ACT.85 最優の交戦(Ⅰ)
ライは木製の警棒を構えたまま、一切の減速をせずに転生者へ突貫する。
手にした警棒は転生者を相手にするには役不足も甚だしい。
「それでもやりようは、ある」
次の瞬間、転生者は血まみれの手を振るって食べ残しをライに向かって投擲する。
血肉の礫が周囲の人々に当たらぬ様にライは警棒で広範囲を打ち払う。
「ここは僕が食い止めますので、皆さんは急いでプロキシマの方へ!」
逃げ惑う人々に避難の指示を出しつつも、視線は
転生者のみを捉えて離さない。
その危険な一挙手一投足を見逃さない。
次の動きを見せる前に、ライは速攻を仕掛ける。
躊躇いを見せずに自身に突っ込んでくるライの姿に、先日出会った女騎士の姿を幻視して一歩後退りをする転生者。
その隙をライは見逃さず、疾走中に空いた左手で地面に落ちていたガラクタをひったくると迷うことなくソレを転生者の方へ天高く放り投げた。
化け物のような姿になっているが、転生者もまた人間であることに変わりない。
攻撃意図のない行動だったとしても、自分に向けて投げられた物を見てしまうのは人間に備わった本能であり、無視できるモノではない。
例えそれがつい先日やられた手法と酷似していたとしても。
むしろ攻撃意図のない投擲であることが、余計にタチが悪い。
自身に向けられた攻撃目的の投擲なら頭で理解するより先に逃げようと反射神経が、防衛本能が働く。
だが、その意図が見えないのなら避けようという意識も本能も働かない。
逆によく見て、観察してしまう本能が働いてしまう。
──それは一秒未満の意識思考の拘束に他ならない。
「──しっ!」
自ら作り出した意識の隙を突いて、懐に入り込んだライは警棒を握り直して転生者の鳩尾に痛烈な刺突を繰り出した。
「がっ!?」
急所の痛みに一瞬身体から力が抜ける。
それを見越したライは、姿勢を低くし警棒で膝の裏を打ち据えて転生者の体勢を崩しにかかった。
──転生者の挙動と逃げ惑う周囲の人々の動きを目で見て脳内で地図を作り、位置情報を把握する。
更に並列して警棒で転生者相手にどう有効打を与えるべきか、与えられるかを計算。
そして、それらを元に戦術プランを構築。
全てを一瞬のうちに、行動を起こしながら考えられるのが粛清騎士ライ・コーンウェルを"最優"たらしめる要因だ。




