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動物の言葉がわかるおまわりさん。性格にいうとケイジさんは、それから三日後の夕方にぼくがねぐらにしているお寺に現われた。
どんな人間か、もしかしてすごいスーパーマンみたいなひとかと期待していたけど、実際の刑事さんはぜんぜんふつーの人だった。
ふつうというより、どっちかというとあんまりパッとしない外見だ。背は高くないし、かっこよくもない。
でも、ぼくを見る目はものすごく優しかった。声も優しい。野良猫がふらっと寄っていきたくなるタイプかも。
「へえー、それは大変だったねえ」
刑事さんは、ふつうに人間の言葉を喋る。僕らネコは人間の言葉を聞き取れるから。
問題は、僕らの猫語を本当にこの人が理解できるかどうか、ということなんだけれど。
「ふんふん、なるほど。そういうことかー。だから君は、その人が偽物だって思ったんだね」
びっくりだ。ぼくが何か喋る前に、刑事さんはぼくが考えていることを読み取ってしまう。
しかも、内容は間違ってない。ちゃんと通じてる! 会話じゃないけど。
どうやらこの刑事さん。動物の言葉が分かるというより、相手の生き物が考えていることがダイレクトに分かるようだった。
ぼくは刑事さんの横に座ってじっと彼の顔を見つめる。すると、刑事さんはぼくが言わんとしている意識を的確に読み取る。そうとしか説明できない。
「でも、医者や弁護士はその女の人のことをおばあさんの本当の親族だと認識してるんだよね。奇妙な話だ。ふーむ」
刑事さんは、ちょっと伸びて寝癖のついた髪をがりがりと片手でかき回した。
お風呂、入れてないのかな。スーツの肩のところにちょっぴりフケが落ちてる。でも髪から臭いにおいはしない。もしかして、乾燥肌なの?
「クロちゃん。その女の人がいない時に、君のお家に上がってみたいんだけど、可能かな?」
できるよ! あいつはだいたい昼間はいない。午前中なら確実にだれもいないはず。
でも、鍵がかかってて中には入れないかも。
ぼくがそこまで考えてしょんぼりした時、刑事さんはにっこり笑って「大丈夫!」と僕の頭を撫でてくれた。
「鍵とか開けるの、めっちゃ得意だから。そこらへんはお兄さんにまかせてOK!」
そういって、刑事さんはぼくのあごの下をくすぐった。う、そこ、弱いの。ゴロゴロ言っちゃうう。
この人、ぜったいネコ好きだな。っていうか、動物全般好きなんだろうなあ。
この笑顔の前でなら、百獣の王と呼ばれるライオンだって、お腹を見せてゴロゴロ喉を鳴らすかもしれない。
それぐらい、ぼくらを蕩かすやさしい笑顔だった。