ヒーローとヴィラン・2a
ルドルフ・カーペンターとポルクス・ファーマーは救助船で治療を受けながら、捜査機関からの事情聴取を受けた。
ジェイコブ・ハンターとその仲間たち――当時はルドルフもその一人だったが――がどのようにして集まり、何がきっかけで過激な方向に進み、そして、あの運命の分かれ目となったスティーブンの処刑がどのように行われたかまで、あらゆる詳細が明らかになった。
その数百ページに及ぶ報告書が、オデュッセウス号に乗り組む各国の軍・警察・消防へと速やかに共有された。
第一次掃討作戦の後、カリストの地上に残った占領部隊以外の遠征参加者たちは、いったんオデュッセウス号に帰艦した。
第十七小隊の十人の隊員たちと、小山三郎隊長、芹口加奈子主任ら全員が顔を合わせて、オデュッセウス号の会議室でのブリーフィングが行われた。大きな円卓を囲んで十二人が腰掛け、上座には隊長と主任が並んだ。円卓の中心にはカリストの立体モデルが回転しながら浮かんでいる。
小山隊長はこれに先立ち、隊長クラス以上の代表者たちを集めた会議で、これから行われる作戦について話し合ってきたばかりだ。
「ジェイコブ・ハンター一味の幹部は元々は十二名いたが、スティーブン・サイモンが殺害されたために、現在は十一名とされている。空爆によってそのうちの何名が生き残ったのかは、現在調査中だ。おそらく幹部全員が生存していると推測される。蜂起に参加した作業員は、木星全体の労働者のおよそ三割にあたる一万二千名から一万五千名とされているが、そのうちの数百名は今回のルドルフ・カーペンターとポルクス・ファーマーの例のように、地上施設に監禁されて空爆の犠牲になったとみられる。彼らの間に大きな意見の相違があったことが複数の証言によって確認されている。ジェイコブ・ハンターの考えと対立し、最後まで意見を曲げなかった者たちは、そのほとんどが粛清されてしまったというわけだ」
「その意見の相違とは、なんでしょうか?」
じれったくなった龍之介が、説明の途中で口を挟んだ。「すいません、差し出がましいようで……」
小山隊長は、むしろ申し訳なさそうに答えた。
「すまん、もったいぶった言い方をした俺も悪かった。まず先にこれをお前たちに言っておかなければならなかった。奴らの動機は、『エウロパの高度な知能を持つ豊かな生物圏を地球人の侵略から守ること』だ。ジェイコブ・ハンターは、その考えを反乱のスローガンとして掲げ、一万五千名近くの仲間を動かしたわけだ。ただし、エウロパの開発を主宰するソラリ・スペースライン・グループは、高度な知性を持つ生物圏の存在などデマだと主張している。これは反乱を扇動するためにジェイコブが流したでっちあげだという話だ」
今度は龍之介も遠慮なく訊いた。
「なぜ、それが全労働者の三割をも反乱に向かわせる理由になったのでしょうか?」
「それはもう、あのクリスチャン・バラードとかいう男のこれまでのやり口を見れば一目瞭然だろう」
小山隊長自身も、かつてグラス・リングの事故でクリスチャンの狡猾さにひどい目に遭わされた苦い経験があった。「あの男は、自分の思い通りに事を運ぶためには嘘をつくことも人を裏切ることも平気でやってのける。そんな人間がどんなに機械細胞は人類の未来に必要なものだと訴えたとしても、それをまるっきり信じることなんてできやしない。それと同じ口が、エウロパには生命の痕跡はまったくないと言ったって、それが嘘でないという保証はまるでない。つまり、クリスチャン・バラードがエウロパについて嘘をついているというなんらかの証拠をジェイコブ・ハンターがつかんだとするならば、地球に降り注いだ機械細胞に関しても何か重大な秘密を隠しているという、大いなる疑惑を抱かざるを得なくなるという寸法だ。このさいクリスチャン・バラードの悪行をつまびらかにして、それにまんまと騙されている一般庶民の目を覚まさせようというのが、足場を作る者たちの反乱の一番の目的ということらしい」
隊員たちはざわめいた。お互いに考えを言い合う彼らが気がすむのを、隊長はじっと耳を傾けて待った。
健太郎は隣りに座るしのぶに、そっとこんなことを言った。
「しのぶ君、エウロパに知性を持った生命体が住んでいるという話が、昔の小説にあったのを知っているかい? 映画にもなったんだけど」
「知らない」しのぶは素直に首を横に振った。
「アーサー・C・クラークの『2010年宇宙の旅』という小説なんだ。そこでは、異星人が進化させた知的生命体がエウロパに住んでいて、地球人がそこに接近するのを禁止するというエピソードが描かれている」
「へえ」
「ついに現実が小説に追いついたのかと思うとゾクゾクするね。しかも今回は、彼らは異星人の力によってじゃなく、独自の進化で知性を持つようになったという話のようだからね」
「それって私らにとってみたら、すごく怖いことじゃん」
「そうとも、人間同士で争っている場合じゃない」
「それでは、明日の作戦について説明するぞ」
小山隊長はざわめきが治まるのを待ってから、さっきの会議で決まった作戦を話し始めた。




