ACT.81 ある化け物の話(Ⅰ)
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プロキシマに隣接するスラム街の更に端。
秩序無き掃き溜めの中でも殊更に無秩序で治安の悪い区域があった。
昼夜問わず彼方此方で怒声と悲鳴が鳴り響き、今日の略奪者が明日の朝には物言わぬ様になる。
家どころか、雨風を凌げる場所すら持たぬ異邦人──いや違法人たちの住まう餓鬼の國。
ただでさえ人の出入りが激しいスラム街で更に人の動きが激しく、誰もが誰のことも知らないその場所にその子供は居た。
「ぐ、ぐぅ、う」
苦しげな唸り声を上げるのは、数え年十歳にも満たない少年だった。
粗末なボロ布にその小柄な体躯を押し込み、ガラクタの山の隅で震えていた。
少年には両親が居ない。
隣国で起こった紛争で帰る場所を無くし、命からがら王国へ逃れた時にはぐれてしまったからだ。
空腹に喘ぎながら、少年は涙を流す。
「どうして、どうしてこんなことに」
──居場所が欲しかった、守ってくれる人が欲しかった。
だからこそ、あの話に乗ったのだ。
あの人の言うとおりにすれば、自分一人ではどうにも出来なかったこの国での居住権がもらえると。
住む家も、十分な食事も保証してやると
断る理由も、選択肢も存在しなかった。
だが、現実は過酷であった。
「こんなことしたくないのに」
沢山の人を傷付けた、■べた。
やりたくなんてなかった。
それでも、やるしかなかった。
痛かった、苦しかった。
あのお姉さんのが特に痛かった。
これは罰なのかもしれないと、少年は思った。
「──調子に乗って、バイクで子供を引いたから」
かつて、この姿ではなかった頃。
悪ぶりたくて、友達と連んで盗んだバイクを乗り回し。
そして、運悪く小さな子供を引いた。
もしかした、この今は前世の罰なのかもしれない。
「あ、あぁ、駄目だ」
──空腹が酷い。
異能で身体を治した後は、特に。
身体が肉を求めてる。
失った血肉を補えと。
そして、人の血肉を補うに一番良い食べ物は何か。
それは──。
「しばらく大人しくしないと危ないのは、わかってるけど」
通りをながめる。
沢山の人が歩いていた。
口から涎が溢れ出すのを、もう止められない。
傍らから、仮面を取り出す。
異能で顔を変えるのが出来ない少年の、必需品だ。
「お腹、空いた」
──そして転生者が、数日ぶりに激しい咆哮をあげた。




