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それから何日か後に、またあの「ミカコ」と名乗る女の人が家に来た。今度は、別の男の人を二人連れて。
「まずは検査が必要ですので、これからうちの病院へお連れします」
セーシンカイと名乗る男の人と、ベンゴシと名乗る男の人は、なんだかぼくには良く判らない難しいお話をおばあちゃんにした。
おばあちゃんは、混乱した様子でベンゴシに言った。
「あたしは間違ったこと言ってませんよ。本当に、その人はうちの娘じゃありません、ぜんぜん知らない人なんですったら!」
「ああ、これは娘さんのおっしゃる通り、かなり錯乱状態が進行しているね」
「検査結果によっては、強制入院ということもあり得るな」
男の人たちは、嫌がるおばあちゃんを無理やり「タクシー」という白い箱に乗せた。
白い箱は、ぶぅぅぅんと低く唸りながら動き出し、おばあちゃんをどこかへ連れて行ってしまった。
ひとり残ったミカコと名乗る女の人は、薄いピンク色の長方形の板に向かって一人でずーっと喋ってた。
「うん、そう。とりあえず病院で検査を受けさせることにしたから。……そうね、いずれは施設に入ってもらうことになるんだから、そっちの手続きも早めにお願い」
おばあちゃんをどこへやったんだ! ぼくは怒って、毛を逆立て、ミカコに向かってフーッ! と威嚇音を発した。
「いやだ。猫なんかいちゃ邪魔よ。あっちへおいき! ほらほら、でていきな!」
ここはぼくとおばあちゃんのうちなんだぞ。お前こそ出てけ!
足に掻きついて爪を立ててやったら、ミカコは悲鳴を上げながらぼくを蹴った。
「最悪! 雑菌でも入ったらどうすんの! 保健所に言って捕獲させるわよ!」
ホケンジョ、という単語はぼくも知ってる。近所で野良ネコ生活していたチャトラもミケも、そいつらに捕まって殺されちゃったんだって、ボス猫のシロじいが言ってた。
大変だ、つかまったらぼくも死んじゃう!
ぼくは、おばあちゃんがいつも薄く開けておいてくれた和室の窓の隙間から外へ逃げた。
その日以来、ぼくとおばあちゃんは家に帰れなくなってしまった。