ACT.84 その在り方(Ⅱ)
「レオーネの姐さん、大丈夫ですかね」
肋屋を出るライを見送りに立った小男がそう呟く。
事情がわからないなりに彼女の身を案じている彼に対し、ライは敢えて強い声音で答える。
「レオーネさんは大丈夫。彼女が強いことは、先日の戦いっぷりを間近で見た貴方が一番よくわかっているでしょう?」
「それは、そうっすけど」
全面的に納得はいかない。
しかし、ライが言うのなら信じるしかない。
そんなニュアンスで小男が頷く。
「レオーネさんは絶対、すぐにまた立ち上がるさ」
ライの言葉は、自分にも言い聞かせているようでもあった。
「僕は一旦拠点へ戻って、二人ぶんの鎧と武器を回収して来ますからその間よろし──」
その瞬間、ライの台詞が途切れる。
「騎士様?」
粛清騎士に就任して早数年、それ相応の場数を踏んできたライは敏感に空気を感じとっていた。
人々の営みがある街の空気が、死の隣接する混沌の空気に変わったことを。
「──!」
五感を通して異常を感知したライは、瞬時に行動を開始する。
より混沌の気配が濃い方角──悲鳴と尋常ならざる異音の鳴る方角へ疾駆する。
「──活動再開が早い。見込みが甘かったか!」
レオーネと交戦して丸二日も経っていない。
ライはもう少し身を潜めて出方を窺うだろうと予想していたのだが、結果は違った。
「予想以上に堪え性がなかったか転生者がッ!」
進むたびにこちらへ向かって逃げる人々の数が増える。
その人の波をすり抜けながら、腰に吊った武器に手をかける。
手に触れたのは使い慣れた黒刃の片手半剣──ではなく木製の警棒。
武器と鎧は、屯所への潜入に邪魔になると置いてきてある。
代わりにあるのは、見ぐるみ剥いだ際についでに取った憲兵団の基本装備である、ライの肘から手首までくらいの長さの警棒。
転生者と殺し合うには不足もいいところな、心許ない武器。
──いっそ、一旦武器を取りに帰るか。
ライの脳裏に一瞬その考えが掠める。
しかし、結果彼は迷わず、踵を返さずに混沌の最中へ突貫していく。
「その間に沢山の人が死んだらどうするんだ!」
腰に吊った警棒を引き抜き、彼は叫ぶ。
「こっちを見ろ、転生者がっ!!」
警棒を槍の様な型で構えたまま、ライはようやく姿を捉えた怪物のような転生者に向かっていった。




