイロットに対して今の感想は失礼だったと、しのぶはちょっと反省した。

「ごめんなさい、うちのおチビちゃんの操縦があまりに乱暴だから、つい比べちゃった」

「操縦のスタイルは人それぞれさ」

 あっという間に機体は高く上がり、辺り一面真っ青な海で覆われた。目指す日本は、太陽を背にした西の方角だ。


 ちょうどその頃、華たちは人工島のロシア区にいた。

「くちゅん!」

 と、愛梨紗は突然くしゃみした。

「なに今の、かわいい……」

 ユズは感激している。華はティッシュを差し出した。

「誰か私の噂しとる」愛梨紗は鼻をかみながらつぶやいた。


 しんがりを歩いていた龍之介が、ロシアの空軍基地の管制塔を見上げた。一切の装飾を排し、ただひたすら機能性だけを追い求めた無骨な建造物が空から威圧してくる。

「佐藤、ここが君の母校かい?」

「そう!」

 愛梨紗はそう返事するなり、駆け出していった。その向こうには、坊主頭の巨漢がグレーのツナギを着て立っていた。


「教官、久しぶり!」

 愛梨紗はロシア語で叫んだ。カガロフスキー飛行教官は、大きく両手を広げ、走ってくる愛梨紗を捕まえると、高々と頭上まで持ち上げた。

「おお、だいぶ重くなったんじゃないか」

「そんなわけないでしょ」


 教官は愛梨紗を肩に座らせた。こうして見ると、教官がまるで巨人のように見える。

「どうも、お初にお目にかかります。三国龍之介と言います」

 龍之介の言葉は、自動的にロシア語に翻訳されて相手のネビュラに伝わる。相手のロシア語はこちらで日本語に翻訳される。龍之介が右手を差し出すと、カガロフスキー教官は大きな手で握り返してきた。

「ミハイル・カガロフスキーです。うちの愛梨紗がお世話になっているそうですね」

「この間の件では、こちらが命を救われました」

「そうですか」

 教官は肩の上の愛梨紗に目を向けた。「そいつはすごいな、愛梨紗」

「えへへ」と愛梨紗は得意気だ。


「さっそくですが、船をお借りしたいのです」

「ええ、あちらに用意してありますよ」

 教官が指し示す方向には、古めかしい、ずんぐりした緑色の貨物機があった。両方の翼の下に丸くて重そうなエンジンがぶら下がっていて、とにかく全体が丸くて、鈍重な印象だ。あれで日本まで飛べるのだろうか。

「申し訳ないが、安全に飛ばせるやつが今のところあれしかないのです」

 絶句している龍之介の前に、愛梨紗が飛び降りてきて、胸を張って言った。

「龍之介さん、なんていう顔ばしとーとね。心配せんでっちゃ、私ならどけん飛行機でも大丈夫とよ」


 さっそく龍之介たちは貨物機に乗り込んだ。操縦席にはもちろん愛梨紗、その隣りにユズ、後ろの席には龍之介と華が並んで座っている。

 窓の外から、カガロフスキー教官が大きな包みを持ち上げて叫んだ。

「愛梨紗、ピロシキ持っていくかい!」

「もちろん!」

 船の中に揚げたての香ばしいピロシキの匂いが充満した。わいわい言っている女子たちに対し、パンケーキを食ったばかりの龍之介は胸が苦しかった。


 間髪入れず貨物機は動き出し、龍之介の身体は座席に強く押さえつけられた。とてつもないエンジンの轟音の中、めちゃくちゃに加速した貨物機は急角度で地上を離れた。さすがに頑丈な機体は壊れなかったが、龍之介は恐ろしくて震えてしまった。


 その手を、華は両手でぎゅっと握りしめた。

「大丈夫ですよ龍之介さん、私がついてます」

「ああ、よろしく頼む」

 華はこのときほど、愛梨紗の操縦の荒さに感謝したことはなかった。

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