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ガラパゴス・ガーディアンズ こちら航空宇宙消防本部第十七小隊  作者: 霧山純
第十二話「私、ずーっとずーっと前から……」(第一部最終話)
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私、ずーっとずーっと前から……・1a

 エクアドル出身の国連事務総長、マリオ・ホエズ・ガブリエルは壇上に上がり、ロマンスグレーの髪と口髭を整え、カメラの前に立った。最初、眼鏡を掛けて原稿に何度も目を走らせていたが、何かを思ったのか首を横に振ると、眼鏡を外し、原稿も脇に押しやって、カメラにまっすぐな目を向けた。


「世界中の皆さん、おそらくそれぞれの政府からのお知らせに従って、安全な場所に避難されていることと思います。まだ避難がお済みでない方、あるいは避難できていない方をご存じの方は、どうか安全な場所への退避をお急ぎになり、また、お互いに退避を呼び掛けてください。


 私は、みなさんよりはいくらか多くの情報を得られてはいますが、つい数時間前まではほとんど何も知らされないままでおりました。それからわずかな時間の間に世界各国の首脳との話し合いを重ね、一つの結論に至ったことをみなさんにお話ししなければなりません。


 ……その前に、今、私たちがどのような状況にあるのかをご説明いたします。

 ここで特定の誰かを非難したり、罪を問うたりするのはふさわしくないことのように思われますが、変に隠し立てをするつもりはありませんので申し上げますと、みなさんも当然ご存じの世界的大企業ソラリ・スペースライン・グループによって生み出された、ある発明品によって、地球は大変な状況におかれているということなのです。


 その発明品は何かと申しますと、おそらくその名が公にされるのはこれが初めてのことになろうかと思いますが、『機械細胞(マシン・セル)』というものです。その名の通り、機械と生きた細胞の両方の機能を兼ね備えた新しい生命体と呼べるものです。


 その生命体は南極の研究所において、ハース博士とブラックスミス教授の二人の科学者の指揮の元、研究と実験が重ねられ、ある程度の完成を見ました。それは二〇六四年の八月ごろのことです。


 この発明の画期的なところは、この生命体はすべてにおいて自律性を持っているということです。エネルギー、空気、土、水、生きた身体、そして知性までもをすべて自分たちだけで作り出せるのです。恐るべきはその知性です。機械細胞(マシン・セル)の知性は、とても強い好奇心と粘り強い探求心を持ち合わせていて、われわれ人間ですら想像できないような新しいものを自ら作り出すことができます。完全に人間の代わりとなる可能性があるわけです。ここは強調しておいてよいと思われますので繰り返しますが、彼らは人間を超えた存在となる可能性があります。


 サイエンス・フィクションで何度も語られてきた状況に、今私たちは置かれています。人類は機械細胞(マシン・セル)に取って代わられ、地球を追われる身となるかもしれません。

 そうなる前に彼らを滅ぼしてしまえばすべてが解決するという考え方はもっともです。


 しかし……、他にも選択肢はあるかもしれません。物事には表と裏があり、見方を変えればまったく違う見え方があるものです。もしかしたら、われわれ人類の知性には限界があって、現状を維持するだけでは地球は滅亡へただ突き進むだけかもしれない。そういう考え方もまたあり得るわけです。


 機械細胞(マシン・セル)は宇宙の果てから地球侵略を企む存在によってもたらされたものではありません。私たちと同じ人間の手によって作り出されたものです。それが営利企業による金儲けを目的とした発明であったとしても、これまでの人類の歴史を振り返ってみれば、新しいものというのは常に人間が利益を追求したことによって生み出されてきました。利益を追求することが悪という考えもあるかと思いますが、それが善だという考え方もまたあるわけです。

 機械細胞(マシン・セル)が私たちの生み出した子供であるとするなら、私たち人間はやがて死にゆく古い世代だとみなすこともできるかもしれません。


 ここでみなさんには考えていただきたいのです。このような大事な選択をこんな短い説明を聞いただけで決めるのは無理だという意見はもっともです。しかし、それを選択しなければなりません。今、ここで、地球と、宇宙に暮らすすべての人々に、どちらの未来を選ぶかを決めていただきます。


 機械細胞(マシン・セル)と共に暮らし、やがてそれに取って代わられる可能性のある道を選ぶか、あるいは、機械細胞(マシン・セル)を滅ぼし、今後同様の発明が行われることを厳しく禁止し、人間が新しい知性に取って代わられる可能性を完全に排除する道を選ぶか、どちらかを選択してください。


 あなたが接続しているネビュラから投票できます。一人一票、地球と、宇宙に暮らす、およそ百億人のすべての方に投票権があります。ネビュラに繋がれていない方や、その年齢に達していない子供たちは、近くにいるネビュラに接続可能な人にIDを告げてください。それで投票が可能になります。

 これから十分後に投票を締め切りますので、それまでに投票を済ませてください。時間を過ぎた票は無効となりますので、しっかり考えた後、速やかな投票をお願いいたします。

 それでは、十分後にまたお会いしましょう」


 国連事務総長、マリオ・ホエズ・ガブリエルの話は終わった。

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