ACT.79 呪縛と覚悟
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プロキシマ市街地の路地裏にて、ライは担いでいたレオーネを下ろして地面に横たえる。
「レオーネさん、しっかり!」
屯所を脱出してしばらくしてから肉体の主導権を表に戻した。
彼の視点では、俺がやった行動は危機的状況で反射的に動いたみたいな感じになっていると思う。
そんな彼が、憔悴したレオーネに呼びかける。
レオーネとライの付き合いは割と長い部類であるが、ここまで弱った彼女を見たのは初めてであった。
つづけて強く呼びかけると、彼女がうっすらと目を開ける。
「だ、いじょう」
「大丈夫ではないでしょう!」
ライは、彼女の口癖のような"大丈夫"を否定する。
「何が、ありましたか」
彼にはレオーネの急な、そして深刻な不調の原因がわからなかった。
そして彼女の口から出た言葉は、ライにとっては意外なモノだった。
「少し、トラウマがね」
心的外傷という言葉は、ライ自身も知っている。
そもそも、ライたちは聖教会に所属する聖騎士。
一端の実力のある騎士でありながら、国ではなく宗教に仕える者というのはそれぞれ訳アリであるというのは少なくない。
心的外傷を負った聖騎士だってライは何人も知っていた。
──だが、ライより長く粛清騎士を務める彼女がここまで大きな心的外傷を負っているというのは意外であった。
「昔、弟がいてね」
「はい」
「その弟と、今回の転生者が同じ異能みたいでね」
レオーネの言葉に、ライは息を呑む。
そんな彼に構わず、レオーネは言葉を続ける。
「おそらく、敵の異能は肉体改造。再生じゃなくて、傷を再構築してる。そして、失った血肉は──」
「──外部から補給する」
ライの回答に、レオーネが顔を歪めて首肯する。
その様子に彼は心的外傷の原因を見た気がした。
「今回は僕ひとりで討伐に向かいます」
レオーネは今まともに戦える状態ではない。
だからこそ、そう言って立ち上がろうとしたライをレオーネが足を掴んで止める。
「ライくん、待って」
横たわった姿勢から少し身を起こして、彼女はライに縋る。
かけた声は、今だ弱々しい。
しかし、その声には微かな覚悟が滲んでいた。
「──私に、殺させて」
「それ、は」
ここで彼女の手を振り解くのは、ライにとって造作もない。
だが、そんなことは彼にはできなかった。
「今、奴を殺せないと私は──」
そして次の瞬間、彼女は驚くべきことを言い放った。
「──次に会った時、弟を殺せない」




