ACT.91 レオーネたちの戦い
窮地に陥った時、新たな力が覚醒してパワーアップする。
──というのはあまりに出来すぎた話だと思うが、実際問題転生者を相手にする場合は案外そんな展開が多く存在する。
その正体は後がなくなったが故の、死に物狂いから生まれた産物であり、厳密にはパワーアップとは言いきれないのだが。
しかして、追い詰められた転生者が予想を超えた覚醒をする場合は多い。
異能に対しての練度が低い転生者ほど、その伸び代は多く──。
「くぁっ!」
絞めらた口から異音が漏れたその時、組み敷かれた転生者の右腕からも異音が生じた。
硬い骨と筋肉が軋む音──否、変形する音。
人体を異形へと変化させることができなかった転生者は、この窮地に組み敷かれて動かせない右腕の関節を増やした。
関節を無理矢理増やしたその右腕は蛇のように拘束を脱する。
「まっず」
そしてその腕は縄を持つレオーネへ。
対するレオーネは、全身をフルに使って関節技と絞殺をこなしている為、身動き一つ取れない。
突如沸いたその窮地に、咄嗟に姿勢を変えようとしたレオーネだったが。
蛇のように迫る右腕に、急いで駆けつけたライが飛びかかった。
「ライくん!?」
蛇のようにのたうつソレを、全身を使って抑え込むライ。
「僕が抑えるので、レオーネさんは続けて!」
一人で腕一本を抑え込むのは本来なら容易いだろうが、ライも負傷済み。
折れた利き腕が激痛を発し、思わず顔が歪む。
「──長くは、無理かもしれないので」
レオーネは更に縄を咥えた首を逸らし、強く強く首を絞める。
次第に、転生者の抵抗が弱まる。
そして二人が勝利を確信した時、不意に転生者の顔を覆い隠していた仮面が外れる。
隠されていたのは、幼い少年の顔。
それこそあの日の、レオーネの弟アベルと年の変わらないくらいの。
瞬間、レオーネに動揺が走り絞殺の手が緩む。
謎の発汗と手の震えが起こる、視界が揺らぐ、吐き気が込み上げる。
──意識が遠のく。
「──レオーネさん、レオーネ!!」
彼女の遠のく意識にライの叱責が飛ぶ。
「貴方がやるんじゃないんですか!」
その言葉に、彼女は最後の意地を見せる。
視界は霞む、手足は震える、意識も朦朧として全てを投げ出したい衝動に駆られる。
──けど。
これが、これだけがレオーネの在り方だから。
いつか弟を殺す為だけに、生きているのだから。
「ぃぃぃいいいい!!!!」
縄を咥えたまま、彼女は叫ぶ。
自身の全てを絞り出すように、縄を引き締める。
そして──。
「か、ひゅ」
──呆気ない断末魔を漏らして、転生者の身体から力が抜け落ちた。




