ACT.89 レオーネの戦い(Ⅰ)
衝動に突き動かされるまま、人の流れに逆らって走るレオーネ。
その手に愛用の斧は無く、精神的にも肉体的にも万全の状態とは言い難い。
だが、それでも彼女の足は迷わない。
躊躇いなく、澱みなく、どんどん渦中の方向へと進んでいく。
そして粛清騎士を示す黒鎧すら持たずに駆け出した彼女の瞳は、ようやくライを捉える。
「──ライくん!」
大きな声で年下の少年騎士の名前を呼ぶ。
呼ばれた彼は、早速もうぼろぼろの程であった。
そんな満身創痍なライは、レオーネの姿を見て微かに微笑む。
それはつまり、彼はレオーネのことを信じていたからに他ならない。
あれだけの醜態を、無様を晒しておきながらも彼はレオーネを信じてくれていた。
まだ戦力になると思ってくれていた。
その事実に、レオーネの胸は熱くなった。
だからこそ、その信頼に今応えないのは嘘だろう。
粛清騎士レオーネ・ゴドウェンは、高らかに宣言する。
「お待たせ!」
その宣言の直後、決死の覚悟を決めていたライはあっさりと意を翻して飛び退くように後退する。
「お願いします」
「任された!」
──だが転生者だって間抜けではない。
手負の強敵をみすみす逃すだなんて愚行を犯すわけがない。
ライが逃げる姿勢を見せた瞬間、化け物は両足を沈み込ませるように身を低くする。
大樹のように太いその足を中心に、地面にいくつかの亀裂が生じる。
「ぁぁあああ゛ア゛ア゛ィ!!」
瞬間、有り余る筋力にモノを言わせた大跳躍。
地上十数メートルまで一息に飛び上がり、放物線を描いて落下の速度でライに迫る。
そして両手を組んで作ったハンマーを重力加速エネルギーと共に叩き込──もうとした瞬間、空中で身動きの取れない化け物の鳩尾に別な衝撃が襲いかかった。
訳もわからぬままソレに撃墜された化け物は倒れた自身の身体を起こそうとして──できなかった。
するりと身体を這う様にソレは移動し、化け物の背後を取るとソレそのまま転生者の巨躯を組み敷いたのだ。
化け物は最初ソレは今来た女が何かを投げつけたのかと思ったが、それが間違いであることに今気がついた。
「──捕まえた。ライくんの元には絶対に行かせないし、貴方を生かしてもあげない」
その正体はレオーネ自身であった。
彼女は空中で化け物相手に、タックルをかまして見せたのだ。
そして彼女は背後から関節を決めて化け物を組み敷いた。
彼女は強い力で化け物の自由を奪うと、道すがら廃材から拝借していたあるモノをゆっくりと取り出した。




