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ガラパゴス・ガーディアンズ  作者: 霧山純
第十二話「私、ずーっとずーっと前から……」(第一部最終話)
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私、ずーっとずーっと前から……・2a

 派手な映像がネビュラに映し出されていく。

 カウントダウンの真っ赤な数字がゼロになると、それが突然はじけ飛び、広がった欠片が集まってきて、大きな回転する地球に変わった。「集計中(カウンティング)」の文字が大きく表示され、その回転する地球の周りをカメラがせわしなく飛び回る。


 地球上に白い光の粒が現れ始めた。それはあっという間に数を増し、たちまち地上を覆い尽くしていく。ユーラシア大陸、アメリカ大陸、アフリカ大陸、オーストラリア大陸、南極や大洋の島々、それから宇宙へ飛んで、地球の低軌道上、月とのラグランジュ点、月、金星、水星、火星、小惑星帯、木星と各衛星、そして、もっとも遠い土星まで、光の粒が現れ、広がっていった。それらは、地球と宇宙に暮らすおよそ百億の人々が投票を終えたことを意味していた。


 次に、その白い光の粒が、地球のある一点を目指して集まり始めた。

 白い光が集まっていく先は、今もっとも世界の中心にあると言うにふさわしい、宇宙エレベーターのあるガラパゴス人工群島だった。そこには国連の本部があり、さっき演説を行ったガブリエル国連事務総長もそこにいる。


 宇宙エレベーターの地上港のある島に向かって、白い光の粒が結集し、辿り着いたものから順に、二つの色に分かれていった。

 青い文字で「共存(インクルージョン)」、赤い文字で「排除(エクスクルージョン)」と表示され、それぞれの票を意味する色付きのブロックが、宇宙エレベーターに沿って二つの塔を築いていく。


 それはほとんど同じくらいの勢いで積み重なっていった。ときに一方がもう片方を引き離したかと思うと、今度は逆のほうが優勢になって、もう一方よりも高く積み上がったりする。そうやってほとんど互角の勢いで票が集まっていった。


 世界中から飛来する白い光の粒のすべてがガラパゴスに集結し、いよいよ結果が出るかと思われたときにも、青い塔と赤い塔はほとんど同じ高さに見えた。雲の上まで伸び、大気の層を抜けて黒い宇宙まで出ても、その二つはほとんど差がなかった。

 しかし、カメラが寄っていくと、ほんのわずかだが、片方が多く票を取っていることがわかった。


 青い塔のほうが高かった。五十一パーセント対四十九パーセントで開票が終わった。

 「共存(インクルージョン)」の青い文字が視野いっぱいに広がり、もう一方の「排除(エクスクルージョン)」の赤い文字を粉々に打ち砕いた。


 大きく息を吐いて、華はネビュラから意識を離した。他のみんなも同じく我に返った様子だった。おのおの複雑な顔をしていた。笑っていいのか泣いていいのかわからなかった。その両方を一緒くたにしたような表情だった。ただ、一つ確実にわかっていることは、これから先の自分たちは、これまでとは違う世界を生きることになるということだ。もう過去には戻れない。


 プロメテウス号の乗組員たちもなんとも言えない表情でお互いを見合った。ニヤニヤしたり肩をすくめたり、深刻な顔をしたり無表情だったりと様々だ。

「私たちがその渦中のど真ん中にいるってことが、不思議な巡り合わせに思えて、なんだか神にでも祈りたいような気持ちだよ」

 白衣のトリー・ランスは、両手を組んで目を閉じ、こうべを垂れた。


 龍之介は第十七小隊のみんなを見回し、じっくり言葉を選びながら、こう言った。

「開票の結果がどちらだったとしても、これから俺たちが忙しくなることに変わりはない。パンドラが地球に到達したときに何が起こるのか想像もつかないが、最悪の事態を想定しておくべきだろう。もしかしたら投票の結果を無視して軍が排除に動く可能性もあるかもしれない。もしもパンドラが排除されれば、今度は癌化した機械細胞(マシン・セル)による崩壊が始まる。いずれにせよ、俺たちに休息の(いとま)はない」


 それから龍之介はブラボー・チームのリーダーである華に向き合った。華は胸がどきりとした。

「桃井、わざわざここまでやって来たのだから、十分覚悟はできていると思うが、もう少しだけがんばってくれ。現場の判断はお前が自分で考えて、仲間たちを指揮するんだ。これから起こることは、おそらく、誰も訓練でも実践でも経験したことのないものになるだろう。お前の責任で、チームを動かせ」

 華は、龍之介の気迫に負けないように強く見返して答えた。

「わかりました」


 外が明るくなってきた。プロメテウス号を球状に囲っていた軍艦たちが道を開けて、その向こうから大きな地球が見えてきたのだ。

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