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あくる日の午前中、ぼくの案内で刑事さんはおばあちゃんの家にやってきた。
自信たっぷりに言った通り、刑事さんはなんか細長い金属の棒を何本も使って、裏口のドアの鍵を難なく開けた。
すごー! とぼくが感心している間に、刑事さんはビニール袋で革靴を覆い、白い手袋を嵌めた手で、ドアノブをそっと回した。
「さて、と。ねえクロ。この家の中に、自称ミカコさんが確実に素手で触ったものって何かあるかなあ?」
ミカコ(仮)が触ったもの? 何だろう。少なくとも、ぼくのご飯の器には絶対さわってないだろな。
あ、あれ、ゴミの日に捨てられちゃったんだっけ(*´;ェ;`*)
ぼくは家の中をうろうろと歩き回った。あいつが使ってそうなもの。テレビのリモコン。トイレのドアノブ。居間のテーブル。電話機。
そうだ! あの長方形の板!
あの女は、長方形の板を何枚も持ってた。ピンク色の奴と白いのと、黒いの。
あの日、僕が家を追い出される前にも、ベンゴシとセーシンカがおばあちゃんを難しい話でいじめてたときに、部屋の隅っこで三色の板を順ぐりにいじって一人でおしゃべりしてたのを見た。
あれのどれかが家にあれば……。
あった! 和室の丸テーブルの上にピンク色のが置いてあった。
「おーっ、スマホかあ。これ、自称ミカコさんのスマホでビンゴ?」
そうだよ! 他にも二つ持ってたよ!
「へえー、スマホ複数台所持か。ますますあやしい。外部に持ち出してないところ見ると、知られたらヤバイ連絡先がいっぱい詰まってるパターンかなー?」
刑事さんは、スマホというピンク色の板をいじってなにやら面白そうにニヤニヤしていた。
手袋をはめた手で表面をいじっては、「パスワード……ふふん、解除、っと」とか呟いてまたにっこり。
それから自分のポケットから銀色の「スマホ」を取り出して誰かとお喋り。
「あ、トシさん? お疲れ様っすー。筒井です。ちょっと、本店のデータベースで検索かけてもらいたいネタがありまして。至急そっち送りますんで確認よろしくっす。はい、はーい、どもー」
それからセロテープみたいなのをぺたぺたとミカコ(仮)のスマホの裏に張り付けたりはがしたりなんかして、ちまちまと変な作業を終わらせ、ピンクのスマホを元の位置に戻した。
不安でじっと彼のやることを見つめていると、刑事さんはぼくに笑いかけ、頭をそっと撫でてくれた。
「クロ、お手柄だよー。だいじょうぶ。おばあさんはすぐに家に帰ってくるよ」
ぼくはその言葉を聞いて、嬉しくなってしっぽをぴーんと立てた。