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プロメテウスの火・4b

 アルファ・チームの五人は、治療室に隣接する小部屋で食事に入った。携帯糧食パックの包みを開けて、おのおの大急ぎで掻き込んでいる。


 治療室に寝かされている八人のプロメテウス号の乗組員たちには、華たちが点滴を打ってあげている。華、妙子、ユズが入れ代わり立ち代わり様子を見たり、話を聞いたりしてあげている。

 解毒剤のカクテルが効いてきたのか、三人目に解放された重篤な要救助者の顔色がよくなり、話ができるほどに回復した。妙子は彼のチューブを喉から抜き取った。


「何がどうなっているのか、さっぱりわからないが」

 と、彼は横たわったまま呟いた。その乗組員は黒人で白衣を着ており、船では二番目の地位にあって、名をトリー・ランスといった。「あなたたちの様子から見ると、きっと私たちのせいで大変なことが起きているのだろうね」

「あなたたちのせいではありませんよ。誰のせいでもないんです」

 妙子は彼の顔の汗を優しく拭き取った。

「船長は今、どうしている?」

「ガーンズバック船長は、プロメテウス号のコントロール室にいらっしゃいますよ」

「そうか……」

 トリーは安心したように一息ついて、天井を見つめた。「彼なら最後まで梃子でも動かないだろうな」


 華はネビュラで時計を見ながら、刻々と迫ってくる最後のときのことを考えていた。

 プロメテウス号が地球に到達するまで残された時間はあと三十分しかない。ガーンズバック船長と最初に再生した森田和夫、それに十分おきに解放された八人を加えると、まだバラバラのまま船と一体になってしまっている乗組員は二人だけだ。その二人を十分ごとに助けた後に残される時間は十分にも満たない。そのわずかな時間で安全な距離まで脱出できる可能性はどのくらいだろうかと、計算してみると、とてもうまくいく気がしない。今いる乗組員だけを先に脱出させることは、パンドラが許可しなかった。全員が解放されるまで、消防宇宙船はこの場所から離れられないのだ。


 そんなことを考えているところに、ネビュラを通してしのぶからの通信が入った。

「そろそろ次の要救助者が現れる時間のはずなんだけど、センサーの動きがまったくないんだよね」

 数時間前のアバター訓練のときに森田和夫がバラバラの状態から一つの身体に再生されたときには、センサーにもはっきりとその動きが映し出されていた。ところが今回はそれがまったく見られない。

「欠片のままじゃ助けられないじゃんか」

 しのぶがイライラしたように独り言を言った。

「どげんしたらよかとかね」と、一緒にいる愛梨紗も困っている。


 華は龍之介に訊いてみようと思い、隣りの小部屋に向かった。

「あの、龍之介さん、要救助者が時間通りに解放されないみたいなんです」

 華がドアを開けたときには、もう全員食べ終わってゴミを屑籠に放り込んでいるところだった。男たち五人は、華の知らせを聞いて、一瞬無表情で固まった。

「どういうことだろう?」

 最初に口を利いたのはロジャーこと健太郎だった。

「人質を最後まで残そうという計算なんじゃないだろうか」

 と、源吾は言った。「取引相手が信用できない場合には、俺だったらそうする」

「でも、それだと地球に着くまでに間に合わないよ」と守。


 龍之介は言った。

「地球に辿り着くまでに乗組員が全員解放されないときには、プロメテウス号は撃墜される。そういう約束だ」

「隊長は何をやっているんだ?」

 コウジが誰へともなく尋ねると、守がそれに答えた。

「世界の首脳との会議に出席しているよ」

「隊長も偉くなったもんだな」

 と、源吾が素直に反応すると、男たちは同時に吹きだした。なぜかこんなときに笑いが込み上げてしまう。


 守は言った。

「シェリーさんが司令船に乗っているから、彼女を受け入れた時点で隊長も俺たちも立派な当事者なんだよ。話し合いに参加する権利がある」

「私たちもですか?」

 と、華は思わず訊いた。

 それには龍之介が答えた。

「そうだ。これはすべての人間が関わる問題なんだ。俺たち自身がその道を選ばなければならない」


 そのとき、空中にスクリーンが現れ、小山隊長の姿が映し出された。その隣りにはシェリー・デスティニーもいる。

 隊長は言った。

「諸君、これから国連事務総長の演説がある。特別回線でわれわれも話が聞けるようだから、お互い声を掛け合って、しっかり耳を傾けてほしい。乗組員の人たちにも聞いてもらいなさい。事務総長の話の後に投票が行われる予定だ。プロメテウスの火を受け入れるか否か、それを選択する投票だ。じっくり考えて、それぞれの意志で決めたまえ」

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