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ガラパゴス・ガーディアンズ こちら航空宇宙消防本部第十七小隊  作者: 霧山純
第十三話「たんなる異性の限界内の友情(前編)」
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たんなる異性の限界内の友情(前編)・2a

 何度ノックしても返事がない。

 妙子はドアの前で思案に暮れた。それからもう一度、最後のつもりで一つだけ叩くと、こう言った。

「しのぶさん、朝ごはん作ってあるから、起きたら食べてね」


 台所のほうへ歩いてくる妙子に、華はこっそり訊いた。

「しのぶさん、やっぱり出てこない?」

 妙子はうなずいた。

「昨夜はちょっと元気になったかと思ったんだけど……」


 華とユズはダイニングテーブルの椅子に腰かけている。台所では愛梨紗がパンケーキを焼いている。テーブルにはすでにサラダが大皿で置かれていて、ユズが楽しそうにそこからみんなの分を取り分けている。

 妙子は椅子に座ると、テーブルの上に両手を伸ばしてうなだれた。ポニーテールの髪がぱさりと肩から落ちる。そして、こうつぶやいた。

「どうしたらいいんだろう……」


 愛梨紗がフライ返しを持って、ちらちらと心配そうにこちらを見ている。

 華はものすごい責任を感じて、いたたまれない気持ちでいっぱいだった。鼻歌交じりのユズはともかく、自分の問題で仲間たちまで巻き込んでしまっている。


 神妙な面持ちのみんなを前に、ユズはこう言ってのけた。

「そんな心配しなくたって、時間が解決してくれるって。失恋の一つや二つがなんだってえのさ。世界には龍之介さんの他にも男がいっぱいいるじゃんか」

「そりゃあ、まあ端から見ればそうでしょうよ」

 華はユズの顔を見つめた。「でも、同じチームでこれからやっていかなきゃいけないんだよ……、私、しのぶさんとどんな顔して会えばいいのかわからない。私が何か言うと火に油を注ぎそうだし……」

 ユズは言った。

「お兄ちゃんに相談してみようか?」

「いいの、これ以上他の人を巻き込みたくないし、自分でなんとかしなくっちゃ」と華。


「お休みはまだ一週間あるっちゃけん、ほんなこつユズが言うごつ、焦る必要なかよ。しのぶはそげん弱か人間っちゃなか」

 焼きたてのパンケーキを山ほど抱えた愛梨紗は言った。それをユズが待ってましたと受け取って、みんなに取り分ける。

「周りがじたばたすると、余計しのぶが気をつかうたい? そがんなると逆効果たい。――ばってん……」

 愛梨紗が言いかけて急に発言を止めたので、みんなは一斉に彼女に注目した。愛梨紗の顔がパッと真っ赤になると、両手を振り回して、慌ててこう言った。「私はそげん思うとばってん、でもね、これは一般論だけんね、私の意見じゃなかとよ、よかね? 私の意見っちゃなくて、一般論ばってん、一応は、龍之介さんが責任を取るべきじゃなかかなーと、そげん考え方もあるっちゃなかかなと思うと」


「確かに」ユズは大きくうなずいた。

 今度は華がみんなの注目を浴びる番だった。

 そういえば、地球に帰って消防本部で別れの挨拶をして以来、龍之介とは連絡を取っていない。こういう機会でもなければ自分から話をすることもないだろう。なんだかチャンスなような、不謹慎なような、複雑な気持ちが華の胸に渦巻いた。

「わかりました、ちょっと話してみます」


 フラフラと自室に向かおうとする華に、愛梨紗は呼び掛けた。

「パンケーキ持っていきんしゃい」

 ありがとう、と皿を受け取って、華は個室に入った。


 華は急いで髪を整え、一番きれいで皴のないシャツを着ると、ベッドに腰かけ、周りに見られたら恥ずかしいものがないかどうか確かめ、何度か咳払いして、血色がよくなるように頬を何度かはたき、パンケーキを一口食べ、もう一回咳払いして、髪をもう一度整えてから、ようやくネビュラに接続した。

 呼び出し音が鳴る間、心臓の鼓動がそれよりも大きく聞こえるような気がした。


 けっこう長く待たされてから、龍之介が突然視界に現れた。彼は濡らした髪をタオルで拭いているところだった。起きたばかりのよれよれのTシャツと短パン姿だ。慌てて寝癖を直したのかもしれない、と華は思った。

「ごめんなさい、龍之介さん、急に呼び出したりなんかして……」

「おお、どうした、桃井、疲れは取れたか? 体調に変化はないか?」

「私は大丈夫です。龍之介さんは?」

「俺はいつも通りだよ」

 そこまで言うと言葉に詰まり、二人は吸い込まれるようにお互いを見つめてしまった。


 華は急いで言葉を継いだ。

「あの、実は、しのぶさんのことなんですけど……」

「ああ……」

 龍之介の顔に、はっきりとした陰りが生まれた。「何かあったのか?」

 やっぱり龍之介さんはしのぶさんのことをずっと気に掛けているんだ。そう思うと、華はまだ、しのぶに対してやきもちが残っているのを感じた。


「しのぶさん、昨日からずっと部屋に閉じこもっているんです」

「そうか」

「夜中に一回部屋から出てきて、ご飯は食べたそうなんですけど、今朝もまだ起きてこなくて……」

「そうか、わかった」


 龍之介は握っていたタオルを遠くへ放ると、突然、着ていたしわくちゃのTシャツを脱ぎ捨てた。まぶしいくらいたくましい身体に、新しいTシャツを着て、彼は言った。「今からそっちに行くから、桃井はそこで待っていろ」

「はい!」

 華はしどろもどろに答えた。「わかりました、お待ちしています」

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