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おばあちゃんとぼくの平和な暮らしは、ある日とつぜん壊れてしまった
ぼくの名前はクロっていうんだ。全身真っ黒な毛色の猫だからね。
ぼくは「おばあちゃん」のお家で暮らしてる。おばあちゃんは、ぼくが赤ん坊ネコの頃に拾って育ててくれた人だ。
ぼくたちはずっとふたり(ひとりといっぴき?)暮らしをしてる。もう何年も前からね。
二階建ての大きなおうちは、おばあちゃんの旦那さんが、よんじゅーねんぐらい前に建てたんだって。
おばあちゃんには子供がひとりいたんだけれど、にじゅう年以上も前に家を出てったきり、ぜんぜん帰ってこないみたい。
おばあちゃん、寂しいのかな。でも、ぼくがいっしょだから平気だよね?
「クロー、おはよう。ごはんあげようねえ」
ぼくはいつもおばあちゃんといっしょの寝床で寝てて、起きる時もいっしょなのだ。
おばあちゃんは朝起きるとお布団を畳んで、それからぼくにカリカリのおいしいごはんをくれる。
「トイレも掃除しないとね」
ぼくがお皿に盛られたマグロ味のカリカリを食べてる間に、おばあちゃんはぼく用のトイレをきれいに掃除して、それから自分の朝ごはんを作り始める。
ゆで卵とパンと紅茶。毎日おんなじメニュー。たまに、ヨーグルトがついたりバナナがついたりする。
「さて、今日はお洗濯しようかねえ、シーツも変えて。あんたのおざぶのカバーもきれいに洗おうか」
ぼくのお気に入りのまんまるクッション。縁側でひなたぼっこしながらその上で寝るの。気持ちいいんだ。
「お日様にあてたら気持ちよくなるよ。今日はいい天気になりそう」
大好きなおばあちゃん。ゆっくりと紅茶を飲みながら新聞を読むおばあちゃんの膝の上に乗ると、おばあちゃんは優しくぼくの背中を撫でてくれる。
「かわいいねえ。クロはいいこだねえ」
うん、ぼくいいこにするよ。だから、ずーっと一緒にいてね。
ゴロゴロと喉を鳴らすと、おばあちゃんは嬉しそうな顔になる。
そんなお婆ちゃんを見て、ぼくも嬉しくなる。だいすき。
ずっと、ずーっと、こんな日が続けばいいと思う。
でも、ある日、ぼくとおばあちゃんの生活は一変したんだ。