ACT.90 レオーネの戦い(Ⅱ)
彼女が取り出したのは、一本の縄だった。
そしてただ通常の縄ではない。
複数素材の繊維を編んで組み上げられた、隣国の大型船で使用される非常に頑強で劣化しづらい特殊な縄であった。
これが何故廃材としてこのスラムに流れついていたのかはわからない、更にこれを選んだ彼女自身もその状態についてはわかっていない。
レオーネはただ単に、一番頑丈そうだからソレを引ったくって持ってきただけ。
言ってしまえば、ただの偶然。
しかし神に仕える聖騎士、その更に上にあたる粛清騎士である彼女に奇跡は味方した。
取り出したその縄を、肩や関節を経由させて組み敷いた転生者の首にギリギリと巻きつける。
「ア゛、ぎィあ」
危機感に叫ぼうとする転生者だが。
「──ぐ」
レオーネは縄の端を噛み、一気に引き締めた。
縄が転生者の太い首にみちりと巻きつき、肉に食い込む。
首の縄を外さんと手をかけようとするが、転生者の腕はレオーネによって拘束されたままで動かすことが叶わない。
その姿をみて、離れた場所からライはレオーネの意図を知る。
「肉体変化の異能は、肉体的な欠損を補うことができるがそれ以外は補えない」
例えば毒、例えば免疫異常。
単純な作用構造ではない肉体への攻撃に対しての対処は困難だ。
患部を抉り摘出するという対処法もあるだろうが、それは適切な医学知識がないとむしろ逆効果だ。
それと同じように、脳への直接攻撃も対処が厳しい。
酸欠によって脳を殺すことを肉体変化の異能でどう対処しようがあるのか。
肺から脳への酸素供給を首を絞められて止められているのだ。
肉体を欠損させているわけではないから、補う異能ではそもそも解決にならない。
そもそも肉体変化の異能ならば、新たな呼吸器を増設するなり、首の拘束を外す新たな腕を新規に作るなりも出来るはず。
だが、目の前の化け物はそれをしない──出来ない。
ライは元々違和感を感じてはいた。
肉体を自在に変化変化させられる筈の異能を持つにも関わらず、この転生者は人の形を逸脱しきれていない。
欠けた身体を補うことと身体を大柄に増強すること以外に、異能を使っていなかった。
つまり、この転生者は自身の異能を使い切れてない。
彼は、今になってその確証を得た。
だが真に驚くべきなのはレオーネだ。
よくこの土壇場で、ライすら思いつかなかった倒し方を思いついたと裏はライの中から見て感嘆した。
そして化け物の口の端から泡が溢れ始めたあたりて、レオーネは独り言を呟いた。
「──私が一体どれだけの時間を、何千回同じ異能を持つ 弟を殺す練習を、想像をしたと思う!」
その内容は、まるで裏への回答のようでもあった。




