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ガラパゴス・ガーディアンズ こちら航空宇宙消防本部第十七小隊  作者: 霧山純
第十二話「私、ずーっとずーっと前から……」(第一部最終話)
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私、ずーっとずーっと前から……・2b

 大急ぎで地球に帰る準備が進められた。第十七小隊が所有する三隻の消防宇宙船に、小山(こやま)三郎さぶろう隊長はそれぞれの任務を割り当てていった。


 まず華たちブラボー・チームが乗る新造の消防宇宙船には、プロメテウス号から移ってきた十人の乗組員を収容し、彼らを宇宙エレベーター上の宇宙都市クロノ・シティに送り届ける。クロノ・シティには数時間前から緊急スクランブルで世界中から救助の船が集まっているので、そのどれかに乗組員たちを乗せ換えて地球まで連れ帰ってもらう。その後のブラボー・チームが次に何をするかは、そのときの状況を見て判断する。


 次に、龍之介たちアルファ・チームが乗る旧式の消防宇宙船は、小山隊長の司令船と行動を共にし、プロメテウス号に付き添ってクロノ・シティを目指す。プロメテウス号にはグレゴリー・ガーンズバック船長と森田和夫が残り、パンドラの指示の元、クロノ・シティへの着船を試みる。プロメテウス号が無事に着船できたら、船長と森田をアルファ・チームが回収し、その後、他の救助船に引き渡す。


 司令船の小山隊長は、パンドラの生みの親であるシェリー・デスティニーの助言を受けながら、プロメテウス号をサポートする。


 いざ任務に取り掛かろうと、龍之介が自分たちの船に戻ろうとしたときに、最後にこっそり残した言葉を、華は一生忘れないだろう。それは龍之介がエアロックのハッチに向かおうとしていたときだった。彼は突然振り返り、見送りについて来ていた華に小声でこう言ったのだ。

「桃井、あのときの約束を守ったんだね。俺はちゃんと覚えていたよ。君ならやると思っていた。俺は嬉しい。こんなに素晴らしいことはない」


 まさか、この慌ただしい最中にそんなことを言われるとは夢にも思っていなかった華は、不意を打たれたように動けなかった。

 それから、龍之介はもう一言付け加えた。

「生きて地球に帰ろう。絶対に死ぬなよ」

「はい」と華は心の底から素直な返事を返した。「龍之介さんも」

 彼はうなずくと、さっと身体をひるがえし、ハッチの向こうに行ってしまった。


 仲間たちが慌ただしく準備に走り回っているときも、華はなんだかフワフワと空に浮かんでいるような気分だった。実際に身体は浮かんでいるわけだが、心はそれ以上に舞い踊っていた。それでいて、自分が今、何をすべきかは意識の一番上でばっちり把握できていて、てきぱきと指示を出すことができた。そのおかげで他のみんなに浮かれていることを悟られずに済んだ。これも訓練の積み重ねの賜物だ。


 プロメテウス号の乗組員の十人は、妙子が面倒を見て、治療室のそれぞれのベッドにベルトで固定して楽な姿勢を取らせた。トイレに行きたくなったら、ベッドに備え付けの吸引ノズルで自分で処理する。救命医の妙子は隣りの部屋に控えていて、そこから患者をモニターし、何かがあったらすぐに駆け付けられるようにする。


 パイロットの愛梨紗は操縦席に座り、操作パネルを一通り触ってみた。最初のうちは電磁バリアによる電波妨害のせいで、外からの情報がまったく入ってこない状態だった。船のほとんどの機能が休眠状態になっていた。それがいろいろといじっているうちに、急にすべてが起動し始めた。薄暗かった船内が、いろんな光で彩り鮮やかになった。

「電磁バリアが解除されたごたーね」


「やったあ!」

 と、ユズがやっと自分の仕事を返してもらえたとばかりに、大喜びで通信士の席に飛び込んだ。宇宙中の情報が怒涛のように押し寄せてくる。渋滞を起こしている情報を整理して、処理能力の手助けをするのも通信士のユズの大事な仕事だ。そうすることで船のコンピューターが処理能力不足でシステムダウンするのを防ぐのだ。


 しのぶも急いで飛んできた。

「ユズ、レーダーの情報を最優先にちょうだい」

「オーケー」

 しのぶは、愛梨紗のすぐ隣りの座席に腰かけた。ベルトで身体を固定し、船の状態をチェックする。レーダーには、プロメテウス号と三隻の消防宇宙船を中心に、球状に取り囲んでいる日米のフリゲート艦隊が映し出された。ぎっしりと隙間なく密集していた艦隊が、松ぼっくりが開くように動き出しているのがわかった。プロメテウス号が地球に向かう針路を譲るために、艦隊が横に広がっているのだ。艦隊の隙間から巨大な地球が姿を現し、真っ暗だった宇宙がどんどん明るくなっていく。


 規則正しく動いているそれらの艦船のうちの一つが、妙な動きを見せていることに、しのぶは気づいた。全体が一糸乱れぬ動きだったからこそ、たった一隻のその奇妙さが異常に際立っていた。

「なんか一隻、フラフラしているね。華、ちょっと見てくれる?」


 華もレーダーに飛びつき、その奇妙な一隻の動きを目で追っていった。プロメテウス号が地球に向けて進もうとする、まさにその針路上に、その奇妙な一隻がジグザグに接近していた。このままだと向こうから逆行してくる形になる。

「アメリカの大型フリゲート艦だ」と、しのぶが補足した。


 華は、すぐにアルファ・チームに連絡を取った。

「龍之介さん、アメリカのフリゲート艦が来ているのが見えますか?」

 龍之介はすぐに返事を寄こした。

「君もやっぱり変だと思うか? 今、隊長が確認を取っているところだ」


 華は風防ガラスから外の宇宙を見た。目の前に出現している大きな地球の真ん中に、こちらを目指して飛んでくる真っ黒な船影が見える。とんでもない速度だ。彼らの目標は、やはりプロメテウス号なのだろうか。


 そのとき龍之介から通信が入った。

「ブラボー・チーム、ただちに磁気シールドを展開しろ。デブリとの衝突に備えるんだ」

「了解!」

 しのぶが磁気シールドを起動した途端、すべての通信が途絶え、船の中が再び真っ暗になった。艦隊の隙間から覗く、地球の青い光だけが唯一の明かりだった。

 次の瞬間、目の前で大きな爆発が起きて、視界が真っ白になった。

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