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ガラパゴス・ガーディアンズ  作者: 霧山純
第四十一話「王の帰還(後編)」
299/340

王の帰還(後編)・4a

「目を開けてください、龍之介さん」

 ユズの明るい声が耳に突き刺さったので、龍之介は嫌々ながら目を開けた。すると、ソファーの前のテーブルに得体の知れない機械類が山と積まれているのが目に入った。ゴムが劣化したようなべたべたのコードが絡まり合う中に、やたらに大げさなプラスチックの筐体が積み重なっていて、それらがかなりの年数を経て黄色く変色している。その真ん中でひときわ目を引くのは、幅一メートルはあろうかという巨体を横たえている怪しげなブラウン管テレビだ。


「まさか、この変なテレビにコウジが登場するのか?」

「そうですよ」

 と、ガラクタの向こうからユズがぴょんと跳ねて現れた。「こいつは龍之介さんも見覚えがあるんじゃないですか? エウロパのテクノロジーを結集した、超光速通信装置です」


 確かに龍之介も、かつてこれを木星の衛星イオで使わせてもらったことがある。向こうの人たち(エウロパ人)はこういう古臭い道具を妙にありがたがる傾向があって、わざわざ百年前の地球で使われていたようなガラクタに最新の技術の結晶を詰め込むのがお洒落だと思っているようなのだ。スチーム・パンクならぬ、昭和パンクのノリだ。


 一方、キッチンのほうでは、華と愛梨紗がバタバタとアイスの支度に走り回っている。娘を背負っている華が、リビングのほうにひょっこり顔をのぞかせた。

「ねえ、ユズ、アイスを掬うやつある?」

「丸いやつ?」とユズ。

「そうそう、掬ったやつをそのままカポッと乗せるやつ。アイスクリーム屋さんにあるやつだよ」華は手元でかちゃかちゃとその動きをやってみせた。

「確か、シンクの下の扉を開けたところのどこかにぶら下がってるはずだよ」

「わかった、サンキュー」

 知りたいことがわかった華は、あっさりとキッチンへ戻っていった。


 それを見ていた龍之介は、拍子抜けしたようにつぶやいた。

「あいつら、タイムトラベルがどうとか、まったく興味がないみたいだな」

「まあ、それが現代人の普通の反応ですよ。私が冗談を言っていると思ってるんです」

「それはお前の日頃の行いだな」

「こう見えて、私はいつも本当のことしか言ってないんだけどなあ」

 ユズは諦めて肩をすくめると、龍之介の前に手を伸ばして、テレビのスイッチをパチッと押した。押しただけでは、まだテレビは明るくならない。もうしばらく待たないと、はっきり見えるようにならないのだ。


 龍之介はふと、テレビの右上隅に赤いランプが灯っていることに気づいた。その下に赤いシールが貼られていて、「緊急事態発生ランプ」と書かれている。

「おい、ユズ、緊急事態発生ランプが灯ってるぞ」

 ユズは上から覗き込むと、「あら」と言った。

「コウジの身に何か起きているんじゃないか? 早く応答したほうがいいぞ」

「大丈夫ですよ。こっちはいつでも都合のいいときに出ればいいんです。どうせ時空はまだ繋がっていないんですから」


「どういうこっちゃ?」

「こっちが応答すると、向こうと時間が同期するんです。私がこのランプを何日も何か月も放置しようが、出た瞬間が、向こうが緊急事態を知らせたちょうどその時間になるんですよ」

「なるほど、でも、とりあえず出てみたらどうだ?」

「赤ちゃんたちが生まれてからじゃダメですか?」

「いいから、見せてみろ」

 龍之介はじれったくなって、ユズが本当は自分を騙しているのではないかと疑い始めた。


「どんな面倒事に巻き込まれても知りませんよ」と、ユズは急にもったいぶるようなことを言った。

「あいつの話を聞いてから、先のことを決めればいいだろう?」

「それが無理なんですよ。一度時空が繋がってしまうと、向こうとこちらで同じ時間が流れるようになっちゃうんです。向こうの一分がこちらの一分になって、本当の緊急事態になっちゃいますよ」

「まあ、いいから、やってみろ」

「じゃあ、龍之介さんが責任取ってくださいね」

「どうせお前たちの責任はリーダーの俺が取るんだから、同じことだ」

「じゃあ、本当に繋げちゃいますよ」

「ようし、やれ」


 ユズは龍之介の隣りに来ると、ソファーに腰かけて、ぐいぐいとお尻をずらしてきた。

「龍之介さん、ちょっとそっちにずれてください」

 龍之介が横にずれ、ユズがぴったりくっつくように並んだ。それから、ユズは大型ブラウン管テレビの緊急事態発生ランプの下のボタンに手を伸ばした。


「ぽちっとな」

 その瞬間、画面がぱっと明るくなった。

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