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パンドラ・3b

 新しいテクノロジーが生まれれば、それがまず軍事に利用されるのは歴史の常だ。毒ガス、ダイナマイト、飛行機、そして原子力など、実用化されてほんの数年後には、それが戦争で使われたりする。

 機械細胞(マシン・セル)も例外ではなかった。この商機を逃すことがあってはならない。英国人であるクリスチャン・バラードは、同盟関係にあるアメリカとの交渉を即座に開始した。


 地球の軌道上には、地上の都市を一瞬で破壊できる威力を持った兵器が無数に浮遊しており、それは極秘裏に運用されている。かつて愛梨紗(ありさ)の祖母が命をかけて守ることになった、かのレーザー兵器の子孫たちも、多くの批判を浴びながら、いまだに存続している。


 宇宙兵器を維持するには莫大な費用が掛かるため、実際の戦争における実用性にはいくらか疑わしい面があった。単なる威嚇の道具として使われていて、その威力は大したものではないと、軍事に詳しい者たちほど、宇宙兵器を侮る傾向があった。


 機械細胞(マシン・セル)がそこで応用されれば、世界の軍事バランスは大きく崩れるだろう。かつて第三次世界大戦一歩手前まで緊張が高まった時代があった。ライバル国の中国とロシアがそのことを知ったならば、再び世界は――今度は宇宙までその規模を広げて――破壊と恐怖へ突き進むことになるだろう。


 だが、たとえ危険が多くあろうとも、軍事的優位性は常に確保されなければならない。機械細胞(マシン・セル)を軍事に用いることを大前提として、その秘密をいかにして守り通すか、そのことについてイギリスとアメリカの政府は何度も協議を重ねた。


 そうやって軍事面で機械細胞(マシン・セル)の販路を広げるのと同時に、クリスチャン・バラードは民間での利用も推し進めていった。

 彼はスペースコロニーを所有する企業を次々と買収していった。かなり汚い方法を使った乗っ取りも行なった。ターゲットとなる企業が不正を働かざるを得ないように追い込み、その弱みに付け込んで主導権を握るというやり方だ。クロフォード・ラグランジュ・リゾートのような一部の大きな企業だけがわずかに抵抗できた他は、ほとんどの弱小企業がソラリ・スペースライン・グループに吸収されていった。

 そうして手に入れたスペースコロニーで使われる重力発生装置(ムーブメント)はことごとく機械細胞(マシン・セル)に置き換えられた。それによって、維持費用はけた違いに圧縮された。多くの資材と労働者が不要になった。費用対効果は圧倒的だった。


 そして、世界が共同所有するガラパゴスの宇宙エレベーターにも、機械細胞(マシン・セル)は秘かに浸透していった。三万六千キロメートルに浮かぶ宇宙都市クロノ・シティを時計のように動かしているムーブメントは、定期メンテナンスのタイミングを迎えたものから順に「生きた部品」へと交換された。


 それはほんの二年の間に一気に進められたのだ。


 秘密さえ守られていれば、何の問題もなかった。ソラリ・スペースライン・グループは、グラス・リング崩壊から始まった危機を劇的に乗り越えた。一時は世間を騒がせた暴露集団ヘラクレスさえも見事に欺いた。誰一人として、外部の人間で、この安価で修理の手間のかからない部品が生命を持っているなどと見破ることはできなかった。そのくらいシェリーたちの仕事は巧妙だった。


 従順な(ザット)の弟であるミカエルは、人間の命令に常に忠実に、けっして逆らうことなく従った。人間の命令に従う分には、自主性はまったく必要なかった。新しい発見をするためには姉のパンドラがどうしても必要だが、彼女の好奇心は絶対に外には出せないので、工場の中で出荷前にすべて切り離して処分してしまった。


 ところが、パンドラの好奇心は、メンテナンスにおいても必要となることが、実用化されてから二年後に、初めて明らかになった。宇宙の各地で機械細胞(マシン・セル)が普及してしまった今頃になって、その問題が姿を現した。

 ミカエルは、姉から切り離されて単独で細胞分裂を繰り返すと、それが一定回数に達したところで、すべての個体で例外なく、癌化するのだ。

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